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As9.揺れる馬車、反芻される過去

 翌日になり、早朝のオスティウム行きの乗合馬車に乗り込むヴァラロスとオーディーン。馬車であればその日のうちにオスティウムへ到着することができるだろう。朝早かったため、ヴァラロスの日記はまた翌日へと繰り越していた。


 丸一日かかるので一緒に乗っている他の人々は体力を温存するために目を閉じて休んでいる。たまにずっと喋っている人もいるが、幸いこの中にはいないようだ。そのまま馬車に揺られて馬の蹄の音や馬車の車輪の音が心地よく聞こえてきた頃にそれを邪魔する声がヴァラロスに襲いかかる。


「……なぁ、お前さんは王都に行ったことがあるのか?」

「…………はぁ」


 無視しようかとも思ったが無理だろう。真横からの発言は確実にヴァラロスを捉えていた。そう、オーディーンが話しかけていたのだ。寝入りそうなタイミングで声をかけてきたため、少しぶっきらぼうになりながらヴァラロスは答えるのだった。


「あぁ。王都から西の方にあった村に住んでたからな。……あんたなら知ってるだろ?」

「俺は俺の知ってることしか知らないぜ」

「そうですか……」


 もう突っ込む気も起きないヴァラロス。乗合馬車のため、不用意な発言を避ける必要がある。しかし、この男はそれを分かっていないのかどんどん話しかけてきた。


「西の村ってことは……王都を訪れたのはかなり昔か?」

「……そうだ。まだ子供の時。……故郷を焼かれた俺は王都に連れて行かれた。そこで冒険者になり、ギルドでお世話になったんだ」

「そりゃ大変だったな。そんで、剣は誰に習ったんだ?」

「……絶対分かって言ってるだろ」


 ヴァラロスは心底恨めしそうにオーディーンを見る。稽古をつけてくれた師匠がいたのだが、それが誰かと敢えて聞いてくる時点で、やはりこの神は性格が悪い。


「……俺の師匠はフォンスだ」

「「!?」」


 その時、同乗者のうちの何名かが反応した。分かっていたのか、それを気にせずオーディーンが言葉を続ける。


「なるほど、つまり()()()()()()()()()()()()ってわけか」

「そんなんじゃない。ただ、ちょっと知ってるだけだ。もういいだろ、少し休む」


 ヴァラロスはそう言うとオーディーンから顔を背けて休む体勢に入る。その態度はこれ以上は話しかけてくれるなといったものであった。







 その後、長時間馬車に揺られた後、辺りが暗くなってオスティウムへと到着した。


『その日は朝早かったため翌日に書いている。とうとうポルトゥスへ到着した。まさか本当に一週間で到着するなんて思わなかった。あの筋肉だるまは到着するや否や商売をしに行った。結果を聞いたが、やはり港にあの船専用の船着場を建設するとのことだった。あれだけ早く移動でき、一度にたくさんのものが運べる船があれば優遇するのも無理はない。職人達も何人か技術顧問としてポルトゥスに留まるようだ。……いつの間にか大事になっていたようだが、こちらも新しい出会いがあった。ポルトゥス北部に位置する武器屋の店主タシットと、隣に店を構える防具屋のアラクリスだ。二人は幼馴染のようで真逆の性格に見えるのにとても仲が良さそうに思える。時折感じた、あるべき何かがいないという感覚。きっとそれは目の前にある光景だったのだろう。いったい何があっていなくなってしまったのか。もしかすると勇者として覚醒したことが原因なのかもしれない。弓を使ってみたら狙ったところに矢が刺さるのだ。何度やっても狙い通りに刺さる。こんなのは普通ありえない。あの神が言った通り、どうやら勇者とやらの力を持っているらしい。いつか、会えるだろうか……。そんな目の前の二人はどうやら困っていた。品や材料が届かないとかでギルドに調査を依頼していたようだ。どうにかしてあげたい。そう考えて依頼を受ける事に決めた。方角はオスティウム。原因があるとすればその先にある平原だろう。昔、師匠に無理難題を言われて死にかけた……いや。思い出すのはやめよう。あいつが思い出させるのがいけない。その日は翌日に備えて寝る事にした』


『オスティウムに到着した。案の定移動に丸一日かけることになった。前に通ったのはもう十何年も前のことだ。それにも関わらず全然変わっていなかった。でも、なんでだろう。前にここを通った時に比べて見える景色が違って見えた。前はただ力を求めてた。みんなを守る力を手に入れようとして弟子入りした。そして、居場所を求めて彷徨っていた。……いや、やめよう。今は気持ちがスッキリしている。ただ、足りない何かを求めて旅しているだけだ。前と違って前を向いている気がする。だから、少し景色が違うように見えたのだろうか。しかし、あの神はどこまで見透かしているのか。絶対あの場で話さなくても良かったはずだ。……だめだ。どうしても昔を思い出してしまう。今は目の前のことに集中しよう。あの二人の問題を解決しなければ。そうすれば、やっと恩返しができるかもしれない』


「…………ふぅ。今日はもう寝るか。明日は聞き込みからだな。あの筋肉だるまにも協力してもらおう」


 いままで振り回された分、こき使ってやろうと考えるヴァラロスは明日に備えてベッドに潜り込むのであった。

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※本編完結してるので完結フラグつけてますが、続き書いてます

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