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コミュニティとはぐれ者

僕がどう切り出そうか悩んでいるうちに、エルザの方が先に動いた。


「ねぇ、兄貴分はどいつだい?」


「んえ!」


孤児のネットワークの中に僕が居る事を疑っていないエルザの問いに、僕はとてもとても焦った。

通例も、暗黙の了解も、抜け道も盗み見て知っている僕だけど、コネクションは何処にもない。

実際、森から今日降りてきたばかりの遺失物なのだから。


「んと、んとんと、んとねぇ」


誤魔化す僕にエルザの目つきが変わった。


「姉貴かい?」


「んーんーんーんーんー--……んと」


僕の目はふわふわふわふわふわ空を泳ぐ。

よーく視線を合わせてくれて、ばっちり僕をみているエルザの目とあうことが不味い気がして、あっちをみて、こっちをみて、ふらふら視線がさ迷ってしまう。


僕の様子を少しの間見ていたエルザは、ガシガシ頭を掻いてため息をついた。


「わかった。あんた【はぐれ】だね」


僕はこくんと頷いた。


エルザのいうはぐれとは、孤児の子供たちのコミュニティーにも入れず孤立した子供。

独自のコミュニティを持つ孤児の彼等よりも、もっと厳しく生命活動が相当に危険な立場におかれている子供を示す相称で使われている。

はぐれの存在は僕にとっての抜け道であるし、そう思われるよう誘導するより直ぐに、エルザの方からその言葉を言ってもらえるとは思っていなかった。


「はぁ、そうかい。やっちまったねアタシも。首突っ込んで引け無くなっちまった」


はぐれと分かった僕を見捨てる様子のないエルザは困ったように笑いながら僕に手を差し出して。


「おいで。ロカのちびっこ大将んとこに連れてったげる。

アタシもそこの出だからね」


エルザがロカの街の孤児出身だったことに僕は驚いた。

彼女は健康的で荒事も厭わず、ごろつきや荒っぽい男達を相手に一歩も引かない豪胆な女性だけど、どこか上品なところが佇まいからは隠しきれていない。

名家から何かの理由で荒事を請け負う立場に身を落としたご令嬢かもしれないと思っていたから。


「おねがーしましゅ」お願いします


「あいよ」


僕は驚きながらもエルザの後をついてあるいていく。

とてとて歩く僕の歩調に、エルザが手を伸ばすのは直ぐだった。


僕の柔らかい小さな両脇に、冷たい固くなった手が差し込まれる。

ふわっと浮き上がった僕の小さな身体は軽々とエルザの片腕に収まり。


「このままいくよ」


手足の長い彼女に運ばれ、僕はぐんぐんロカの街の路地の奥へとはいっていった。















「ジノはいるかい?」


古びた協会の下に会談には数人の子供達の姿が見える。

全員身なりがいいとは言えない装いで、目つきも上品なものではない。


「珍しいなエルザねえ。そいつは?」


彼らの中で一番体格が小さな栗毛色の少年ロッツォは、親しいものに接する態度でエルザに問うた。


「久しぶりねロッツォ。この子はアタシのご贔屓さんよ」


「どもでちゅ」どうもです


色気のある表現で紹介された僕は、ぺこりと子供たちに頭を下げた。


「ふーん。ジノの兄貴は残念だけど居ないよ」


僕は存在を直ぐに気にされなくなってしまったが、エルザには用がある様子で。

ロッツォ達は階段から腰を上げてじわじわと傍に近寄ってくる。


「そう。いつ帰ってくるんだい」


「分からねぇ。ジノの兄貴が消えてもう三日たってるんだけど誰も兄貴の行方を知らねんだ」


ロッツォの言葉にエルザの目つきが変わった。


「珍しいね。ジノがアンタたちを残して三日も居なくなるなんて。最後にジノと会った子はだれ?」


階段の周りにいた子供たち以外もゆっくりとあつまりはじめている。

全員、不安な表情でエルザを見ていた。


「ノノだ」


ロッツォに背中を押されたのは、いつから着ていたのかロッツォよりずっと小さな、僕より少し大きな黒髪の少女。


「あの、あたしジノ兄に。お花売ったお金渡した後、ジノ兄いつもみたいにそれ持って、どっか行って。それで、そのまま……」


僕は驚いた。

ノノの活舌の良さに。

僕より少しだけ大きく見えるだけの彼女の言葉は舌ったらずなところがない。

よどみなくスラスラ話す姿に見た目よりずっとずっと年齢が上に見えて羨ましくて仕方がない。

栄養状態がよくない彼女は見た目通りの歳ではないかもしれないけれど。


「小銭もってどっかいったんだね」


エルザはふむ、と顎に片手を添えて考えた。


「アンタたちアタシにジノを探してほしいかい?」


エルザの言葉に子供達の視線が助けを願うように集まった。

お願いしたいと気持ちが顔に出ているのに、なかなか誰も思いを口にしない。


黙っていた口をあけたのはジノの居ない彼等にとっては今のリーダーであるロッツォ。


「探してほしいけど、アンタはもう此処の住人じゃない。

俺たちアンタを雇えるほどの金はないんだ……」


孤児のコミュニティーを出たエルザは、ギルドで依頼を受け荒事で仕事をしながら賃金を得ている。

彼等のルールは、コミュニティの問題は、コミュニティの者たちで解決していかなければならない。

どんな形であっても、コミュニティを抜けたものはよそ者。



「そうだね。それがここのルール。

でも、アタシは今日はこの子の依頼で動いてるこの意味わかるかい?」


「んえ!?」


エルザの言葉で沢山の目が僕に向けられた。

僕の姿を注視する子供達。

よーくよく、見られてる。


肌艶はよい、でもそこそこの服に身を包んだ。

裕福とは思われない装いの、小さな僕。


「……こいつが?」


ロッツォからこぼれたつぶやきは、こいつが大金を払ってエルザ雇っているなんて信じられないとばかりの疑いのもの。

エルザは、と。見上げてみれば、成り行きを静かにみているようで。

片手に抱えられた僕と目があうと、片目を優雅にウインクして見せた。

パサリとあおぐまつ毛の風が涼やかに。


「なあ、えっと……お前がエルザねえを雇ってんの?」


聞く前から疑い深く聞いてくるロッツォに僕ははっきりと。


「ちあいまちゅ」違います


告げた言葉は噛んでしまった。

ククと、笑いながらエルザが僕を地面に卸す。

すると聞こえる「小さい」という言葉。つぶやきはざわざわ広がった。


そう、僕は小さい。

でも、ノノまでもが「小さい」と口にしていたのはちょっと一言申したい。

そんなに代わらないでしょう?と。


雇い主を否定した僕だけど、エルザは僕の後ろに立って言い直す。


「アタシが勝手にやってることだよ。この子にはずいぶんなお宝もらっちまったからね」


エルザの言葉に、このちびっこが本当にお宝なんてもってたのかと疑わしい視線を持ちながら。

ロッツォはエルザに尋ねる。


「エルザねえは何を請け負ったんだ」


エルザは二ッと笑う。


「この子どうやらはぐれらしくてね。ジノに顔つなぎしたかったんだけど」


「分かった。なぁお前!俺等の仲間に入りたいのか?」


ロッツォは僕を見ている。


「んとんとんと、いろいろおしえてくだしゃい」色々教えてください。


噛んでしまうから、と。沢山省略してよろしくお願いします。と、だけ言い頭を下げる僕。

ロッツォはうんうんと二度頷いた。


「よし。お前は今から俺らの仲間になった」


「んんんん?」


「兄貴の俺からお前に出す最初の仕事は、ジノの兄貴を探してくることだ。頼めるか?」


頼めるか?と、僕宛の問いかけをしながら、ロッツォはすでにエルザをうかがっている。

流れ的に、僕も「この流れいいの?」って視線でエルザを見る。


「いいわよ。アタシも探してあげる」

エルザの返答に子供達の顔にいくらかの安堵が広がっていった。

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