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ボルグさんと飲み比べをして10数日が経過した。
その間もボルグさんが飲み比べで敗北したという情報は立ち消えそうな様子はまるでなく、むしろ勝者のその後の足取りが全く分からないということで、『酒神が現界した姿』という噂がまことしやかに囁かれるという事態にまで発展している。
ドコにあの時あの場所にいたドワーフがいるか分からない以上、おいそれと商業エリアに行くわけにもいかない。おまけに職人エリアにいるかもしれないという根も葉もない噂?も流れ始めており、着々と逃げ場を失いつつあるこの現状。
ゴルド邸で『宿泊させてもらっている御礼』という名目で噂が収束するまでと思い彼らの仕事を手伝いながら半分引きこもりのような生活を送っているのだが、そろそろ諦めてニホンに帰った方が良いんじゃあないかと思い始めている今日この頃。
思い立ったら吉日ということで、早速ゴルドさんにお暇する旨を伝えることにした。
「これ以上お邪魔するのも悪いので、そろそろ帰ろうかと」
「そうか?仕事を手伝ってもらってもおるし邪魔だなんて思っとりゃせんぞ?」
「そうじゃそうじゃ。それに儂らの手伝いばかりして碌に観光などしとりゃあせんじゃろ。手伝ってくれるのはありがたいが王都をグルリと回ってみてはどうじゃ?無論、その間も屋敷をすきに使ったらええぞ?」
王都をグルリと観光?冗談じゃない。ドコにあの飲み比べをした酒屋にいたドワーフの目があるか分からない以上、そんなことは自殺行為に等しい愚行だ。何かいい感じの言い訳を……
「……実はそろそろハヤトに逢いたくなってしまいましてね。実は昨夜もハヤトと一緒に遊ぶ夢を見てしまって…」
「…ふぅむ。そうであるならば引き留めるのは悪いかの。まあ、気が向いたらいつでも遊びに来ると良い。手土産に酒があれば申し分がないがの!」
「うむ。まあ、酒が無くても構わんぞ。檀上殿ならいつでも大歓迎じゃ!」
嘘をついてしまった罪悪感はあるが、ハヤトに逢いたくなったという気持ちに嘘偽りはない。
近いうちに、また観光か何かで来ることにしよう。その時は今回のような失敗をしないよう、事前に店の情報を集めてからくることが重要だ。
気ままな旅を目的としていたが、まさか初手からあんな失敗をしてしまうのは流石に予想外過ぎた。観光パンフレットのようなものを『協会』辺りが出してくれるとありがたいが、この国に来ている人のほとんどは仕事がメインだから当面は発刊する予定もないだろうな…
翌朝、予定通りゴルド邸を出発した。
宿泊させてもらったお礼としてお土産のお酒を使用人さんに渡し、ドラゴンソード(仮名)を作ってい貰っている工房にも届けてもらうようにとお願いをした。
俺が直接持って行くのが筋なんじゃないかとも思ったが、『お酒を持って行く→よし、これから酒宴じゃ!』となりかねないので、念のためにお願いしたのだ。
それにしても、今回は『協会』の支部に顔を出さなかったな。いや、出せなかったというのが正しい表現か。それほどまでにボルグさんというドワーフの名前が大きかったということでもあるわけだ。
少しでも人目に付かないよう朝の早い時間帯から出発して、ダンジョンの近くまで行く胸を事前に連絡をしていたトラックに拾ってもらう。
そのトラックの運ちゃんもボルグさんのことを知っているようであり、彼が飲み比べで敗北したことを驚くと同時に新しい時代の幕開けだと楽し気に話していた。まさか助手席に座るこの俺が、その飲み比べで勝利した当の本人だとは思うまい。
彼の様子を見るに、やはりその噂が当面が消えそうにないことを改めて確信。早々にお暇すると判断した昨日の俺の判断が間違いではなかったようだ…




