5 まずは台所から改革しましょう! 便利な道具を提案してみます
* * *
30分後。
先ほどまでの期待に満ちたベルクの目は、いまや失望に彩られていた。
「残念です。エレイン様のお力添え、期待していたのですが……。野菜の皮むきは、難しかったですよね……」
期待に応えることができず、私自身も悔しい。
私は、前世でもこの世界でも、料理の下ごしらえをした経験が、あまりなかったのだ。
前世では、コンビニエンスストアというものが町の至る所にあった。
24時間、いつでも好きな時に、お弁当やお総菜を買うことができたのである。
ゲーマーで彼氏もいなかった私が、手の込んだ料理を作る機会はあまりなく、朝も昼も夜も、コンビニにお世話になりっぱなしだった。
けして、料理ができないわけではない。
しかし、コンビニやスーパーマーケットに行けば、カット野菜や冷凍野菜というものが手に入った。
料理を作る必要がある場合でも、下ごしらえの手間が省けるそれらの野菜を使って、時短メニューを作るのが常だったのだ。
そして、この世界に転生してからの私は、公爵令嬢である。
裁縫や刺繍は貴婦人の仕事だと教え込まれたが、厨房には立ったことがなかった。
「ええと……期待されていたところ、本当に申し訳ありません。面目ない次第です」
「いえ、こちらこそ、元公爵令嬢のエレイン様に、このような下働きの仕事をお願いした私が、そもそもいけなかったのです。気が利かず、大変失礼いたしました」
「あ、いいえ、そんなことは……!」
なんとか、期待に応えたい。
ヴィネ様のためにも、がっくりと肩を落とすベルクのためにも。
そう思って、何か役に立てるアイデアを提案できないかと、私は必死に考えを巡らす。
「あ、ああ、そうだわ、ピーラー……ピーラーさえあれば! もう少し、何とかなったと思うのですけれど……いえ、でもこんなのは単なる言い訳に過ぎませんわね」
そう、ピーラーさえあれば、私だって野菜の皮むきぐらい何とかなるのだ。
実家で夕飯作りの手伝いをしたことだってある。
何度も言うが、私だってけして料理ができないわけではないのだ。
ただ、忙しい日常の中、効率を第一の優先事項と考え家事を行っていただけなのである。
(あれ、でも、ピーラーがあれば、この忙しそうな人たちも、時短料理が作れて助かるのかしら?)
「ピ、ピーラー……ですか? それは、いったいどういったものなのです?」
聞いたことのない単語に、ベルクは小首を傾げる。
「ピーラーというのは……」
私は床の土間に、指で絵を描きながら、説明を始めた。
「Y字型になった道具の先端に、細い刃が二枚ついているのです。二枚の刃の間には、少しだけ隙間が空いていまして。刃はちょっと動くように止められているのですが……。で、手前に引くと、スルスルっと皮一枚分の厚さだけ、むけるようになっている道具なのです。これはけして、無精しているわけではなく、時短料理のためには……」
「それは……! 確かに便利そうですね!」
先ほどまで失望一色だったベルクの顔に、希望の色が浮かぶ。
「『時短』とおっしゃいましたか? それは……」
「便利な道具を使って、作業を簡略化し、時間を節約するという考え方です。『時は金なり』という言葉もあります。時間自体、とても価値があるものですから、作業時間を節約して、空いた時間は他のことに使用した方がよい、という考え方です」
「なんと、画期的な考えですね。料理人たちは、毎日、とても忙しいのです。今は朝なので、夕食時に比べれば余裕はありますが。夕食となれば、今の比じゃないぐらい、慌ただしくなります。それでも今日は暇な方なのですよ。客人を迎えるとなれば、こんなものではすみません。その道具があれば、料理人たちの仕事は楽になりますか?」
「そうですね……おそらく」
「では、さっそく試作品を作らせてみましょう」
ベルクは笑顔を浮かべ喜んでくれているが、私としては今ひとつ納得がいかない。
前世の知識と小さな頃から積み重ねてきた勉強をもとに、「ババーンと派手に内政改革! ヴィネ様のお役に立つわよ!」と意気込んでアヴァロニア王国までやって来たものの、現実は理想に追いつかない。なかなか難しいものだ。
(これじゃあ、ベテラン主婦の便利グッズ発明って感じだわ。いや、いいんだけど……便利グッズが悪いわけじゃないんだけど。こんな地味な改善案だけじゃダメ。もっと、なんとかいいアイデアを出さないと、私!)
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