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残された弟

翌朝、拠点に決めた穴でわんこと一晩明かした僕だったけれど。

外に這い出ると、複雑そうな顔をしたロッツォと苛立つノノの二人が立っていた。


「よお」


ひえ。

お外に出るのは早かった。

穴に戻ろう。

だらしない同居のもふもふだってまだ穴の中に寝ているから。

見なかった事にしてもう一眠り。


僕は穴に戻って二度寝に取り掛かろうと後退を謀るが。


「こらティオ!出てきなさい」


ノノに捕り僕は二度寝を諦めずるずる、ずるずる穴の外へ。


「にょにょ。ろっちょおはよ」ノノ、ろっつぉおはよう。


いかにも眠くてもう一度穴に潜りたいです。という雰囲気の僕に、ロッツォは困った様子で後頭部をボリボリかきながら。

ノノは朝からご機嫌が悪い様子でイライラしたまま腰に両手を当てて僕をみていた。


「おはよう!ティオ」

「ティオ、おはよー。……その、なんだ。

朝一にわりぃがお前に約束した廃教会の件……保留でいいか?」


「んえ?」


ロッツォの言葉に僕は目をぱちぱちしながら話の続きを求める。


「いや、まじですまねぇ!

ティオは恩人だし。俺も散々悩んだんだけど、どうやっても空きが足らなくなっちまってさぁ」


ノノに睨まれながらロッツォは言いにくそうに伝えてくる内容。

空き?あぁ、そういう事か。


合点がいった僕は、ニコッとわらい。


「あいあい。ぼくおうちあここれしゅから」はいはい。僕の家はここだから大丈夫です。


「おお!だよなぁ!いい穴だもんなぁ狭くて。うんうん!ここがいいよなぁ良かった!」


大袈裟に喜ぶロッツォ。

狭くていい穴って褒めているのだろうか。

僕は複雑になって一瞬穴の入り口を振り返る。



ここは隠れ家みたいなところが気に入って拠点に決めた場所だったけれど。

今の入り口は、隠れ家どころかネタの様な外観にすっかり変わってしまっている。


穴の上部につけられた横向きの表札に、穴の入り口横にはノノが持ってきたらしい木箱の簡易椅子も置いてあって。


いい穴だろうか。

温かみはあるかもしれないけれど。

うーん。

僕はなんとも複雑な感じになって曖昧な顔で聞き流すことしか出来なかった。



「良くない!!!」


苛立っているノノ。

彼女の言葉は穴の良し悪しの批評ではないようで。


「なんでティオの席をあんな奴にあげちゃうのよ!ティオ今からでも廃教会で一緒に住もうよ」


「んえ、いやでしゅ」


「ああああっもうっなんでよっ!」


キレて地団駄するノノ。

だけど僕プライベートは大事にしたい派なので。

廃教会での私生活オープンな生き方は合わないと思います。


「ノノ、ティオがいいっていってんだ。

喚くな」


僕の意向を聞いた後からノノへのロッツォからのしっせきは明確なものになった。

廃教会は縦社会。

僕の意向を聞くまでロッツォが我慢していたのは、僕の席を作った兄気分のジノへの配慮だろうか。


ロッツォに嗜められても、大人しそうな見た目の割りに気の強いノノ。

不満を顔いっぱいに出したままでぶすくれている。


「あー。ティオは知ってる奴って聞いたんだが」


少し言いにくそうなロッツォは、ぽりぽり頬を指でかきながら。


「ジノの兄貴がな。

厄介な奴ひきとってきちまってよ。

まぁ、廃教会で面倒みることになっちまったんだが」


僕は昨夜見かけた魔法使いの少年の姿を思い出す。

あの子の事だろうか。

疑問を浮かべる僕だったけど、答えはすぐにわかった。


「あの子私達の寝床を魔法で水浸しにしたのよ!

そのせいで昨日は凄く狭い布団に姉さん達と固まって寝たのに、謝りもしないの。

あの子の様子じゃ私達とやっていくのは無理なんじゃない?

来たばかりなのにロッツォ兄も手を焼いてるでしょ」


魔法。

彼で間違いないかもしれない。


すでに色々あった様子で、ノノから彼への評価は下がりきっているのは気になるところ。


「まぁなぁ。

手のかかる奴ではあんだけど。

あいつジノ兄が可愛がってたはぐれの弟らしいんだ。

そのはぐれは死んじまったし、兄貴は片腕失ってるしよ、ジノの兄貴の為にもできる事はしてやりてぇなぁ」


僕はロッツォの言葉を聞いて驚いた。

彼を知っている様子だったジノ。

ジノにやたら噛み付いていた魔法使いの少年。


ジノが気にかけていたといっていたはぐれの孤児の弟があの魔法使いの少年だった。


ギルドハウスで騒動を収めたジノのやり方に、ウィガロが首を傾げていたのを思い出す。

ジノなら先輩とかいう貴族の縁者に力を借りなくても、うまくあの場をやり過ごせていたのに変だと。

その時、エルザもジノが焦っているかもしれないといっていた。


僕の中で魔法使いの少年と、廃教会に招かれた新参者が一本の線で繋がった気がする。


「とにかくサンキュウ!席はちょっと減っちまったけど。

俺の寝床に入れてやるから。お前の為にいつでも廃教会に居場所を残すってのはかわらねぇからな!」


義理硬いロッツォが僕に何度も言いくるめ、忙しそうに帰っていく。

ノノは僕の拠点の前に残ったまま。


「私もティオの穴で暮らそうかなぁ」


と、一言。

ひえ。

穴暮らしが良くみえる程あの少年が嫌なのだろうか。

けれど、僕だって譲れない。


「いやでしゅ。しぇまいにょで」嫌です。狭いので。


「はぁぁ?!ケチ!」


僕の返答に、ノノは益々ヘソを曲げてしまった。

彼女は頬を膨らませて僕に抗議しているけれど、小さな穴の中もふもふを提供してくれるわんことノノでは手触りが違うから受け入れられない。


ノノからの視線は痛いけれど、僕の気持ちは譲れません。

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