第65話 修学旅行が始まったぞ
【修学旅行編】開始です。
時に不真面目に、時にカッコよく、そしてポンコツに、という感じです。
気がつけば、俺は修学旅行の初日を迎えていた。
今日から、2泊3日の京都の修学旅行。
人生で最初で最後の修学旅行だ。
正直、楽しみすぎて、一睡もできなかった。
しおりも一回で理解できるが、何回も読んで、頭の中で、ゲシュタルト崩壊して困っていたところだ。
それだけではない。
俺は、この修学旅行で、陽菜さんに告白するんだと思う……
……多分……
まあ、様子見てだが……
なにが起こるかわからないから、告白のシュミレーションは、53万通りも考えといた。
これだけ考えても不安でいっぱいだ。
おかげで睡眠不足だぜ。
リサの作ってくれた朝食を食べ、準備をし、玄関でリサが見送ってくれた。
「ちゃんと、お土産の木刀買ってくるから安心してくれ」
「ありがとうございます」
「俺がいない間は別に家にいなくていいぞ。自由にしてていいからな?」
「では、せっかくの機会ですので、全裸ヨガでもしておきますね」
「お、おう……。カーテンは閉めておけよ……」
「そうしておきます」
「あ。そうだ。これを持っていってください。困った時はお使いくださいませ」
リサから渡されたのは、数個の小さな透明のジッパー付きのポリ袋だった。
そして、その中に、白い粉が……
「いくら修学旅行初めてだからって、現実逃避したりしないぞ……」
「これは砂糖ですよ。それも糖度の高めの。京都でのお食事だけでは、光さまの体が持たないかもしれませんし、なにが起こるかはわかりませんし、是非持っていってくださいませ」
なんだ。砂糖か。
他の人が見たら、大騒ぎだな。
「ありがと。 じゃあ、これで用意は万全だな」
「あと、この缶バッチ……以前、お守りとおっしゃていませんでしたか?? 机の上に置きっぱなしでしたけど……」
手に持っていたのは、深月さんと交換したバッチだった。
持って行かないつもりだったが、まあ、お守りは多くても大丈夫であろう。
腕にパワストーンをつけ、カバンの奥に缶バッチをしまった。
「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃいませ」
集合場所の駅に着くと、ほぼみんな集合していた。
クラスの場所に行くと、陽菜さんに声をかけられた。
「おはよ〜〜!!」
「おはよう」
「あ〜〜! パクリだな〜〜??」
陽菜さんが俺の宿泊用のカバンを指差した。
よくよく見ると、陽菜さんのとお揃いであった。
派手でも目立つし、男女兼用で白色のシンプルなもを選んだ。
陽菜さんレベルが持つと、シンプルな鞄が逆にオシャレで高級品のようだ。
ちょっと、困ったな。
偶然とは言え、ペアルックみたいになってしまった。
まあ、今更か。陽菜さんが嫌がっていないならいいか。
「本当だな。やっぱシンプルが一番だよな」
「だね〜〜!!」
新幹線の中での時間は楽しみの時間である。
席順は行動班で座る。
そして、その行動班は、以前のような遠足のように知らないメンバーではなく、いつものメンバーになれたのだ。
ということで、陽菜さんと隣だ。
陽菜さんは俺の右側で、新幹線の景色を楽しんでいる。
一応、告白するかもしれない。
好感度を上げておくにはありがたい環境だ。
と思ったが、そうでもなかった。
通路挟んで、左隣に深月さんがいるんですけど……
俺らが1組の最後の班で、深月さんが2組の1班だからか……
なんか……気まずい……
普通に陽菜さんと話したいが、深月さんに見られてと言うのも……
別に気にすることでもないんだろうが……
帰りもこの席か……
もし、陽菜さんに告白して、振られたら……
サンドイッチで地獄だな。
そんな中、出発してからしばらくすると、数井さんが「ねーねー!! トランプ持ってきたよーー!! やろう!」と、いつものメンバーに声をかけた。
見渡してみると、他のグループも色々やっている。
これこそが修学旅行だよな!! 想像通りだ!!
カードを切っていると、数井さんがなにを血迷ったか、近くにいる深月さんにも声をかけた。
「せっかくだし、深月ちゃんも一緒にトランプやらないーー?」
まあ、数井さんと深月さんは文化祭の時にも話していたし、交流はあるんだろう。
「……私? 誘ってくれてありがとう! でも、クラスの人の邪魔するもあれだし……大丈夫だよ」
須子や高安も前に同じクラスだったからか、『別に気にしないっすよ!』と深月さんを誘っている。
「大丈夫だよ!! 陽菜もいるし、月城くんもいるし!! 文化祭の時仲良かったでしょ??」
おいおい!!数井さん……。
深月さんは、俺がいるから困っているんだよ……
文化祭で仲良かった月城くんはやらかしたんだよ!!
みんなにはそのことは言っていないからな……
ありがた迷惑というやつだな。
陽菜さんは特に気にしていない様子だった。
真面目な話、悩んでいることはある。
深月さんのことだ。
陽菜さんの妹とこんな状態で、陽菜さんに告白するのも気が引ける。
別に結婚を前提とか、重たい話ではないかもしれないが、生半可な気持ちで付き合いたいわけでもない。
家族の関係は大事であろう。
陽菜さんは、全て知っているとはいえ、妹と気まずい状態だったら困るよな。
先に、深月さんとの関係も解決しないとな。
気にしてないようだが、気にしているかもしれないし。
ただ、どうすればいいんだろう。
深月さんも断りきれず、いつものメンバーと深月さんでババ抜きが始まった。
席順的に、俺は陽菜さんのを引き、深月さんが俺のカードを引く。
深月さんの方に手を伸ばして、深月さんも無言で俺のカードを取る。
俺らは、周りの人にバレないように、できるだけ気まずい雰囲気は醸し出さないようにした。
ある意味、協力関係に戻ったのかな。
この状況は、もしかしていいかもしれない。
こういうのがきっかけで、何か深月さんと関係を修復できるかもしれない。
でも、なんて言って謝ればいいのか。
わかってたらとっくに解決しているしな。
『騙してごめん』で許されるわけではないし。
まあ、今はババ抜きに集中しよう。
とりあえず、俺が1抜けしたせいで、陽菜さんと深月さんが手を伸ばして、ババ抜きをすることになった。
陽菜さんも俺の方に近づくし、深月さんの手も伸びてくる。
なんか気まずいので一旦、トイレに逃げた。
せっかくなので、用を足して、トイレから出ると、見たことある面影が目に入った。
弟とばったり会ってしまった。
え。びっくりした……
なんで?? なんかの仕事?
グリーン車の方を見ると、龍上の奴らが座っていた。
まじか……。コイツらも京都の修学旅行かよ……
最悪だな。
「兄さんか。久しぶりだね」
弟は、周りを確認してから、俺に声をかけた。
そういえば、この間あった時は、我を失って、ぶっ殺そうとした時か。
悪いとは思っているよ。兄として。
「おう。じゃあな」
俺が車両に戻ろうとしたところ、深月さんと鉢合わせした。
狭い場所なので大きく避けることもできなかった。
「……」
「……」
俺らはなにも話さなかった。
話せなかったという方が正しい気がするな。
てか、この状況、文化祭の時に似ているな。
深月さんは、俺と弟がいると、偶然に現れるのかな。
そう思っていると、弟が俺の後ろから、「深月さん!! ごめん呼び出して!!」と声をかけた。
深月さんは、「遅れてごめん。ちょっと、友達と遊んでて」と言って、狭い車両の中、俺の横を通り過ぎ、弟の方に向かった。
まあ、そうだよな。偶然なわけないよな。
文化祭から結構時間経ったもんな。
それは進展はしているよな。
さっきまでの、俺は一体なにを考えていたんだろうな。
とりあえず、深月さんのことは保留だな。
今は、自分のことを考えないとな。
俺は陽菜さんを失うわけにはいかない。
席に戻ると、「なにか……あった?」と陽菜さんが心配してくれた。
「……ん? なにもないよ?」
「そっか。なんか凄く怒っているというか……悩んでいるというか……」
「気のせいさ」
俺らはその後もトランプで他の遊びをしていた。
しばらくすると、深月さんも戻ってきて、状況的に参加していた。
気がついたら、京都に着いていた。
ここからは、バスでクラスで行動だ。
今日は班行動はなく、クラスで行動する。
バスの席は、くじ引きで決まったが、今回も困ったことはない。
森さんと隣なのだ。
須子と変わってあげたいが、変に代わっても二人の関係がバレるからと断られた。
それに、須子の席は太ったモブ女だから、正直代わりたくはない。
頑張れ須子。
「ツッキ〜〜よろ〜〜」
「よ、よろ」
テンションはメンバーが知っているテンションだが、学校モードの外見の森さんだと調子狂うな。
バスでは、周りの男子たちは、美人のバスガイドに興奮していた。
ガイドと、男子のノリで車内はうるさいが、一応、俺は森さんに小声で話しかけた。
「そういえば、おめでとう。ラインでは言ったけど、現実には言ってなかったからさ」
「ありがとう〜〜!!」
「てか〜〜、そっちは陽菜と付き合わないの〜〜? いつメン以外の女子たちも噂しているよ??」
「そうなのか……。告白なんて気軽にできないよ。振られたら怖いし」
「振られないでしょ!! 陽菜もよくツッキーーの話しているし」
「悪口じゃないよね……?」
「大丈夫な……はず!!」
「え」
「冗談だって!! 陽菜の言うとおり、いじりやすいね〜〜」
「帰りたくなるから、やめてくれ」
女子ってなんでも話すんだな。
怖い怖い。
まあ、仲良いからいいけどさ。
それにしても、Sの二人は怖いって。
ちょっと、聞いてみたいこともあったので、聞いてみることにした。
「女子ってさ……告白して欲しいものなの?」
「人によるんじゃないかな?? りおなんかは告白したい方だし、陽菜は……されたいタイプじゃないかな??」
「そういうものなのか」
陽菜さんから確信ある行動されれば、俺も告白できるんだけどな
一応、女子の意見も手に入れた。
客観的に見ても、可能性はあるのかな?
そんな話をしていると、1組のバスの左横に2組のバスが並んだ。
ふと窓の外を見ると、深月さんと目が合ってしまった。
俺らは、咄嗟に、同時に目を逸らした。
ただ、そんな俺の行動を、森さんに見られてしまっていた。
「二人って……なんかあったの?」
「……え? ないよ」
「そう? だって、文化祭の時は一緒に仕事して仲良かったじゃん!!なのに、今はすごい気まずい雰囲気だし」
そうだよな。
実行委員とはいえ、みんなの前で歩っていたし。
まあ、2日目は陽菜さんなんだけどね??
「い、いや……」
「まさか、陽菜と三角関係だったとか?」
「違う違う」
「だよね〜〜! でも、人生ってなにが起こるかわからないから気をつけないとね〜〜」
「それはそう思う」
ほんの少しの出来事で大きく変わるんだなと、身に染みて感じている。
森さんと話をして俺は楽しかったが、美人のバスガイドが思いっきり運転手に向かってゲロを吐いて、1組のバスはお通夜状態にになったので話すのをやめた。
目的地になんとか無事に着いた。
バスの中の出来事は思い出したくもない。
俺の想像していた、修学旅行ではなかった。
ああ。外の空気って美味しいな。
歴史建造物の案内をされた。
歴史なんてどうでもいいが、建物はすごく迫力があった。
ネットとは違うな。
俺はインドアなので滅多に見ないし、普通に楽しめた。
正直、一番疲れたのは、みんなでいる時に、前の学校の奴に見つかって、一条だとバラされることを避けることだ。
明日の自由行動では会う確率も高くなるだろう
ただ、いつものメンバーは知っているのでそこは問題ない。
龍上の奴らが横を通るたびに、下を向いて、隠れるのは大変だった。
元々、俺なんか眼中にない様子で見つからなかったが、備えあれば憂いなしというやつだ
1日目の団体行動はあっさりと終わった。
でも、楽しかった
授業よりもあっという間に終わった気がするな。
ホテルに着いた。
残念なことに、龍上の奴らも同じホテルだった。
金持ち学校は、部屋は俺らより、高層階にある設備の良いところのようだ。
待遇も違う。
このホテルは、一条家の取引先でもある。
弟や龍上高校が優先されるのはわかるが……
ここにも一条家いるんですけど……
陰キャで見えてない気がするけど
これが資本主義か。なんか、嫌いだな
先生たちのダルいお話も終わり、『1組』と書かれたところに無造作に置かれた宿泊用の鞄をとって、各々部屋に向かうことになった。
俺も荷物をとった。
ん?
何か違和感を感じた。
「おい!! 月城!! どうした??」と須子が俺に声をかけた。
「……いや。なんでもない」
カバンの中身が少し軽い気がしたんだが、気のせいかな。
歩いてりして、筋肉がパンプアップしたりすると、重いものも軽く感じる時もあるしな
イジメで何かされていないといいけどな。
部屋は3人部屋だったが一人はソファーベットじゃないといけないようだ。
龍上の奴らは広い部屋で羨ましい限りだぜ。
「じゃあ、僕がソファーベットでいいよ」
「別に俺でいいぞ?」
「オレも」
「あのな〜〜!! 一条家とヤクザにそんなことしたら殺されちまうよ!!」
「彼女持ちの須子様は特別だろ。まあ、ここはじゃんけんにしよう」
「オレも賛成だ」
結局、須子がソファーベットになった。
この時間返せよと思いながら、こういうのも修学旅行の醍醐味かな。
夕食を済ませ、各自自由時間だ。
部屋で須子がペイチャンネルを払おうとしたが、目の前でパンツを脱がれても困るので高安と二人で阻止をした。
もうすぐ風呂の時間でもあるし準備でもするか。
俺は、テレビを見ながら、片手でカバンをいじっていると、なんかすごいフワフワしたものや、布の薄いハンカチのようなものが手に触れた。
なんだろうと思いカバンの中を覗いてみると、そこには女性用の下着が入っていた。
ああ……
これはシンプルなイジメだぞ?
『盗まれた!!』とかいって、荷物検査で俺が引っ掛かるのか。
とりあえず、これ以上指紋をつけるのは得策ではないので、近くのハンカチを取って中身を物色した。
あれ……? オレの荷物が一つもない。
てか、ガチの女物ばっかじゃないか?
それに、この……派手すぎず、可愛らしい、デカいブラジャー。
俺は見たことがある。
これ……
陽菜さんのだよな……?
でも……なんで。
ああ、そうか。
カバンが同じだから、陽菜さんが間違えて俺のを先に持って行ってちゃったのかよ!!
俺のカバンの中の砂糖を他の人が見たら勘違いするって!!
警察沙汰は勘弁だよ!!!
もう!! 陽菜さん!! なにしてくれるの!!
もうすぐお風呂の時間じゃん!!




