32 学校があったら通ってみたいと思いますか?
女性の言葉を受けて、楽しそうに語らっていた者たちも一斉に口を噤む。賑わっていた雰囲気から急転直下、皆、水を打ったように静まり返った。
まるで、見ないようにしていた現実を突きつけられた、というような風情で肩を落とす。
皆、一様に口惜しそうな表情を浮かべては、それでも諦めきれない夢を再び語り始めた。
「そっか、そうだよなあ。俺、魔道士になりたいって言ったけど、文字が読めないと魔導書が読めないのか、そっか……」
「そうだな、俺も楽士になるって言っても、楽譜どころか文字が読めねえや」
ヴィネ様は、再び民たちに問うた。
「では、読み書きや簡単な算術を習える場があったとしたらどうた? そのような場があったら、皆は今からでも学びたいと思うか?」
「え? 貴族じゃなくても学べるのか?」
「学べる場がありゃあ、ありがたいもんですがね。いや、でも、金が……。俺たち、学問に払える金なんか、持ってないですよ」
「それでは、無料なら、どうだ?」
「え、無料!? 無料で、読み書きを教えてもらえるんですかい?」
「無料か。無料ならなあ。学んでみてえよなあ」
「大人になった今からでも、間に合うのかなあ」
「子どものうちから通えたらすげえよなあ。うちの子どもが、役人になって出世する可能性もあるってことか?」
「ああ、子どもたちには是非とも学ばせてやりてえよな」
「あたしは、子どもと一緒に通って勉強したいよ」
「子どものが、できがよかったりしてなあ」
「ハハ、あるかもしれねえなあ」
楽しそうに未来へ夢を馳せる民たちの反応を見ていたヴィネ様は、決意したというように、こくりと頷くと口を開いた。
「決まりだな。エレイン、セパル。まずは、急ぎ民たちが学べる場を作ろう。貴族の次男以下で無職の者がいれば、指導者として雇うとしよう。もちろん、夫に先立たれた貴族女性や、子育てがひと段落した貴族女性でもかまわない。性別や種族、身分は問わぬ。読み書きのできる者が、できない者に教える場を作ろう」
「ありがとうございます! 義務教育の場を作ってくださるのですね!」
ヴィネ様の英断に、私は興奮を覚えつつ礼を述べた。
「ああ。それと緊急に国中へふれを出そう。身分にかかわらず誰もが好きな職に就けるような採用試験を始めてみようではないか。これら、教育や雇用に必要な財源は、ひとまず王家の私的財産から捻出しよう。いずれ、税制改革で国庫が潤った時には、国庫から出してもらうようにするぞ」
「はい! 陛下、さっそくありがとうございます!」
「それと同時に、女性たちのためには、保育の制度とやらを整えねばならんな。エレインとセパル、明日からさっそくこれらの仕事に協力してあたってくれ」
「は、かしこまりました」
「はい、陛下」
こんなに素早く私の提案を受け入れてくれるだなんて。しかも、民の反応を見た上で決めるとは、なんという名君だろうか。
ヴィネ様の政治手腕に、ただただ感動するばかりだった。
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