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僕の名前


大人げなく失敗した僕は、今度はノノの歩幅と合わせてとてとて歩いていく。

ぐんぐんどんどん街の小さな路地を二人で歩いていく。

ノノは小さな身体でしか通れない道をたくさん知っていたから、僕たちは滑るようにどんどん歩いた。


そして、チートを得ている僕とは違い、小さなノノの足はとうとう疲れてしまい。


「……ごめんなさい。ちょっと休んでもいい?」


「あい!らいじょぶでしゅよ」はい大丈夫ですよ


壁に寄り掛かったノノは、汗でにじんだ額をぬぐう。

気温は決して熱くはないけれど、沢山あるいた僕たちの小さな身体はしっかりと温まっていた。

壁に出来た木陰で、ノノはパタパタと手で風を送り身体をひやそうとしている。


僕は、小さなおててに少しだけ冷気を集めてみた。

冷たくなぁれ冷たくなぁれ。

あんまりキンキンに冷えてもよくないから、僕はエルザの優しい手を思い出しながらおててを冷やす。


いい感じに冷えたかな?


僕はとてとて歩くと、だらんと壁にもたれかかるノノのおでこに、小さなおててを押し当てた。


「さわるよー」


「うわっ何っ。あ、……きもちぃー。あんたのおててって冷たいのね」


ノノの汗ばんだおでこの熱が僕のおててに伝わってくる。

だけど僕は、肩の狼からスーパー能力を預かっているスーパー幼児なので。

ノノの熱にぬるくなることなく、いい感じに冷たさを保ってみた。

むむむむむ。

微量の力加減が繊細で、思ったより難しい。


僕のおでこにもじんわり汗が湧き出てきた。

僕はいい感じの疲労感で、ノノと同じようにゆるく壁に背中を預けてみる。

疲れて二人壁にもたれていると、なんだかとても連帯感があって。


昨日まで森生活しながら、人恋しくて人里をめざしてきた僕だから。

なんとも言えない気持ちになってくる。


ぼーっとしかけた僕は思いつく。

ここで鳥の目を借りてみようかなぁと。


ゆるやかに、ゆるかやに、集中、集中。


ゆっくり目を閉じた僕は、次の瞬間目の前の木にとまっていた一匹の小さな鳥の視界を借りていた。

小さな鳥の視界には、壁にもたれかかる小さな子供の姿が見えている。

僕とノノだ。


ジノは何処に居るんだろうか。

もっと別の場所が見てみたい。


鳥は僕の意思に答えて、ゆっくりと移動を始めた。

見慣れたロカの街並み。

先程ロッツォに指示を受けていた子供達ともすれ違う。


ゆるり、ゆるりと飛んでいく鳥。


「ねぇ、ジノ兄は何処いったのかな?」


ノノの声がして、意識がそちらに傾くけれど、僕の視界は鳥のまま。

僕は目を閉じたまま。頷いた。


「みちゅからにゃいね」見つからないね


「うん、そうね。三日も連絡つかない事なんて今まで無かったんだけどなぁ」


「そうでしゅか」


ノノの言葉に答えながら、僕は街を覗き見る。

ロッツォとすれ違ったが、彼もまだジノを見つけれてはいない様子だった。

何処にいるのだろうか。

そういえば、エルザは何処で探しているのだろう。


僕がそう思ったとき、エルザの姿が見えた気がした。

商業地区の裏。貴族の邸宅へと続く小道の先に。


「ねえ、そういえば私あなたの名前を聞いてなかったわ」


あの姿は確かにエルザだった。

彼女の姿を追いかけてみよう。この道の先は何処へ。


「聞いてる?あれ?寝ているの?」


エルザの向かう先が気になる。ノノが何か聞いている。名前。僕の、名前?


「ぼくはにゃまえにゃいのよー」僕は名前がないんだよ


「そうなんだ。名前ないのね」


「あい」


さらりと納得したノノに、僕は再びエルザの行った方角を。


「はぁぁぁぁぁぁ!?」


「ひえ!!」


ノノの大声に、僕は急に目を開いてしまった。

当然解除される鳥の視界。

目に映るのは、元の壁際の木陰とびっくりして変な顔になっているノノ。


「あんた名前なかったの?!」


僕の両肩に手をおいたノノが食い気味に聞いてくる。

僕は逆に引き気味になってのけ反った。


「あい」はい


孤児では名前がない子が珍しくないはず。

どうしてノノがここまで食いついてくるのか、僕は疑問で困惑している。


「あ、ええとね。名前がない事攻めてるとかじゃなくてね」


ノノは急にもじもじし始めた。


「私、まだ小さいから。だから、ジノ兄やロッツォ兄みたいに名前つけた事なくて。

それでね!あんた、名前ないんだよね。

アタシが名前つけたらダメかな?」


「んえ……だめでしゅ」駄目です


「……え。断るの?……はぁ、なんでよ!?」


彼らのコミュニティでは、名前のない年少者が、年長者から名付けを貰える事は有難いみたいでノノは憤慨し始めた。


僕は一度よく考える。

名付け親に僕と背が少ししか変わらないこの小さなノノ。

うん、なんだかうれしくない。

やっぱりごめんなさいだな。


僕は憤慨しているノノの怒りを聞き流すことにした。

小さなレディからの名付けはウサギさんや、ベアー、リボンや、お菓子の名前を思い浮かべてしまう。

もしそんな名前を貰ってしまうと、僕は自分の名前を誇れないかもしれない。


「ねぇ聞くだけ聞いて!ティオってつけたいの!」


「てぃお」


「うん!いい音でしょ」


思ったような危険な名前ではなかったことで、僕は無意識にその音を反復してしまう。

承諾を得たと思われてしまったようで、ノノは今度はぐんぐんご機嫌がよくなり。


「気に入ってもらえてよかったぁ。ティオはね、私が初めて貰ったこの熊の名前なの」


恐ろしい。この年代のネーミングセンスはやっぱり想像の範囲。

ちょっとひねってるけど、まさかのベアー系列だった。

メルヘンな名前を持ってしまう危ないところ。


「んんんんんー」


僕は必死にノノの言葉を流しながら、また鳥の視界を借りようとゆっくと集中をし始める。

僕が目を借りたあの小さな鳥は、まだあの路地の近くにいるだろうか。

小さな鳥。

小さな。


僕の目が、鳥の視界を再び写し。

僕は除きを再開する。


「ねえティオ。ねえ」


ノノの声がきこえてくる。

僕は目をとじたまま。石になった気持ちで集中した。


エルザの姿を追うつもりだった。

この先の道に、確か……。


エルザ、エルザ、エルザ。





みつけた。


僕が鳥の視界からみたのは、青い帽子をもつエルザの姿。

あの青い帽子は確か、ジノの帽子ではなかっただろうか?


「ねぇねぇ、ティオ。そろそろ行こうか?」


「あい」はい


ノノの休憩ももう終わりのようだった。

それなら丁度いい。

立ち上がった僕は、ノノの小さな手を引く。


僕より体力がないノアにあわせながらぐんぐん進む。

目的地は商業地区、裏の路地。

先程帽子を手に持つエルザの姿が見えた場所。


迷いなくぐんぐんとてとて進む僕に、ノノの呼吸はあがっていった。

目的の場所までもう少し。

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