36 ねじ曲げられた歴史と、ヴィネ様の父王
「ふっ……やはり、そうか」
ヴィネ様は、「わかっていた」というような諦めの感情と悲しみとがない交ぜになったような、複雑な歪んだ笑みを浮かべる。
「そして、その後も、アヴァロニア王国の魔族はたびたび叛乱を起こすので、聖カトミアル王国は、創造主ファシシュの名の下に聖戦を行うしかなかった……というのが、聖カトミアル王国側の正史です」
私も唇を噛みながら、そう伝える。
もちろん、私はわかっている。
ロマリエル王家が、そんなひどいことなどするわけがない。
これは、聖カトミアル王国が“聖戦”を仕掛けるためにでっちあげた作り話、ただの言いがかりだ。
「聖カトミアル王国の人々は、それを信じているのか?」
「……はい。残念ながら……」
「そなたが前世で暮らしていたという、ここよりも文明が進んでいた世界……、そこなら、こんなことは起きぬのであろうな?」
私は、前世の記憶をたぐり寄せる。
前世の世界で習った歴史。
数々の戦争には、大抵、何らかの“大義名分”が付けられていた。
しかし、その大義名分など怪しいものだ。
前世で暮らしていた日本という国でも、古代から近代まで、何度も国内で戦が行われてきたが、「勝てば官軍」という言葉があるぐらいで、正しい歴史が伝えられていたかどうかは怪しいものだと思う。
たとえば、古代の東北、坂上田村麻呂に滅ぼされた阿弖流為は、本当に滅ぼされねばならぬような逆賊だったのか。
戦国時代、関ヶ原の戦いと大坂の陣に東軍が勝利することよって、徳川が戦のない太平の世をもたらしたと言われている。しかし、その太平の世は、徳川幕府でなければ作れないものだったのか。
そして、幕末。
その徳川幕府を倒した薩長や官軍に、本当に正義はあったのか。
勝った側の論理で次々に正史が塗り替えられていくのだから、庶民には、歴史の真実などわからないのだ。
「いえ、前世で暮らしていた世界も、この世界と同じです。勝者によって、歴史というのは簡単に塗り替えられてしまうものなのです」
「そうか……どの世界でも同じなのか……」
ヴィネ様は、口惜しそうに拳を握りしめる。
そして、一拍おいて、昔のことを訥々と語り始めた。
「実は、……私の父は、聖カトミアル王国との戦で命を落としている。“聖戦”という名の侵略戦争によって。
私の父もまた、ファシシュ教への改宗を迫られたのだ。この、アヴァロニア王国の国教を、ファシシュ教にするように、と。そして、エルフやドワーフ、獣人たちは、この領土から追い出すようにと言われた。父は、当然、そんな条件は呑めぬと答えた。
『彼らは、我が国民であり、大事な仲間だ。そもそも、この国の先住民族である、彼らを追い出すことなどできぬ』
父がそう答え、しばらくすると、我が国に大軍が押し寄せて来た。異教徒を成敗するのだと言って……。
その戦で、父は討ち死にしたのだ」
「……」
どう言葉を掛けていいのかわからない。
ただ、神妙な顔で頷くことしかできなかった。
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