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超えてはいけない一線

黒騎士の長い脚はあっという間に商業地区までたどり着き、まっすぐ喧騒の真ん中にむかっていく。


長身の彼の肩にまたがる僕は、鳥の視界を使うように人々を見下ろす高さで慣れた視点。

小さな僕が歩くより、わんこに跨ってあるくより、長身の黒騎士の肩の上はずっとずっとよく見渡せている。

僕は知らず高身長の世界を体感していたんだなぁと、しんみり考えながら。


遠慮なくずんずん歩いている威圧感たっぷりの黒騎士に、野次馬は自然と道をあけ。空いた分だけずんずんずんずん前に前にと黒騎士は進んでいった。

あっという間に中心についたころ。

そこには、僕が想定した中で一番あってほしくない光景がしっかり出来上がっていた。



騒ぎの中心にお腹を押さえたロッツォと、彼を守るように前に立つウィガロ。

ウィガロの手には剣が握られていて、彼の目は見たことが無いくらい冷たく色をなくしていた。


対面には衛兵団らしき団体と、そしてその後ろには。

金物屋の親父。


あぁこいつらやらかしとる……。

僕ははぁぁとため息を吐いてしまう。



「お前!!お役人様に剣なんか向けてどうする気だ?!」


衛兵団の後ろの親父の威勢がすごくいい。


「うるせぇ!てめぇらガキ囲んで何してんだ!?

こいつが何やったってんだよ!!」


チンピラ真っ青な口調で怒鳴り返すウィガロは、頭に完全に血が上った様子で。

色々アウトだけど、一番アウトなのは既にウィガロが武器を手にとり衛兵団に対峙してしまっている事だろう。


ギルドを拠り所にする冒険者には身分が保証され、身分の保証から市民権を得られているけれど。

そうであっても貴族と平民には超えられない線引きがある。


冒険者として独り立ちしても、生まれが貴族ではない人間には後ろ盾が冒険者しかない。

冒険者の力が及ぶ範囲は、依頼の請負と、依頼の履行であって。それ以上にはならない。

貴族出身の幹部がいるギルド支部もあるようだけど、ここロカの街はそうではないから。


貴族と揉めた時、苦い汁を飲み込むのはいつだってギルド側。

そんな勢力関係だから、貴族に手は出すなは暗黙の了解であり、鉄則のルールであって。


貴族の率いる衛兵に向かって武器をとってしまったウィガロは、その一線を超えてしまった。






んあああああああもう。

まずい。

1番嫌な構図がそのまんま成立してる。


うずくまるロッツォはお腹を抑えている。

彼を傷つけたのは金物屋の親父なのか、衛兵団なのか。

あるいは別の誰かであるかもしれないけれど、衛兵団を呼び寄せたのは金物屋の親父ではないだろうか。

ジノの馬車の時と状況は違っても、その時と同じ役者が揃ってしまっている。

金物屋と、衛兵と、厄介者の孤児と。

金物屋の親父は、ジノになすりつけた濡れ衣に懲りるどころか、また孤児を痛めつける事に一役かっている形。

これは故意の悪意。


状況から、ウィガロの怒りの理由も読み取れる。



最悪だ。

気分がとにかく最悪だった。


僕は悪意に晒される孤児と、彼を背に一人衛兵団に抵抗するウィガロを支持する少数派。

ここに集まってきている野次馬達は、ロッツォを憐れみウィガロに賛同する者もいるかもしれないけれど少数派で。

多数は孤児と金物屋のトラブルを暇つぶしに見ているのだろう。


理不尽さに腹がたつ。

スーパー幼児な僕は色々考えた。

このまま二人を連れて身を隠してしまおうか。いや、ダメだ。一時的に身を隠してもウィガロはもうこの街では暮らせない。

それなら、ここにいる人を一人ずつ叩いて全員気絶させてしまおうか。いや、ダメだ。僕の下には黒い化け物が一人いる。

黒騎士にじゃまされず、彼らの記憶からこの騒動を消せないか?消せたらいいな。どうしようか、方法は?


ぎゅうっと、知らず握りしめてしまった黒騎士の長髪を、無意識に僕は引っ張ってしまう。

強者な彼は。小さな僕の、悔しさを握りしめたおてての力には動じなかったけれど。

僕の握力なんて全く意に返さない様子で彼は。


「醜いな」


そう呟いた。

その言葉は、ついこぼれてしまった独り言だったのか。あるいは僕に聞いてもらう為に溢れた言葉だったのか。

黒騎士の気持ちは僕にはわからない。

わからないけど、彼は渦中のウィガロと衛兵団の方に止めていた長い足を動かし近づいていき。




「すまないが状況を説明してくれないか?そこの子供は俺が預かっていた案内人なんだが」


黒騎士の姿を認識していなかった衛兵団と金物屋の親父は、急に間にはいってきた彼の姿に驚いた。


「なんだ貴様は!部外者はひっこんでろ」

「こ、これは黒騎士モーベン・カネラ殿!この孤児を貴方が預かっているとはいったい……」


威勢よく叫ぶ親父だったが、へりくだって慌てはじめた衛兵団の尋常ではない慌てた様子に出鼻を挫かれたかたちになった。

親父は衛兵団の態度を見て冷や汗を浮かべ。


「黒騎士様……ですか?」


「お前は知らないのか!皇帝陛下の右腕でいらっしゃる黒騎士モーベン・カネラ様だぞ?!」


「え……ひ、ひぇえ」


親父はずいぶん権力と肩書きに弱そうだった。

衛兵から教えられてようやく分かる感じから、知識はなさそうだけど。



黒騎士の登場で、切迫していた彼らの間に戸惑いが走る。

たった一言であの空気を変えたこの男は、本当に恐ろしい奴だと思った。


恐ろしいけど、今は彼の存在がとても心強い。

ジノを連れ出し、孤児を見下さない彼ならば。


彼ならロッツォを、ウィガロを。

救いあげ、状況をひっくり返すことができるのではないだろうか。


僕は、そうして欲しいと願う。



僕を肩に担いだままで、格好はついていないだろうけど。


リアクションマークが凄く凄く嬉しいです!至らないところが多く、読みにくさや打ち間違いから、ご不便、ご迷惑をおかけしてしまうこと多々ありますが、目を通して頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
面白い ちょっと早い気もするけど正体バレするかな?
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