序幕 「なんで消えるの……?」
初投稿です! 温かく見守っていただけると幸いです。
「えっ⁉」
リホは最初、何が起きたのかわからなかった。
盗賊崩れの冒険者が男に切りかかっていって、
そして切りつけた剣ごと、風に吹かれた砂粒のように消えていってしまったのだ。
あとには何も残っていない。冒険者の持ち物も、血すらも。
巨大な岩山に背を預ける形でへたり込みながら、リホには何が何だかわからなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
話は一刻ほど前。
リホは男達から逃げながら、これまでの人生を思い返していた。
(逃げた先が死の大地なんて運悪すぎ)
(そもそもこんな連中とパーティー組まなきゃならないのも運の悪さ故)
(もうこれ以上、わたしの人生何が起こるっていうの?)
とにかく何をやってもダメだった。
生まれた村を母親と共に半ば追い出された形で出て、母親が亡くなったあとはとにかく食つなぐことだけを考えて生きてきた。
剣技もダメ。魔術もダメ。職業訓練校ではどちらも「才能がない」と切って捨てられた。
唯一何とかなりそうだった探知の能力を必死に使い、探索者として生きる道を見つけたが、依頼を受けるたびに不幸な出来事が重なって失敗した。
その結果依頼をこなせない、更には居ると依頼を失敗させる探索者として知れ渡り、仕事をもらうことができなくなって、その街を出ることを繰り返した。
そうして流れ着いたクァッドの街で遭遇したのがこれだ。
金欠と空腹で耐えられなくなり、怪しさよりも目先の利益に飛びついて加入したパーティ。
報酬は相場の6割程度だったが、とにかく食べ物にありつけたのが大きかった。
がつがつと食事をするリホの姿をなめるように見つめているメンバー達の視線に気づくことなく。
案の定、街を出てしばらくした人目の少ないところで、男達はよからぬ考えを抱く。
リホは襲われる直前に察知してからくも逃げ出すことに成功したが、男達は諦めずに追ってくる。
きっと今回のことがギルドに知れれば、自分たちがお咎めを食らう&ここにいられなくなるからだろう。
むしろ、いままでこいつらの悪行が表に出ていなかったのは、こうして狙った獲物を必ず手に入れる(あるいは手にかける)ことができていたからかもしれない。
逃げ足はリホのほうが速かったのですぐに追いつかれることはなかったが、男達はリホの逃げ道を狭めるようにして徐々に、そして確実に追い込んでいた。
リホは自分の逃げている先を見つめて、半ば絶望していた。
『死の大地』。
そこは生きているものが存在しない、入ったものが出てこられない、鳥が上空を飛ぶことすらないという、まさに死が支配した台地、という場所だった。
見渡す限り巨大な岩壁が広がっており、そもそもその先に進むことすら拒絶されている、ある意味世界の果て。
リホはそこへ追い込まれていた。
岩壁を背にして短剣を構え、自分を半円状にゆるく包囲した男達を睨みつけながら、
(う~、でもこのままあいつらの慰みものにされて人生終わるなんて、なんとかならないかあ~。誰かたすけて~~~~~!!)
と必死に考えていたとき。
リホの視界に突然男が現れた。
それはリホと男達との間に突然現れた。
長身で体格はいい。着ているものはかなり良い仕立ての服で、およそ冒険者には見えない。大体丸腰だ。
どうみてもこの場所に似つかわしくない。
というか、今このシチュエーションに合っていない。
男はゆっくりとリホのほうに近づいてくる。
リホは警戒したが、男はまるで構わずにリホから少し離れた場所の岩壁に手を当てていた。
「た、助けてください!」
「?」
「お願いします!助けてください!」
リホはとっさに叫んだ。
「助けることになんかメリットある?」
返ってきたのはずいぶんな言葉だった。
「え、えっと・・・(わたし何も持ってないし・・・)」
「何かメリットがあるなら考えてやってもいいけど?」
「な、なんでもします!」
「そういうの別にいらない」
「あなたの奴隷になります!
「奴隷?いらないなぁ」
「あなたのものになります!だから、助けてください!!」
ここで男が反応した。
「あなたのもの・・・ものねぇ。おれの所有物になるってことかい?」
「えっ、あっ、はい、それで構いません!」
「ほほう、所有物ねぇ。それは初めてかもなぁ・・・・」
男はしばしあごに手を当てて考えた。
「よし!その条件でいこう。」
そういうと男はくるりと振り向き、ここまでのやり取りをポカンと眺めていた男達と向き合った。
「こいつは今からおれのものになった。ということでお引き取り願おう」
「はぁ? ふざけんじゃねーぞ、てめぇ!」
半円の中心にいたリーダーの戦士風の男が怒鳴った。
「てめぇから始末してやるっ!」
そういって戦士風の男は長剣を抜いたかと思うと即座に切りつけてきた。
「あっ!?」
リホが思わず声を上げたが、男はまったく動じない。
そして剣が頭上に振り下ろされようとしたその時。
切りつけた剣先が砂が崩れるように消えていき、ついで戦士風の男の身体も同じように消えていってしまった。
「えっ!?」
リホは自分の目の前で何が起こったのかまるでわからなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
何が何だかわからなかったのはリホだけではない。
仲間の男たちも今目の前で起きたことが理解できず立ち尽くしていた。
リホの前に立った男は冒険者たちを見回し、
「どうする?俺としてはお引き取り願うのが一番良いと思うんだけど・・・」
と相変わらず何事もなかったかのような口調で話しかけている。
冒険者たちはまだ状況がつかめず、かといってこのまま引き下がるのは許せないと思ったらしい。
目の前の男が丸腰だった、というのもあるだろう。
包囲を狭めてそれぞれが自分の武器を掲げた。
「あぁ、やるのね?知らないよ、俺。やめたほうがいいのに…」
リホの前の男はまだ平然としている。
すると冒険者たちはまず魔術師が術式を唱え、拳大の火球を放った。
それに併せてもう一人の戦士風と僧侶が武器を振り上げ突っ込んでくる。
前衛と後衛の連携のとれた動きだった。
しかし。
火球は男に当たる直前で消失し、打ちかかった二人はさっきと同じように、自分たちが持っていた武器ごとかき消えていった。
「・・・だから言ったのにねぇ。」
男はそんな様子を表情も変えず見ている
一人残った魔術師は混乱したのか、「う、うわぁ~~」と叫びながら杖を振り回して突っ込んできた。
結果は前の3人と同じ。杖ごと消えてしまった。
リホはたった今目の前で起きたことが理解できなかった。
(えっ、えっ? なに? 消えたの? いなくなったの? どうやって?)
状況を説明しようと必死で考えるが、リホの常識を完全に超えていた。
「で、だ」
「は、はい!」
「おまえはこれでおれのものになったんだよな?」
「は、はい!!」
「じゃあ、ついてこい」
男はそう言って岩壁に手のひらを当てた。
「お前の手をおれの手の上に乗せな」
「こ、こうですか?」
言われるままリホが自分の手を男の手の上に乗せた。
「これでお前も出入りは自由だ」
「!?」
突然、目の前の岩壁に大きな穴が音もなく開いた。
「いくぞ」
男は穴の中へすたすた入っていく。
リホは驚きで声も出ないまま、慌てて後をついていった。
穴の中はほんのり明るく、足元も平らで歩きやすかった。
真っ直ぐな道をしばらくいくと、先が明るくなって、さらにその先に大きく開けた空間があった。
「おかえりなさいませ、マスター」
そしてそこで待っていたのは豪華な貴族衣装を身にまとった骸骨、アンデッドだった。




