第十二話 排他的な
「みゆきさんの話には一言も触れないね」
なんだか腹が立ってきたのでけんか腰でどうしてあんなことをさせたのよと怒鳴った。
「華の手も足も出ない人が兄貴の前に現れたらどうするのか見てみたかったから」
「・・・・・・。よくもあんな完璧に見える女性を見つけたものよね」
半ばやけくそ気味になってしまった。
すると崇は、お、負けを認めるんだと笑った。
「彼女なら華みたいに昨日と同じ服を着たりしない」
何で知っているのだと怒りが頂点に達してきた。
「あの人ね、僕みたいな中学生でもネットで難なく見つけられたよ。彼女が子持ちの未亡人で、お金に困ってるみたいだったから話を持ちかけたんだ。本当に兄貴の彼女役を演じてくれるか最初は半信半疑だったけど報酬の話をしたら、意外とすんなり承諾してくれたよ」
「守も・・・、バカね」
崇は全くだという顔をすると、交際費も全部負担してたみたいだよと言った。
「彼女のウソを全部鵜呑みにしてるんだぜ」
「そりゃするわよ。彼女はしたたかな人には見えないし、きちんと生活していそうだもの」
「けどカードが限度額まで達してるのに返済義務を怠ってることろは華と共通してるよ」
大きなお世話だと思いながら、あんたみたいなガキに明るい未来はないと私は断言した。
「だろうね。僕ってさあ、いかにも少年犯罪を犯しそうなタイプじゃない?」
これだけ話していて崇の腹の内がやっとわかってきた。
「僕はね、もう何年も兄貴と口をきいていないんだ」
だからといって憎しみ合っているわけでもないんだけどと崇は言い添えた。
「あんたみたいなのが弟で守に同情するわ」
崇はそれは華の正直な意見だろうねと言うと、でも自分のおかげでみゆきさんと疑似恋愛できたのだから感謝してほしいと言った。
「むしろ貧乏くじを引いたのは僕だと思うよ。兄貴なんかの弟に生まれて」
崇の沈着な態度を見て、彼から身を守ることは恐らく不可能だろうが、何が彼をそうさせる原因なのかを突き止めたいと思った。
「どうしたいの?」
「わかってるくせに」
「私に何かしたらあんたは犯罪者よ」
「うん。でも兄貴は心を入れ替えるんじゃない?自分がもっとしっかりしてればって、やっと自分の不甲斐無さに気が付くんじゃないの?」
手が震えて頭がだんだん機能しなくなってきた。
「ギブアップ?」
そう言うと崇はベッドサイドのテーブルの引き出しから全長二十センチほどのアーミーナイフを取り出した。
それを見た途端、もう平静を装う必要はないと思った。
「抵抗してみる?」
崇は腕を伸ばしてナイフを私の顔面に向けるとゆっくりと刃先を下ろしていき、腹部の辺りででその動きを止めた。
「なんか名残惜しいな」
かつて夢の中でこんな光景を一度見たことがあると思った。
そのときの私は誰かに絞め殺されて息絶えたような気がする。
あのときみたいにきっと私は逃れられない。
「観念した?」
崇の目は据わっていて、何かに憑かれたような顔をしている。
早くしてくれと思った。
早く解放されたい。
崇はナイフを握る自分の手の上に震える私の手を重ねると、全身の力を込めて腹に押し込んだ。
呼吸ができないほどの痛みを感じながら、私は腕の中の崇を血液でぬるりとした手で抱きかかえた。
この子はこんなにも華奢だっただろうか。
今は自分の浅くて速い息遣いだけが耳に届いている。
誰かの声に意識が呼び戻されるのだが、それに応えるのがとてつもなく億劫だ。
かろうじて薄く目を開けると、そこには守がいた。
しきりに私の名前を呼びながら不細工な顔をして泣いて謝っている。
この若さで死ぬなんて随分短命だなと思ったが、どうやらなんとか私は生きている。
「華ちゃん、華ちゃん、ごめんね!」
謝るくらいならお前の弟が刺す前に助けに来てくれよと思い、声もまだ出ないので聞こえていないことにした。
この借りは絶対返してもらうからなと思った。
そろそろ終わらせます~。




