南への志願者
予想に反しダリモア領への護衛依頼には破格の金額が提示されたこもあり、多くの冒険者の興味を惹く事になった。
「冒険者一人につき成功報酬金貨2枚はやべぇな。
依頼内容はきな臭いが、中級冒険者でも一年かけて金貨1枚稼ぐのがやっとな俺たちに、この報酬額は破格すぎる」
そう語る壮年の冒険者にウィガロは眉を顰めた。
「だなぁ俺もわかってんだよ美味しい依頼だって。でもなぁ」
考えこむ彼を冒険者達は嘲笑う。
「前払いで銀貨3枚だとよ。合わせて金貨2枚と銀貨3枚だ。前払い金だけでも美味しいぜ」
「思いっきりがねぇなぁ腰抜け。
俺ら危ねぇ橋は何度も渡ってきてんだ危険は今更だろ」
「お前がいかねぇでも俺は行くぜ」
「行かないで後で後悔すんなよ」
ウィガロの周りの冒険者は参加を決めた者ばかり。
ウィガロもどうだと声をかけてはくれるが、彼は悩みながら頭を両手で抱えて「うーんうーんと」うなり声をあげる。
悩んでいるのはエルザからの助言もあるけれど、彼自身の勘も行くなと告げていて。
「なぁ、これ護衛じゃなくて戦争ふっかけるみたいな呼び込み方じゃね?
お前ら生きて帰んなきゃ金貨2枚貰えないのはわかってる?」
ウィガロの指摘に、壮年の冒険者はガハガハ笑い出し。
「だろうなぁ。でも、まぁ。
護衛でも戦争でも人斬る事に違いはねぇだろ」
壮年の冒険者が出したその答えに、ウィガロの目が細まり。
彼を軽蔑した目で見返した。
「はぁ?まさか本気で言ってる?盗賊斬るのと、真っ当に生きてる住人斬るのと一緒って言ってんの分かってて?」
立ち上がり詰め寄るウィガロに、男も立ち上がりウィガロの胸ぐらを掴み上げ睨みつける。
「おい。
若造が生いってんじゃねぇぞ!
俺らも金はいるんだよ。
手段選んでられない時もある」
「嘘だろジェノンお前老いて頭が毒されてんじゃねーの?」
立ち上がって睨み合う両者。
ウィガロは胸ぐらを掴まれたまま。
壮年の冒険者より上回る身長で見下ろしながらジェノンと呼んだ彼の目を睨みつけすごむ。
「見誤るな。やめとけよジジイ」
「クソ坊主が。
お前に声かけたのは間違いだったな。
もうお前に声をかけるこたぁねぇ勝手にしろ」
ジェノンが強く押し出した威力は強く。
ウィガロは壁まで吹っ飛ばされ、よたつきながらジェノンを睨み返した。
「ってーな。クソジジイ!」
殴りかかるウィガロに、ジェノンとジェノンの連れた冒険者達は応戦し。
多勢に無勢でウィガロはコテンパンにのされてしまう。
「で、そのザマかい?」
呆れて問うエルザに、机に頭を突っ伏したウィガロが力無く答える。
「だってよぉ……。あいつ頭かってぇからよぉ」
冷たい目を向けるエルザに、ジノも呆れた顔で受付カウンターから出てきてウィガロの隣に腰かけた。
「ウィガロ兄。本当に受理していいのか?」
ジノがウィガロの頭の隣に置いたのは、ブティ家の依頼に志願するというウィガロの承諾書で。
ウィガロは頭をふせたままのろのろジノに向けるとと、死んだ目で承諾書を見て再び机に頭を向け唸り声をあげた。
「ぅあージノちゃん何でそんな紙掲示板に貼っちゃったの?阿呆どもが喜んで群がっちゃったでしょうが」
とうとうジノに悪態付き始めたウィガロに、エルザは肩を下げて彼らのテーブルから距離をとる。
ギルド受付見習いのジノに愚痴った所で貴族からの依頼書が消えてなくなる訳がない。
それが分かっている筈なのに、愚痴愚痴うるさいウィガロ。
彼も不本意なのだというなら、受けなければいいのに。
全く男の絆ってのも面倒なもんだと言わんばかりにすっかり呆れてしまった様子の彼女は、真っ直ぐ酒場のカウンターに足を進めて離れて行ってしまう。
そんなエルザの後ろ姿を目で追いながら、ジノもまたため息をこぼして。
「まさか、ウィガロの兄貴の志願書の受理をする羽目になるとは思わなかった」
ジノの言葉が机につっぷしたウィガロの後頭部に突き刺さる。
「うぅ……」と呻き声をあげるものの。
ウィガロから撤回の言葉は聞き出せないままで。
「本当にいいんだな?」
しつこく確認をとるジノに、ウィガロはのろのろ机から頭を起こす。
「あぁ頼むわ。ジェノンには駆け出しの時から世話になってっし。
あのジジイが俺を引き込みたいのは頼られてる証だしなぁ」
「分かった」
拳でぶつかった冒険者の決断は清い。
嫌だ嫌だと愚痴をこぼしながらも意思を変える様子がないウィガロにジノもそれ以上は何も言わなかった。
「アンタ、死ぬ前にアタシに借りてる借金返してから行ってよね」
エールを両手に抱えたエルザが戻ってきて、ウィガロの前にジョッキを乱暴な仕草で差し出す。
「縁起でもねぇ事いうなよ!生きて帰ってくるわ!」
咄嗟に言い返すウィガロは素直にジョッキを受け取り、豪快にエルザのジョッキに打ち付け喉に一気に傾けた。
「奢りじゃないから、次はアタシにアンタが返すんだよ」
エルザの言葉にウィガロは頭をボリボリかきながら。
「借金ふやしてんじゃねぇよ。死ぬにしても死に切れねぇわ」
ウィガロの抱えたジョッキに映る彼の顔は、波打つエールの水面に揺れていた。




