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白蛇と衛兵

「ティオはもう寝床にいきな」


そう言って駆け出したエルザは、ウィガロが向かったと予想できるギルドハウスを目指すつもりだろうか。


僕はエルザの言葉に頷きながらも、素直に従うつもりはなく。

ゆっくりと西の空の赤で染められつつあるロカの街に一人足を踏み出して進む。


向かう先は衛兵の詰め所。

中に入るつもりはないけれど、日が落ち切る前に鳥の目を借りて様子をできるだけ見ておきたいとは思っている。




僕は人気の少ない商業区の裏通りまででると、大き伸びた櫟木の木を見つけてよじ登った。

ある程度剪定されながら育ったようで、下にある枝が少なく、登るには足をかける場所が少ない木だけれど、僕は肩の狼の力を借りてするする難なく登って行く。

木の中腹までくれば後は立派な枝が生い茂っていたから、僕の小さな身体をゆっくりと預けるスペースに困る事がない場所で有難い。




僕は同じ木に止まっていた小鳥をみながら、ゆっくりゆっくり集中力を高めていく。

まずは衛兵の詰め所をみて、それからギルドの様子も確認しておきたいけろど。

夜が来るまであまり時間がない事を考えると、ギルドの様子は直接見に行った方がいいかもしれない。


僕の視界は小さな僕の身体を離れると、小鳥の視界を借りて飛び立った。







衛兵の詰め所では平時の落ち着きがなく、あわだだしく動き回る衛兵の姿を確認できた。

どうやら何かあったのは間違いない様子で。

止まり木を見つけて着地した僕は、彼等の会話に耳をすませる。


「いったいどうやって抜け出したんだ?」

「見張の担当は何やっていたんだ」

「本当に抜け出したのか?まだここにいるかも知れない。見落としは無いかよく探せ」

「冒険者からジノっていう受付のヤロウが連れ出したって噂になってるって聞いたぞ。

そいつってこないだ黒騎士が連れ出した孤児だよな」

「たかがギルド受付に連れ出せるほど緩い場所じゃ無いんだが、いっそそいつに責任をとらせるか?」

「いや、それだとたかがギルド職員と孤児のガキに衛兵団は何やってんだと言われちまう」

「確かにな」

「それより子供の身柄を早く確保しなければ。白蛇に何と言われるか分からないぞ」


中々酷い内容の会話に、僕は気分が悪くなる。

一度目のモンスターの活躍で必死になっていた衛兵の姿を覚えているから、今聞いた会話が彼等の総意ではないと思いつつも歓迎できない言葉の羅列に嫌になってくる。


腐ってると思った。


どこまでがそうかは分からないけれど、貴族の意向で動き、孤児に人らしい扱いをしない衛兵の空気が僕は受け入れられないと思う。


ゆっくりしていたら本当にジノが危うくなる気がして、僕は鳥の視界を閉じようとした時。

衛兵の詰め所に、白蛇が現れるのをみた。


「僕がどうしたんだい?」


悪意を感じさせないようないつもの物腰で衛兵の詰め所に静止されることもなく入り込んだ白蛇は、ギクリと固まる衛兵等を見渡しながらゆっくり距離をつめていく。


「いや、その……」

「聞いたよ。

預けてた彼、脱走したんだよね」


知っていたのか、と。驚く衛兵達を感情がわからない態度で見ている白蛇は。


「あぁ、親切な冒険者がいてね。

丁寧に僕に君たちの失態を教えてくれたんだよ」


失態とはっきり言われた衛兵は、戸惑う者と悔しそうに顔を歪めた者とできっぱりと別れた。

前者は白蛇の異質さを見抜き、後者は白蛇の恐ろしさに気づかず侮っている者なのか。

僕にはわからないけれど、反抗的な目で白蛇を睨みつけ今にも掴みかかりそうな衛兵の態度には不味いと悪い予感を感じる。


「失態、本当にそうでしょうか。

そもそも独房を託児所代わりに使う事がおかしいと思いませんか?

子供も脱走を手助けした人間がいるみたいなので我々はそこから探りを入れるつもりですよ」


噛み付く様に話す衛兵の言葉に、衛兵隊員は、ハラハラ見守る隊員と、言ってやれと言わんばかりの目で支持する隊員とに別れているから。

今の彼の言葉がここにいる衛兵の総意ではない事は予想できた。

しかし、彼の言葉は白蛇にとって歓迎できない言葉だったようで。


片手を広げて顔面に押し当て、腰を逸らした姿になりカッカッカッカッと不気味に笑い声をあげた白蛇は。


「言うねぇ。

でも、残念。

君が言った手助けした人はジノの事だよね。

彼は無実だよ。

むしろ、ジノを犯人に仕立て上げたタチの悪いのがいるみたいなんだけど。

そんな事も探れていない君たち衛兵は無能者の集まり?」


「……っ」


白蛇からの予想外の言葉に発言した衛兵は青筋を立てて黙り込んだ。

米神に浮き上がった血管が、短気に見える彼の怒りを感じさせ、彼の発言を支持する様に見ていた仲間からも白蛇への敵意を感じ。


「あ、だよね。

だからあの子も脱走できちゃった」


ニヤッと笑みを浮かべ言い切ってしまった白蛇に、とうとう短気な衛兵が痺れをきらす。


「ふざけやがって!」

「おい!バカやめろ」


白蛇までの短い距離を走って詰め寄った彼は、静止する仲間の声を無視して白蛇の胸ぐらに手を伸ばし。


それは一瞬の事だった。



胸ぐらを掴み上げられる白蛇の姿を想像した人間がどれだけいただろうか。

あるいは別の結末を想像したか。


けれども、僕を含め、ここにいる誰もが想像もできなかった事が起こる。





短気な衛兵が白蛇に触れる前、彼は血飛沫をあげ崩れる様に倒れ込んだのだ。






「ジョージ!」


倒れた隊員の名前を呼ぶ衛兵の声はまるで悲鳴の様に響き。


崩れ落ちた隊員に駆け寄った。

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