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婚約破棄されたけど、隣国の王子に溺愛される  作者: 勇氣


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愚かなる宣言「絵」

挿絵(By みてみん)

 「リリアーナ・フォン・アルジェント公爵令嬢! 貴様のような冷酷な女との婚約は、今日この場をもって破棄する!」


 王城のきらびやかな夜会は、第一王子カイルの金切り声によって静まり返った。彼の腕の中には、最近男爵家に引き取られたばかりの、愛らしいが教養の欠片もない少女がしなだれかかっている。


 「……理由をお伺いしても?」


 リリアーナは扇の奥で完璧な微笑を崩さずに尋ねた。幼い頃から王太子妃となるべく、血の滲むような努力をしてきた。執務の遅いカイルに代わって国政の書類を片付け、魔力枯渇に悩む王家の代わりに結界の維持まで担ってきたというのに。


 「貴様が愛しのマリーをいじめたからだ! その嫉妬深さ、未来の国母としてふさわしくない!」


 証拠もない言いがかりだった。しかし、リリアーナの心は冷え切るどころか、重い鎖から解き放たれたような安堵感に包まれていた。


 「承知いたしました。この婚約破棄、謹んでお受けいたします」

 「ふん、強がりを。お前のような可愛気のない女など、一生誰の愛も得られ——」


 「それは重畳。ならば、リリアーナ嬢は我が帝国が貰い受けよう」


その時、重厚な扉が開け放たれ、夜会を圧倒するほどの覇気を纏った青年が現れた。


---


 「なっ……大帝国ファルシオンの、ルシアン皇太子殿下!?」


 カイルが間抜けな声を上げる。銀の髪に、宝石のように深い蒼の瞳。大陸随一の美貌と武力を誇る、隣国の絶対的カリスマがそこに立っていた。ルシアンはカイルを一瞥すらせず、まっすぐにリリアーナの御前へと歩み寄る。そして、まるで女神に傅くように優雅に片膝をついた。


> 「リリアーナ。君が自由の身になるこの日を、十年待ちわびていた」


 「ルシアン様……? 十年、とは……?」

 「君が十歳の頃、我が国の茶会で私にハンカチを貸してくれた日から、ずっとだ。他国の婚約者である以上手は出せなかったが……愚か者が自ら手放してくれたのなら、話は別だ」


 ルシアンはリリアーナの華奢な手を取ると、その甲に熱い口づけを落とした。


 「待っ、待て! 彼女は我が国の……」

 「黙れ」


 ルシアンの鋭い一瞥に、カイルは弾かれたように言葉を失う。


 「リリアーナ嬢が裏でこの国の政務の八割をこなし、王都の結界をその膨大な魔力で維持していたことは、他国である私の耳にすら届いている。彼女を失う意味が、貴様には分かっていないらしいな」


 その言葉に、王国の宰相や重鎮たちが一斉に青ざめた。


 「彼女への無礼に対する報いは、後日『国境への軍隊の配置』という形で正式に抗議させてもらおう。行こう、私のただ一人の愛しい人」


 リリアーナはルシアンのエスコートを受け、振り返ることなく夜会を後にした。

残されたカイルが、その後、崩壊していく国政と結界の修復に追われ、廃嫡の憂き目に遭ったのは言うまでもない。


---


「……ルシアン様、これはさすがに多すぎます」


 帝国の皇太子宮。陽の光が降り注ぐサンルームで、リリアーナは目の前に積まれた品々の山にため息をついた。


 最高級の絹で仕立てられたドレス(30着)

 帝国の国宝級の宝石をあしらったティアラ

 リリアーナ専用に建てられた、美しい庭園付きの離宮


 「君に似合うものを厳選した結果だ。それに、これでもまだ私の愛の半分も表現できていない」


 ルシアンは甘く微笑むと、リリアーナの隣に腰掛け、彼女をふわりと抱き寄せた。かつて「冷酷だ」「可愛気がない」と蔑まれた彼女の髪を、まるで壊れ物を扱うかのように優しく撫でる。


 「でも、私は今まで書類仕事ばかりで、気の利いたことも言えませんし……」

 「君がそこにいて、私に微笑んでくれるだけで、私の世界は完璧に満たされているんだ。有能で、優しくて、誰より美しい私の妻」


 耳元で囁かれる甘い言葉に、リリアーナの頬は林檎のように赤く染まる。


 今まで国のために心を殺してきたリリアーナにとって、ルシアンからの無条件の愛は、何よりも温かい魔法だった。


 「ルシアン様……ありがとうございます。私も、貴方をお慕いしております」


 リリアーナが恥じらいながら微笑むと、ルシアンは世界で一番の宝物を手に入れたような、幸せに満ちた顔で彼女を強く抱きしめた。


 婚約破棄から始まった彼女の新しい人生は、かつての苦労など嘘のように、どこまでも甘く、幸福な愛に満ち溢れていた——。

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