告る
「久振りの外だな〜」
退院の手続きを済ませ、阿賀は家に向かうことにした。
日の光はいつもより眩しく感じ、建物の陰はいつもより暗く感じられた。
タクシー乗り場に行く途中で、
「たまには駅まで歩くか………」
と思い、駅まで歩くとこにした。
「んじゃ先輩、行ってくる」
「気をつけてね」
笠谷と多々和野は深海探査に行く直前、こんな会話をした。
「タニタニ………」
「どうしたんですか?」
多々和野の声が少し震えている。目も笠谷には見せてないがおそらく涙目だ。
「帰ってきますよ。俺はちゃんと。そしたら……………」
勇気もて笠谷!男だろう!ここで止まってたらダメだろう!もう一歩だけ、もう一歩だけ踏み出す勇気を………………!
「俺と……俺と付き合ってください」
「げ………嘘だろ」
駅にはある張り紙が貼ってあった。
『身投した男性が電車にひかれたため、電車の運行に遅れが出ております。ご了承の上、しばらくお待ち下さい。』
ま、急いでるわけでもないし別にいいか。それにしても身投って………縁起悪いな。
音楽プレーヤーをポケットから取り出し、へッドホンを耳に付けた。
「急いで引き上げて!」
「ダメです!上がりません!」
「ぐ…………急がないと…………….誰か阿賀に連絡しときなさい!」
赤羽は胸中何度も舌打ちをした。今日だけで二十回はしている。そしてちっとも連絡がつかないことにイラついた。
こんな緊急事態にあいつは何をしてるのよ?!
阿賀がポケットに手を入れていると携帯がふるえた。着信あり、とディスプレイに表示されている。中山からだ。
「もしもし、どうした?」
「阿賀さん聞いてください!潜」
ぶつり、と切れてしまった。
あ、俺の携帯、バッテリー上がってる。
電車が来たようなのでそいつに乗った。
家に着き、さっきの電話のことを聞こうと思い、電話の受話器を取ろうとした瞬間電話がかかっきた。
「もしもし?」
「阿賀?やっと戻ったのね…………………」
「赤羽か?電車が事故で遅れて携帯はバッテリー上がっちまったんだ。急用だったか?」
「急用……だったわよ…………馬鹿………………!」
「だった?どういうことだよ?」
「実はね……………………………」
続きを聞いた瞬間、受話器は俺の手から落ち、家の鍵を閉めるのも忘れ、深海センターに走り出した。
「リュウグウ計画が失敗して……」
しばらくの沈黙。そして重々しく言った。
「笠谷くんと那覇さんが死んだわ」
次回で最終回です!