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王都の冒険者アルドン

ロカの街の衛兵の詰め所。

その一角には、犯罪者を一時的に隔離しておく牢獄が備えられている。





「おい!いいかげんにここから出せよ!」


声変わりもまだ先の、少年の怒鳴り声が響く牢獄の前で、衛兵は困ったように来訪者を振り向き。


「と、始終この調子でして。

反省した様子はみえません」


低姿勢に対応する衛兵に、来訪者のアルドンはさして興味無さそうに頷く。


「そうか大変だね。

ロカってそれなりの街だと思っていたけど田舎なのかな?

彼の素行よくないね」


アルドンの言葉に衛兵の男は冷や汗を浮かべながら身振り手振りで否定し。


「いえ、彼は孤児でして。

街の者も彼等には手を焼いておりまして……彼等をこの街の子供と呼ぶには品位も教養もなく」

「孤児に罪はないでしょ?

それって支援も出来ない田舎町ってところかな。

ポチブ家も大したことがないみたいだね」

「……っ」


容赦なく切り捨てるアルドンの言葉に衛兵は押され気味になりながら必死で喰らいつくが、アルドンの言葉はとまらない。

アルドンに対してここまで衛兵が低姿勢を取るのにも理由があり。


「今夜も屋敷に行って釘さしておこうかな?」


ちょっと散歩にでもいこうかな?という気軽さでロカの街を納める最大貴族のポチブ家に向かうというアルドンに、衛兵は懇願する目をして口をひらく。


「あ、あのアルドン様。

昨日は本当に失礼致しました。

あなた様のことをよく知らず酷い扱いをしてしまって、本当に申し訳ありません」

「いいよ。僕は普段王都で過ごしているから知らなかったのも仕方がない。

まぁ、僕の事を知る有能な子もギルド職員の中にいたみたいだけど」


アルドンの言葉に衛兵は目に見えて安堵しつつも、チクリと有能ではないと批判も混ぜられ背中に冷たい汗を流した。

君たち衛兵は有能じゃないね、とアルドンの言葉には嫌味が隠れている。


「有能っていえば、ギルドの子も彼に会いに来てるんだって?」


独房にいれられた少年に面会を求めるジノの事を問うアルドンに、衛兵は頷く。


「はい。ですがアルドン様以外の面会は受け付けぬよう通達してありますので」

「へえ。彼はこの子に会えてないんだ。

せっかく会いにきてるのに可哀想だね」


アルドンの反応に焦り、「面会を許可した方が?」と確認する衛兵に、アルドンは首を振り否定を返した。

可哀想とは言葉だけで、彼の気持ちは乗っていなかった様子。



本当にこの男は掴みどころのないよくわからない人間だと衛兵は頭を悩ませる。

2度目のモンスター襲来の時に急に現れたアルドンは、冒険者や群衆に危害を加えたと聞き暴走する少年魔法使いを捕らえた衛兵に向かい。

「その子を僕に譲る気はないかい?」とふざけた問いかけをしてきた。


素性も知れない冒険者風の男の戯言に無視を決め込んだ衛兵団はそのまま少年を詰め所までひっぱり独房に投げ込んだものの。

アルドンはひょうひょうとした態度のまま衛兵団についてきてしまっていたのだ。

「こいつも独房に纏めて突っ込め」と判断した衛兵団だったが、アルドンは彼らの拘束を難なくかわし、更には自分は王都の冒険者で貴族の縁者だと告げ。


今夜丁度ポチブの屋敷に顔を出しに行くといいだしてしまう。

「ふざけるな!」と再び拘束しようとしたものの。

アルドンの姿を捉える事も出来ずに見失い、時間をあけて夜遅くにポチブの従者を引き連れ再び詰め所を訪れた時には衛兵団を驚かせた。


アルドンが白蛇と呼ばれる王都の冒険者で、貴族の縁者だと語ったポチブの従者はアルドンに促されとっとと屋敷への帰路につき。

どうやら衛兵団の不手際をポチブの屋敷では報告しなかった様子の彼に理由を尋ねると。


「だってその方が君たち僕の言う事聞いてくれるでしょ?」と、嫌な笑顔で言い切って。

弱みは握れるだけ握っておくのだとアルドンは言った。


そんな彼の扱いに戸惑いながらも、ポチブからの後援で動く衛兵団にとってかの家からの言葉は絶対。

信頼を失ってしまえば衛兵でいる事は叶わなくなってしまうどころか、悪ければ衛兵団そのものの存続も危うくなる。

だから衛兵団はアルドンの気まぐれに感謝し、彼の機嫌をうかがいながら、彼の言われるがままになり。




「ありがとうございます。あの……アルドン様に当初酷く対応してしまった事は、ポチブ様には……その……」


歯切れ悪く問う衛兵。

アルドンは衛兵をみて、それから牢獄の少年に視線を移すと。


「君たちが僕を排除しようとしたって知られたら不味いよね。

いいよ。黙っていてあげる」


アルドンからの承諾を得て、衛兵は今度こそ肩の力を抜いたが、彼の言葉はまだ終わらない。


「条件がある」


アルドンのいう条件の言葉に、衛兵の喉がゆっくり唾を飲み込み音を立てた。


「僕はブティ家がギルドに出してる依頼に興味が出てね。

せっかくロカに来たんだから冒険者の仕事もしてみようかと思ってるんだ」

「そうですか……」

「それで、当日まで彼をここに泊めてもらえたら助かるんだけどどうかな?」


ここ、とは。


衛兵は瞬きし、独房の少年を振り返る。

そして再びアルドンに視線を戻し。


「あ、あの……。期限は?」

「一度で聞いて欲しいな。

ブティ家の出した依頼の遂行日までだよ。

彼は凄い魔法使いだって噂になったくらいの子だからね。

僕はその依頼に彼を連れて行きたいけど、ほら。

ロカでは僕も宿をとるから」


泊まる場所がないから宜しく、と言うアルドンに、少年を自分の確保した宿屋に招く気はないようで。


しかし、この独房は大人でも数日も閉じ込められれば生気を失い不安定になり子供を宿代わりに泊めてい居場所ではない。


「いえ、あの……ここに泊まらせたままというのは、あの気の強い少年でも流石に正気では居られないのでは?」


気を使いながら問う衛兵に、アルドンは内心を読めない笑顔を浮かべ。


「わかってないね?

預かるのは君。

君が責任を持って彼を預かるんだよ」


エルドンの言葉に、衛兵は目を見開き、声の出ない口を数度開閉させ、ようやく「そんな無茶な……」と、吐き出したが。

「頼んだよ」とエルドンからは無責任な依頼を受け、彼は詰め所を出ていってしまう。


残ったのは独房で騒ぐ手枷のつけられた孤児の少年。

独房をひらけば途端に逃げ出しそうな彼を見送れば、エルドンはポチブに何を言うか分からない。

逃さず、生かせと、衛兵に都合よくアルドンは少年を押し付けたのだ。


このまま独房に入れておくのはよくないだろう。

ならどうするか。

衛兵は、アルドンのいなくなった独房から出て行き、独房には一人にされた少年の怒号だけがひびいていた。

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