第五十八話
蓮が孤児院を出る頃には、日が落ち始めており、大通では依頼を終えた冒険者の姿がちらほらと目に入った。
家に向かい大通りを進む蓮。
すると、蓮の前を阻むように数人の男が立ちはだかった。
「やぁ、こんにちは。君がレンくんかな?」
蓮に声をかけたのは、さらりとした黒髪の優男。
柔和な笑みを携え、蓮に近づいてくる。
レイヴィアは大太刀に手を掛けようとするが蓮に止められる。
「レイヴィア、大丈夫だよ。」
「急に声を掛けてすまないね。そう警戒しないでくれ。」
優男は両手を上げて無害を主張する。
「ごめんね、お兄さん。レイヴィアは僕の護衛だから、誰にでも警戒しちゃうんだ。」
「立派な護衛だね。不用意に近づいた僕が悪いんだ。気にしなくていいよ。」
「それで?僕に何か用かな?」
「君達のパーティーを勧誘しにきたんだ。」
「勧誘?」
優男は笑みを深めて口を開く。
「僕はリオル。クラン、月夜の旅人のサブマスターなんだ。どうかな?うちのクランに入る気は無いかい?」
「うーん……。ごめんなさい、みんなに聞いてみないと答えられないや。……でも、どうして僕たちを?」
蓮の質問を受け、リオルは背後に並ぶ男達の中から一人を呼び寄せた。
「この男に見覚えはないかい?」
蓮は男の顔をじっくり見る。
何処かで見た事があるような気もするが、明確には思い出せない。
「うーん、どこかで見たような……」
「ははっ。そうだよね。こいつは冒険者ギルドでレイヴィアさんに殺されそうになった男だよ。」
蓮は改めて男を見た。
「そういえば、確かに……」
「それでね、その時動きが全く見えなかったって言うんだ。一応、Bランクの上位に位置するくらいには実力があるんだけどね。」
「へぇー、そうなんだ。」
「そう。それで君たちに興味を持ったうちのマスターに勧誘してこいって言われちゃったね。まぁすぐにとは言わないよ。またお仲間と相談してから返事をくれたらいいよ。うちのクランハウスの場所をここに書いておいたから、決まったら訪ねてきてよ。」
リオンは月夜の旅人のクランハウスの場所が記された紙を蓮に渡し、またねと言って去っていった。
「ばいばい、リオンさん。」
その夜、夕食の時間に合わせて皆が家に揃った。
夕食を取りながら各々が集めた情報を報告する。
まず口を開いたのはナクタだった。
「俺は今日一日アシュラと二人であいつらのクランハウスに張り込んだんだが、人の出入りはそれなりだな。だが、全員武装した冒険者らしき奴らだったからクランの人間だろう。マスターらしき奴の姿は見れなかった。見れたのは蓮に接触したリオンってサブマスだけだ。まぁ見た感じあいつがSランクの一人だろ。強さはゴルギオスと同等ってところだな。」
ナクタの報告が終わり、続いてメデュアが口を開いた。
「次は私が。孤児院周辺の住民に話を伺ってきました。今の院長であるトルネウス様は10年ほど前にまだ赤子だった娘を連れてこの街にやってきたそうです。それからすぐ住み込みで孤児院の手伝いをはじめました。前院長は人族の男性でかなりの高齢だったそうで、3年程前に死亡し、トルネウス様が院長になったと。孤児院の運営は昔から厳しかったそうですが、前院長が魔法に優れており、作った魔道具などを売り、運営資金に当てていたそうです。」
「孤児院への出入りについては何か?」
「冒険者の出入りは前院長の時から度々あったそうで、皆様特に気になる事は無いと。ただ……」
「何か?」
「ただ、一週間程前から急に子供達の姿を見なくなったと心配する声は多くありました。おそらく、それがトルネウス様が子供達を逃したタイミングでしょう。」
次いで報告を始めたのはルーだ。
「私はゴルギオスさんの所で情報を買ってきました。孤児院についてはメデュアに補足という形で。前院長の名はマリウス。かつてAランク冒険者の魔法師としてパーティーを組んでいたそうですが、パーティーの解散を期に孤児院の運営に携わるようになったそうです。トルネウスさんについてはそこまで多くのことは分かりませんでした。あまり自分の事を話さない人のようで、ここに来る前は他国で魔物についての研究を行なっていたそうですが、その詳しい内容は誰も知らないそうです。」
そこでルーは言葉を区切り、紅茶に口をつける。
「続いて、月夜の旅人についてですが、クランマスターの名前はエリオラ。いつも黒い全身鎧を身に付けていて、誰も素顔を見た事が無いそうです。Sランク冒険者で、実力はこの街でトップだと言っていました。サブマスターは蓮に接触したリオルと、その双子の弟のレオル。この2人が残るSランク冒険者です。主な指示はリオルが行っているそうで、実質的なマスターといったところですね。」
そこでルーの報告も終わった。
食事を終えた蓮は、風呂に入り、広々とした湯船にゆっくり浸かっていた。
「どうした、父よ?」
一緒に入っているレイヴィアが蓮の顔をじっと見ながら問いかける。
「うーん……。ベルちゃんの病気、なんとかできないかなーと思ってね……」
「うむ。トルネウスが不治の病だと言っていたな。」
「そうなんだよね。僕も治せないって感じたからどうしようもないのはわかってるんだけど……」
浮かない顔をする蓮をレイヴィアじっと見つめた後、突然正面からギュッと抱きしめた。
「レ、レイヴィア!?く、苦しい……」
「む!?すまない。メデュアがこうしていたのを思い出してな。私じゃダメだったか。」
レイヴィアは蓮を解放し、しょんぼりと隣に座った。
蓮はレイヴィアの言葉になるほどと思い、苦笑いを浮かべる。
「あー、ありがとうレイヴィア。元気出たよ。今度はもう少し力を弱めてほしいな。」
レイヴィアはすぐに顔を上げ、両手を広げてゆっくりと蓮ににじり寄る。
「あはは……。レイヴィア、また今度お願いするよ。今日はもう充分だから。」
「む?そうか。なら今度にしよう。」
その後、風呂から上がった蓮は自室のベッドで眠りについた。




