第1225話 クロスステッチの魔女、異邦の物語を読む
私が書き写した物語は、あまり長くないものだった。とある湖に由来する物語で、妖精と魔女と村人が登場する。実際にどこかにある湖だと思うけれど、綴りがちょっと複雑で単語が長い。ソアレ・ルー・メリア……と発音するのだろうか。ええと、いくつかの単語の頭に大文字が入っているから、言葉と言葉を組み合わせたものになるはずだ。意味は……少なくとも、私の知っている言葉ではない。多分、私の知らない言語なのだろう。
「マスター、この物語はどこか外国のものなんですか?」
「多分、そうね。私達の使っている言葉に直してしまっているのかも。こういう物語集だと、時々ある話だから」
外国の言葉はほとんど話せないし読めないけれど、そういうものがあることはわかっている。物語をこうやって語って読む時には、大体の言葉は翻訳してしまう。ただ、人の名前や地名などは、元の言葉を残しておくらしい。お師匠様にどうしてか聞いてみたら、『昔からそういう慣習だから』と言われてしまった。お師匠様が「昔から」と言うのであれば、ものすごく昔からなのだろう。最低でも、百年単位。あるいは、ひょっとしたら千年なのかも。
「それでそれで、どんなお話なのー?」
「待ってね。今、書きながらお話しするから」
私は少しずつ書きながら、書いた分をそのまま声に出して読み始めた。
――これは、『ソアレ・ルー・メリア』の湖の物語です。妖精が住む湖であり、その畔には魔女がいて、ふもとの村からは人々が毎日水を汲みに行っていました。優しい妖精は喉が渇いた人間に水を飲むことを赦し、その番人として魔女を呼び寄せたといいます。魔女は、湖が綺麗でいられるように、妖精と協力してある魔法をかけました。そして村には、その魔法で狂わされる運命を知らない、ある少年がいました。
「……まあ、珍しい素材があって住んでいた可能性もあるわね。妖精と暮らしていた、というのは、なんだかとても魔女らしくて素敵だけれど」
「アワユキいるよー?」
「ふふ、そうね、きっとうちも似たようなものだわ。近くにあるの、湖じゃなくて小川だけれど」
すでにうちには、アワユキという精霊がいたので同じようなものだった。妖精と精霊の区別は……まずいな、習ったはずだけれどすぐに思い出せない。お師匠様にひょんなことからバレる前に、おさらいをしておこうと頭の隅っこに書き留めておく。
「それでそれで? その湖ではどんなことが起きるの?」
アワユキにせかされたので、書いたインクが乾いたことを確認してから、私は次を読み、書き始めた。




