第十二話
蓮の魔力を追い、上空を飛んでいたルーは何かを見つけ地面へと降り立った。
降りた先には洞窟の入り口があり、中から蓮の魔力を感じる。
(ここ、ですね。洞窟ですか……。待ち伏せには注意すべきでしょうね。これで、私の到着も知られるでしょうし。)
ルーは右手を前にかざし、風の刃を放ち洞窟の入り口に仕掛けられた糸に切断すると、洞窟の中へと入っていった。
警戒しながら洞窟の中を進むルーであったが、意外な事に待ち伏せや罠は一切無く、遂に蓮が居る洞窟の最奥まで辿り着いた。
所々に火が焚べられた薪があり、辺りを薄く照らし出している。
広い空間の奥地に眼を向けると、手足を縛られ地面に腰を下ろした蓮と、腕を組み、此方を見つめ戦意を滾らせている白髪の青年が見てとれた。
ルーは蓮の無事に安堵の息を吐き、口を開いた。
「蓮、無事で何よりです。さぁ、早く帰りましょう。皆、心配していますよ。」
ルーのその問いかけに、蓮は笑顔だけ返した。
すると、そばにいた青年が口を開いた。
「おいおい、俺の事は無視かよ……。羽野郎、俺はてめぇとずっと殺し合いたかったんだ。」
「私は貴方に興味が有りません。早く帰って夕飯の支度もしなくてはならないのです。」
「……俺はわざわざ此奴を攫っててめぇを呼びつけたんだぞ。はい、そうですかって返すとでも思ってんのか?」
「貴方の事情なんて知りません。……私は蓮を迎えに来た。ただ、それだけです。」
冷め切った眼で青年にそう告げるルーに青年は何を言っても無駄だと悟った。
「……はぁ。揃いも揃って気持ち悪りぃ奴らだ。もういい。無理にでも付き合ってもらうぜ。」
それだけ言うと、青年は背中を丸める様に力を込めた。バキバキという音と共に、その背を突き破り、中から何かが出てくる。
それはまるで昆虫の脚。黒く細長いその脚の先端は槍の様に鋭く尖り、返の様な棘まで付いている。それが計四本生え揃う。
変化が終わり、青年は顔を上げた。
両目は真っ赤なルビーの様な眼球に代わり、また額には同じ様な真っ赤な球体が六つ並んでいる。その姿は蜘蛛の様だ。
「俺は魔人。蠱毒の魔人だ。てめぇに母親を殺され、その強さに憧れた、たった一人の生き残りだ。これは復讐なんかじゃねぇ。てめぇを超えてぇって、ただそれだけの為の殺し合いだ。嫌でも付き合ってもらうぜ、羽野郎!」
一息にそう言い切った蠱毒の魔人は両手に糸の槍を生成し、一気に駆け出した。
「オラァァァァァ!!!」
魔人から放たれる槍の連撃を、ルーは魔力を纏わせた手刀で弾く。
魔人から間髪入れずに放たれたのは、背中から生えた脚での突き。
流石に捌き切れないと、ルーは背中の翼を羽ばたかせ、後退する。
魔人はニヤリと口角を上げ、下がったルーへと飛び出した。
ルーは手数で劣る状況で、正面からのぶつかり合いは不利だと察し、足止めのために正面に魔力障壁を貼りさらに下がろうと動き出す。
が、飛び出した魔人は空中に居るにも関わらず、突如その軌道を変えルーの真横へと迫り、槍を一閃。
両手持ちの大槍に変化した槍の重い一撃に、吹き飛ばされたルーは壁に激突し、ガラガラと音を立てて、壁が崩れる。
「キシャッ!逃げてばっかじゃつまんねぇぞ!」
直後、バサリという音と共に、崩れた瓦礫が魔人を襲う。
冷静に、手に持つ槍と背中の脚で全て弾き飛ばし、ルーが飛ばされた方に眼を向ける。
そこにいたのは翼を大きく広げたルーの姿。キラキラと輝く魔力が降り注ぎ、薄暗い洞窟を照らし出す。翼は四枚だが、その姿はまさに女帝蜘蛛を倒した時の姿であった。
その姿を見た魔人はさらに口角を上げ嬉しそうに笑う。
「そう、そうそうそう!それだ!それを待ってたんだ!」
魔人は叫ぶ様に声を上げ、魔力を噴き上げる。
対するルーは口を閉じたまま、先程と変わらぬ冷たい眼で魔人の視線を受け止めていた。徐に一歩を踏み出したルー。足が地面に触れた瞬間、白銀の炎が魔人を襲った。
「——ッ!!」
間一髪、身を捩り炎を避けた魔人は糸で自身の身体を引っ張り上げ、天井へと張り付いた。
(発生速度も制御力も尋常じゃねぇ!)
追いかけてくる白銀の炎を糸を駆使して避けながら、毒弾を当てて消そうとするが、直ぐに蒸発してこちらの魔法が消えてしまう。
(魔法戦では分が悪りぃどころじゃねぇな!くそっ!)
近付こうにも炎が邪魔をして中々近付けない為、一度大きく距離を取った。
白銀の炎は追って来ず、ルーの周りをグルグルと旋回し始める。
(この距離は追ってこねぇか。射程は大体把握した。仕掛けはまだ半端だが、やらねぇと近付けそうもねぇしな……)
魔人は大きく振りかぶると、両手に持つ二本の槍をルーに投げつける。
ルーは表情を変えず、飛んできた二本の槍を弾き飛ばす。
「『死毒の鳥籠』」
魔人の、両手から伸びる糸。無数の糸がルーの周りを取り囲み、大きな檻を形成していく。白銀の炎から逃げ回りながらばら撒いた無数の糸を魔力を用いて繋ぎ合わせ、瞬時にルーを取り囲んだ。
「俺の魔力で強化した糸だ!食いやがれ!」
魔人が腕を大きく振ると、糸の檻がぎゅっと縮む。
(やっぱり糸の数が足りねぇ。壁が薄い。だが、少しでも傷がつけば俺の勝ちだ。)
このまま縮めばルーは細切れになるだろう。それに、糸に仕込んだ毒は自身の持つ最高の致死毒。勝率は高いと踏み、不完全な仕掛けを発動させた。
ルーは自身を取り囲む無数の糸を見る。
(どうやらこの炎だけで全てを消すのは不可能ですね。相手は毒持ちです。当然、この糸にも仕込んであるでしょう。)
チラリと槍を弾いた両手に目をやる。毒を警戒し、魔力で覆っていたが、火傷の様な痕が少し残っている。
(蓮には完成してから見せたかったのですが……。仕方ありませんね。)
ルーは旋回する白銀の炎を右手に集め、ぐっと拳を握り込んだ。




