二人目の少年
弾丸の様にわんこに跨ったまま正面衝突してしまった僕は、ぶつかったと同時、当然の様にわんこの背中から転がり落ちた。
ゴロゴロ石畳を回転しながら巨漢の冒険者の足にぶつかって勢いをとめた僕は、僕の腰ほどもある逞しい腕に掴み起こされ。
「なんだぁ?またガキが1匹増えたぞ」
「魔法使いのお友達か?」
「いんや、ウィガロとエルザが可愛がってるガキだな」
「いつから戦場がガキの遊び場になったんだ?」
短い時間に自分の意思ではなく変わる景色に、僕は目をぐるぐるさせながら必死に状況の整理に努力を続けているけれど、頭はフラフラで。
掴み起こされたと同時に片足に走った激痛で、僕の身体を支える足が地面を踏み締めた事を強制的に理解して、ようやく僕の平衡感覚は戻ってくる。
「今のでモンスターが怯んだぞ」
「おっしゃ!押しまくれ!」
立たされた僕を置き去りに、冒険者等はモンスターに駆け寄り斬りかかる。
後方の負傷者には衛兵がかけより現場の統制も取れ始め。
モンスターを迎え撃つ準備も徐々に徐々に整い始めていた。
一部、魔法使いの少年の周辺だけをのぞいて。
「お前、2度も魔法で人間吹っ飛ばしてどういうつもりだ?」
「衛兵!これ以上死人が出る前にこいつ連れてってくれ!」
「ふざけんなよ!誰の魔法のおかげで助かったと思ってんだ?!」
「お前は今日足引っ張る事しかしてねぇよ。
数日前の討伐での活躍を語ってんなら、生憎俺は参加してねぇから知らねぇなぁ」
「ぶっ飛ばしてやる!バリア展開!」
「させるかよ!!おい!こいつ抑えろ魔法は使わせるな!」
魔法使いの少年は魔法の威力は一級品でも、情緒が不安定で危うい。
彼の危うさで被害が2度も出てしまった事もあり、彼を囲む冒険者は今回ばかりは許さないと幼い少年を取り囲み退路を塞いでいく。
衛兵まで呼び出した様子から、少年への対応は決して優しいものにはならないだろう。
気が強い彼は大人からの苦言に無鉄砲さで果敢に噛みつき、聞く耳を持つ様子はなく、それが更に周囲からの悪印象を固めている。
これからの展開を予想すると、少年にとっていい状況ではない。
魔法使いの少年の事はひとまず彼等に任せてしまおうと。
騒がしくなる彼等に背を向けた僕は、足を引きずりながらモンスターを見据えてずりずりにじにじ近づいていく。
「使うか?」
「んありぇ」あれ?
そんな僕に差し出されたのは、僕の小さな身体にも丁度よく支えられる程度の長さに切られた木の棒で。
いつの間にか僕の側に来ていたジノは、ギルド受付の制服のまま薄い胸を上下させ、息を整えながら大きな袋を背負っている。
「折れてんのか?
薬いるか?」
僕の片足をみて問いかけるジノ。
彼が大きな背負い袋から取り出したのは、僕が彼に納品したばかりの生薬の入っている二枚貝。
僕はふりふり首を振って否定を返しながら、彼の手を押し返す。
「じにょ、ほねにはききゃないお」ジノ、骨には効果がない。
「だなぁ。さすがうちの薬師様だ」
ジノは「無理すんな」と僕の頭を撫でると、僕とは反対の。
まだ負傷者が多くいる魔法使いの少年の側に視線を向けた。
「たぶん直ぐ在庫切れになるわ。また頼むぞー」
歩き出し、背中越しに僕にかけられたジノの言葉に、僕は頷いて肯定を返した。
背中を向けて歩いていくジノからは見えないと分かってはいたけれど、僕が拒否しない事はジノも予測しているようで彼はそのまま歩みを止める事なく進んで行く。
そして、僕も。
ジノから預かった棒を支えにして、モンスターに向かって足を踏み出した。
僕は歩きながら集中を高めていき、僕の小さな身体の周りには今まで無かった透明な膜が形成されはじめていく。
空気の中に含まれた飛沫よりも小さな水分と、風の膜を練り上げながら僕はそれを身体にゆっくりゆっくりと層を重ねながら纏っていく。