卒業制作
「頼むよ、ヒロシ。アーカイブにあるファイルじゃぴんと来ないんだ」
「うん、分かった。平板すぎるって感想は俺も同じ。何ていうかデジタル臭いっていうか、ランダムさが足りないんだよね」
「制作も終盤なのに、悪いな」
「大丈夫。アテはあるから」
映像専門学校の卒業制作。ヒロシの担当はSE(効果音)であった。
演出のヨシオがここに来て煮詰まった。雨音のSEが気に入らないという。
霧雨。細雨。小糠雨。煙雨。
そんな雨の「音」が欲しいのだと。
「別にいいけど。細雨なんて、俺のPCじゃ変換できないんですけど」
ぶつぶつ言いながらも、ヒロシはやる気を出していた。
「こういうチャレンジって、燃えるよね」
実家に帰ったヒロシは、亡くなった父親の書斎に上がる。
使われていない部屋は少し黴臭い。
「厨房の頃、勝手に弄って親父に怒られたっけ」
父の書斎には古いオーディオセットが置いてある。無駄に大きいそのセットは六畳間を狭く見せていた。
きれい好きの母親が頻繁に掃除しているのだろう。部屋には塵ひとつ落ちていない。
「ボッ」
電源を入れると独特の音を立てて、オーディオに火が入る。
「オーディオじゃない。ハイファイセットだってうるさかったな、親父のやつ……」
チューナーのダイアルを回して音を探っていく。
「FMよりAMの方がいいかな。うーん、もう少し……」
わざと放送バンドを外れた周波数帯を探る。アナログチューナーのダイアルを両手で持って、微妙な感度を拾う。
「何だか金庫破りみたいだな。お宝はどこですか?」
ふと音が変化し、空気を噴き出すようなホワイトノイズがスピーカーから響いた。
「お? 来たか? もう少しきめ細かい感じ。それで広がりが欲しいんだよね」
シャーというその音は、小雨が地面に落ちる音に聞こえなくもない。
「揺らぎと広がりね。アナログの実力を見せてもらおうか……」
気がつくと2時間の時が経っていた。




