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得体の知れない

廃教会に足を踏み入れた白蛇は、僕と目が合うとニイッと笑みを浮かべる。

口の形だけで、「また会ったね」と伝えた彼の仕草は妙に強く僕の頭に印象付けられた。


「あの人なんか怖いね」


小声で溢れたノノの声に、僕は声を出さずに頷いて肯定を返す。

ノノの予感は鋭い。

アイツは油断ならないと僕も思っているから。


「お前誰?」


白蛇アルドンを知らない冒険者の一人が疑問を投げかけると、彼は気分を害した様子を見せる事なく感情の読めない不気味さでゆっくり笑みを作った。

何を言う気だろうか。

僕が手に汗を握りながら白蛇の一挙一動を見逃さまいと目を凝らしている間に、呼吸を落ち着けたジノが口をひらく。


「彼は王都の冒険者アルドン。

名前より白蛇の名の方が冒険者の間だと通じるよな」


ジノの説明に、声を上げた冒険者は一歩後ずさる。

白蛇の名は彼の耳にも届いていた様で、後ずさったという事は彼にとっての白蛇は格上の油断ならない相手だという判断で。

その判断は僕も間違っていないと思った。


「白蛇……」

「何でこんなとこに……」

「白蛇があのガキに目をつけているのか?」


冒険者の間にざわめきが広がり、廃教会の子供達は兄貴分等の動揺を見て緊張した様子で成り行きを見守る。


「んー。自己紹介もいいんだけど。

僕の質問にも答えてほしいな」


ぐるりとジノを向いた白蛇が、片手をジノの腕の無い肩に向けゆっくりあげていく様子を見ながら。

ジノは落ち着いた姿で向き合い答えを返す。


「……生憎、俺も居場所を探してる最中で。

ガキの居場所はわからない。

むしろ何処にいるかこっちが聞きたいくらいには手当たりしだい探し回ってきた」


落ち着いて答えるジノをじっと見ながら、白蛇は腕のないジノの袖口を片手で探る。


「ふうん。

嘘、じゃあ、ないのかなぁ?

ねえ君って片腕ないの?」

「ない。貴族の屋敷でぶった斬られてる」


ハッキリ言い切るジノに、白蛇はニヤニヤ笑いだし。


「貴族の屋敷ってポチブ?

可哀想に。僕が君の為に仕返しをしてあげようか?」

「余計な手出しはいらん。

ほっといてくれ。

俺の問題だし、もう終わった事だから」


ジノの答えはますます彼を喜ばした様で、彼は縦長の黒い目を見開き笑い始めた。

カッカッカッカッと震えながら奇妙に笑う姿に、僕はぞくりと背中に冷たい汗が流れていくのを感じる。


「ジノ。

いいね!君。

最高だ気に入ったよ」


ジノに好意を言い出した白蛇に、ジノは冷めた目を向けたまま。

彼等の側に立つエルザは白蛇にとって空気なのか。絡む様子もなく、彼女も黙ってじっと二人の会話の成り行きを見つめているだけ。


「んー。疑ってるのかな?

本当に僕は君の事気に入っちゃったんだけど。

ねぇ、ジノ。

僕は貴族にも顔がきくよ」

「そうか」


さして感情を乗せないジノの返答に、白蛇はニマーッと笑みをつくり。

何かしでかす気かと、僕はノノの隣で身を固くしたけれど。


意外にも彼は廃教会に背中を向けた。


「僕は少年を探しに行くよ。

見つけたら君にも教えてあげるね」

「それは助かる」


そう言って、白蛇は予想外にあっさり廃教会を出て行った。

「アイツは何だったんだ?」と、白蛇が消えた途端に廃教会も騒がしくなっていく。


こわかった。

身なりから感じる温和な外見とは別に、得体のしれない緊張を与える白蛇は酷くアンバランスで。

恐怖と緊張から僕は冷や汗を流していた。

本人がいなくなり、緊張から解放されたと同時。

ようやく止めていた呼吸を再開し、息を吐き出す。


凄いなジノは。

あいつと正面から接して平然としていたなんて……。

僕が視線を向けると。

落ち着いて見えていたジノは力を抜く様に廃教会の壁に崩れる様に寄りかかったところで。

側にいたエルザが「緊張したね」と声をかけると、ジノも僕の様にフーッと息をはきだしていた。


彼も緊張していたのか。

そうとは感じさせない立派な姿に、僕はやっぱりジノは凄いなと尊敬の目を向けてしまう。





「アンタはたいした男だよ」


ヒョロリとしたジノの頭に、エルザの手が添えられ。

彼女は小さなティオにするようにわしゃわしゃ上背のあるジノの頭を遠慮なく混ぜくりながら撫で始めた。


俯くジノの耳が赤いのは、彼の照れ隠しだろうか。

僕は、ジノにとってのエルザの存在も大切なものである気がしたから。

僕から見て立派なジノも、同じようにエルザを慕っている姿が嬉しくて。

何だかくすぐったくなってしまって、緊張から緩んでいた身体がぽかぽかあたたまってきた様な気持ちになってくるから不思議だった。






しばらく壁に身を預けていたジノは、落ち着いたのか。

ふらふら立ちあがり、太陽が傾き始めたロカの街を見据えて再び足を動かし始める。


「あーそろそろ探しに出てくるわ」


言うがや否やすぐに背中を向けた彼に、ロッツォがこの機会を逃してたまるかと噛み付く様に「手伝いは?!」と、投げかけるが。

「いらねぇ。日が落ちるから寝ててくれ」と、ジノは言い残し、ウィガロと白蛇と同じようにロカの街に消えていく。


「まぁ、見かけたら俺等もジノに伝えてやるよ」と、今度は冒険者等も動き出し。

廃教会にはあっという間に静けさが訪れた。







「ん、と。

そうだな。

俺等は、新しい寝床の割り振りはじめっか」


ジノの事は過剰に気遣うロッツォは、魔法使いの少年に対して同じ熱量はない。

ジノに言われた通りに夜を迎える準備を始めてしまう彼の言葉は、廃教会のメンバーに仁義なき戦いの火蓋を切って落とすことになった。


「どう決めるか。

年長者順にいくか、シンプルにジャンケンすっか、どうすっかな?」


「ロッツォ兄年長者順に」

「なんでよ年少者から順がいい」

「いや、公平にジャンケンしよ」


一気に再び騒がしくなった廃教会に、ロッツォの声が響き渡る。


「んー。

よし、決めた。

やるぞー、ジーンケーン」


ギラギラした拳の3択の運の戦いの中にはノノの姿もあって。

結果次第では彼女のご機嫌はいいものにはならないだろう。




僕とエルザは勝敗を見るより先に廃教会を抜け出した。

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