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誰しもが  作者: たこみ
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第十三話 初めからずっと

 私が崇に刺された事件を近所の人で知らない人はさすがにいなく、大浦家はこの町を後にした。


 日を追うごとに、私は崇のことを考えるようになった。


 あのような手段しかなかったのだろうかと。



 守は途切れることなく私の入院している病院を訪れ、両親には手を付いて謝っていたと弟経由で後々耳にした。


 神経の図太い私でさえも、さすがに怖ろしい体験をしてしまったために、あの日起きたことを夢に見ては発熱してしまう始末だ。



 残念ながら守と会えたのは崇に刺された私を、守が発見したときのみになってしまった。


 私の両親は守に対して目くじらを立てて怒っているわけではないが、やはりただ事ではないことが起きてしまったので、私と守は今後会わせない方向でもっていきたいようだ。



 脇腹の包帯が取れ退院の日取りが決まった頃、私の元へ守から長い手紙が届いた。


 達筆で、守の人となりを表わすような字だった。





 会うことは難しそうなので筆をとることにしました。


 華ちゃんには弟がひどい目に遭わせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。


 崇の犯した罪は兄弟である僕と両親にも責任があります。



 崇には何年も前から素行に問題があり、僕たち家族はそんな彼の状態をあやふやに済ませてしまっているところがありました。


 華ちゃんの事件は起こるべくして起こってしまった事件だと思います。



 幼い頃から崇は僕とは比べ物にならないくらいしっかりとした子どもでした。


 何か兄弟の間で問題が起きると、喧嘩両成敗にはならず、不幸なことに決まって崇が折れてあげなさいと言われ、僕もその状況に甘んじているところがありました。


 六歳も年下の彼が兄のような役割を演じなければならず、今思うと彼の心情は計りしれません。



 何が起きても崇は自分の気持ちをさらけ出すことはなく、数年前とうとう彼は家を飛び出してしまいました。


 僕たち家族、特に僕と共に過ごすことが彼にとって負担だったのだと思います。


 そのときは関東に在住している親戚のもとで世話になっていたのですが、それから度々、彼は鉄砲玉のようにいなくなっては歪んだ表情をして戻って来ました。


 その頃から崇は家族と言葉を交わすことはなくなりました。



 彼は僕たち家族を存在しないもののように扱っていました。


 いつも濁った目をしていて、正直実の弟でも不気味な存在でした。



 けれど、崇が唯一強い関心を示していたのは華ちゃんだと僕は思います。


 華ちゃんと他愛のない話をしながら登下校しているときの崇はなぜだか幼い頃のありのままの崇に見えたのです。


 華ちゃんには申し訳ないけれど、きみという第三者を介して崇の日常の様子を僕は探り出そうとしていました。



 私は守の文章から目を逸らすと、長い溜息をついて窓の外の空を仰いだ。


 崇との断片的な記憶が頭の中を駆け巡った。



 そしてどうして気付いてやれなかったのだろうかと自問した。


 もう少し崇のことを気にかけてやっていれば、あの子がああなってしまう前に防ぐ手立てはあったのかもしれない。


 だらしなく生きている私や、頼りない守が幸せそうに生きているのを見て理不尽な思いをしてきたのだろう。



 守の手紙にはその後も自分や家族の至らなさが書き連ねてあり、これからは私とは距離を置かなければならないという意思が読み取れた。



 手紙を読み終えると、それではこの先私の不平不満は誰が聞いてくれるのだろうかと心配になった。


 以前のように、気が付くと守が近くにいた生活を忘れることができるだろうか。




 頭の中には静かに笑っている守の顔があった。





 いつも冷静な津田さんも事件のことを知るとさすがに顔色を変えて気遣ってくれた。


「きっとあの子は私のぞんざいな生き方がよっぽど目に余ったんだと思うわ」


 カフェのカウンター席に並んで腰をかけている津田さんは、それだけではないと思うと呟いた。


「華やその子のお兄さんに嫌悪感を抱きながらも羨ましかったんだと思うよ」


 窓の外の雑踏に目をやりながら私は崇がせっかく自分に気を許してくれていたのに彼を追い込んでしまったと反省した。



「なにはともあれ、華が無事でよかったよ」


 そう言って頬を緩ませた津田さんに、もう私たちも会うのをよそうと提案した。



 思い付きだった。



 津田さんは都合の悪いことは本気にしない癖があるので、帰り際送ってもらう車に揺られながら再び今日で会うのは最後にしようと言った。


「ずいぶん思い切ったなあ」


 明るく振舞う津田さんになんとなく立腹し、私は思わず彼を睨みつけた。


 そこで会話は止まった。



 私の家の近くに車を止めると、津田さんは参ったという溜め息をついて僭越ながら一言言わせてもらうと言った。


「あっという間だったなあ」


 フロントガラスを見つめたまま別れの言葉を言う津田さんの横顔を私は見上げた。


「華といると、つくづく疲れることが多かったけど・・・、なんていうかその怠惰なところはきみの魅力だと思う」



 反論しようとすると、津田さんは黙っていろと手で制した。


「少し周りに気を配れば、華の生き方は間違っていない」


「・・・・・・。どうしてそう言えるの?」


 津田さんは頭を捻ると一年半の間私を見続けてきてなんとなくそう思ったと笑った。




 津田さんと別れたことを弟に告げると、姉貴は本当に男と長続きしないなと呆れられた。


 俊介の部屋は私の部屋と比べてとても日当たりがいい。



「いいのよ。もともと私晩婚派だし」


 弟はよく言うよと苦笑いし、ベッドの脇にあったメガホンを手に取ると、それを口に当てて誰かの愛人とかはもうやめて、守さんみたいな真面目な男と結婚したらどうですかと叫んだ。


「津田さんは独身だったわよ!」



 そう叫び返しながらも、思わず守と一緒になってなぜだか大家族になっている未来を想像してしまった。


「イヤすぎ!」



 守はもう会わないでおこうなどと言っていたが、いつの日か、絶対再会してやると私は心に決めている。


 あんなに気前よくおごってくれるのは守だけだし、私のありとあらゆる恥部を見せられるのはあいつだけだから。


 守の中でけじめがつくまで、私は首を長くして待つつもりだ。


 ひたすら待ってやる。



 あいつと私の縁が切れることは決してない。


 守にどうしてそう言えるのだと問われたら、私はそんなこと知るか!と応えるだろう。





 了

なんとか終わらせることができました。

読んで下さった方々、ありがとうございます♪

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