愚者たちの末路と、届かない悲鳴「絵」
リリアーナが帝国へ去ってからわずか一ヶ月。かつての祖国、アルジェント王国は文字通りの崩壊の危機に瀕していた。
「な、なぜだ!? なぜ結界の魔力炉が動かない! 報告書も決裁が全く終わっていないではないか!」
王城の執務室で、元第一王子カイルは頭を抱えて叫んでいた。リリアーナという「国を支える大黒柱」を失った王国では、王都を魔物から守る結界が薄れ、行政は完全に麻痺していた。代わりとなるはずだった男爵令嬢マリーは、難しい書類を見ると泣き出し、魔力も一般市民以下であることが露呈していた。
「殿下、いえ、カイル様。国王陛下より沙汰が下りました。貴方の王位継承権を剥奪し、辺境への幽閉を命ずるとのことです」
「そ、そんな馬鹿な! 待ってくれ、リリアーナ! リリアーナを呼び戻せば全て解決する! 私が謝れば、あいつは必ず戻ってくるはずだ!」
血走った目で懇願するカイルだったが、宰相は冷ややかに言い放つ。
「今更どの口が仰るのですか。彼女は既に、帝国が誇るルシアン皇太子殿下の『最愛の婚約者』。我々のような弱小国が触れられる御方ではありません」
カイルが書いた「戻ってきてくれ」という見苦しい懇願の手紙は、国境の帝国軍によってあっさりと焼却され、リリアーナの目に触れることすら一度もなかった。
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一方その頃、大帝国ファルシオン。リリアーナは、帝国の国政においてもその桁外れの才能を遺憾なく発揮していた。
王国では「出しゃばり」と煙たがられた彼女の知識と魔力は、帝国では「天から舞い降りた至宝」として大歓迎された。
魔力運用システムの改良: 帝国の農業生産高を僅か数ヶ月で2倍に引き上げる。
新魔法薬の開発:流行り病を瞬く間に鎮静化させる。
完璧な礼儀作法: 厳しいとされる帝国の貴族たちを、その優雅さで完全に魅了。
「リリアーナ様こそ、我が帝国の未来を照らす女神だ!」
「ルシアン殿下は、なんと素晴らしい伴侶を見つけられたのか!」
国民からも貴族からも絶大な支持を得たリリアーナ。しかし、そんな彼女の有能さが、ある一人の青年の「不満」を募らせていた。
「……リリアーナ。君は今日も書類と睨めっこか。私の相手をしてくれないとは、ひどい妻だ」
背後からふわりと抱きしめられ、首筋に甘いキスを落とされる。ルシアンだった。彼は周囲の目を全く気にすることなく、執務中のリリアーナを膝の上に抱き上げた。
「ル、ルシアン様! まだお仕事が……っ」
「君が有能すぎるのが悪い。皆が君を頼りにして、私のリリアーナを奪っていく」
拗ねたように見上げる世界最強の皇太子の姿に、リリアーナは思わずクスリと微笑んだ。王国では決して見せることのなかった、心からの、花が綻ぶような笑顔だった。
> 「大丈夫です。私の心も、これからの未来も……全て、ルシアン様だけのものですから」
その言葉に、ルシアンの蒼い瞳に熱い欲望の火が灯る。
「……その言葉、後悔しても遅いからな」
執務室の扉は固く閉ざされ、その日のリリアーナの午後の仕事は、強制的に休まざるを得なくなった。
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それから半年後。
大帝国ファルシオンの王都は、建国以来最大となる祝祭の熱狂に包まれていた。
ルシアン皇太子と、リリアーナの結婚式である。
大聖堂のバージンロード。
国宝級の妖精の絹糸で編まれた純白のウェディングドレスを身に纏ったリリアーナは、言葉を失うほど美しかった。その姿は、かつて「可愛気がない」と蔑まれた公爵令嬢の面影など微塵もなく、愛されて輝く至高の皇太子妃そのものだった。
祭壇の前で待つルシアンは、リリアーナの手を愛おしげに取り、参列する全帝国民、そして各国の賓客に向けて高らかに宣言する。
「ここに誓おう。私の命、私の魂、そしてこの帝国のすべての栄誉に懸けて、リリアーナを生涯愛し抜き、いかなる悲しみからも守り抜くことを」
振り返ったルシアンの瞳は、世界中のどんな宝石よりも優しく、甘く彼女を見つめていた。
「ルシアン様……私を見つけてくれて、愛してくれて、本当にありがとうございます」
「私の方こそ。君に出会えたことが、私の生涯最大の幸運だ」
祝福の鐘が鳴り響く中、二人の唇が重なり合う。
悲惨な婚約破棄から始まったリリアーナの物語は、彼女の本当の価値を理解し、狂おしいほどに溺愛してくれる最高の夫の腕の中で、永遠のハッピーエンドを迎えたのだった。
【完】




