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7.ギルド南支部





 城壁の中に入ると、大通り沿いの建物は、たいてい二三階建ての石造りや漆喰。馬車が行き交い、大勢の人々の熱気で溢れている。


「入国審査はないのか」

「ええ、出る時、荷物を調べられたりするくらいですね」

「治安は問題ないのか」

「大丈夫だと思いますけど」


 王子がそう言いつつも、ドーベルマンとボクサー頭の護衛は周囲に目を配り続けていた。


 大通りを数時間歩き進む。

 数百メートルごとに巨大な壁と門がある。常に開け放たれているが、氾濫が始まる兆候があると、住民の避難をしてから閉鎖されるらしい。


 賑やかな大通りから静かな区画に入る。

 剣崎が案内された場所は犬人族の御用邸だった。隣接してメルダ大使館がある。石造りの三階建て。都市内は石畳だったが、この敷地内の庭は土であり、植木が植えられていた。


「部屋を用意させてありますので、ご自宅だと思ってお使いください。当面の生活費もご用意しましたので、遠慮なくご使用ください」


 部屋は豪華な調度品に飾られた個室である。テーブルの上には金貨の入った袋が置かれていた。

 先立つものがなく、この世界の知識が不足している状況。剣崎は素直に謝意を述べた。


――しかしいつまでも甘えている訳にもいかない。一日も早く自立し、日本に帰還せねばなるまい。


 転移してから二十日あまり。剣崎はこの世界が現実であると受け入れていた。

 旅をし、食事をとり、水をのみ、犬人族と語らい、寝て起きた。


 現実とは連続性のある記憶である。

 寝ると夢を見る。夢は毎回異なり、因果先後関係は滅茶苦茶になる。

 だが現実は違う。眠りから覚めたら、必ず前日の続きなのだ。

 現実であるなら死もまた存在する。

 やり直しが出来ないのであれば、慎重に行動に移す必要がある。

 それに関しては慣れていた。

 一回の出動のために、血反吐を吐くような訓練を積み重ね、これでもかと言うほど捜査し、情報を集め分析する。作戦決行前には、何度もシミュレーションと模擬訓練を行う。 それが特殊部隊員というもの。


 ちなみに剣崎が警備部に移動になったのは一昨年のことである。それまでは組織犯罪対策課の刑事であった。


 ここまでの道中、王子や家臣たちから迷宮や魔物、都市のシステムについては、ある程度聞いている。だが、話だけでは完全に情報不足だ。

 剣崎は、ポッター王子に迷宮の場所を尋ねた。






 都市の最中心部、迷宮を囲む防御壁の高さは五階建て相当。

 東西南北に四つの分厚い門があり、門下を行きかう人を、頭上から鉄製の格子鎧戸が威圧していた。防御壁の上にも歩く人影が見える。


 剣崎は門を抜けると、中は人でごった返していた。

 様々な飲食、武具防具、アイテム、医薬品などの露店が、所狭しと立ち並んでいるバザール。

 人をかき分けて進むと、開けた空間が広がり、その中心に迷宮が佇立していた。


 巨大な円形建造物。直径は百五十メートル近く。外周は「凱旋門」のような門が隙間なく九つ並んでいる。 これが異界門いかいのもんと呼ばれる迷宮への入り口である。


 その近くには、資源や魔物素材の買取所はあるが、露店がないのは出店が制限されているからだろうか。

 各門の前には、交番のような建物がある。その前で槍を持って立つ人がいるので、剣崎は見張り小屋のようなものかと思った。


 辺りには鎧を着た戦士。弓を持った男。ローブを着て杖を持った女性。着の身着のまま碌な武器を持たない者も多かった。

 その中でも剣崎の青と黒の出で立ちは異彩を放っていた。彼の歩みを見て人々が一瞬目で追う。だが、すぐに興味を失ったように、装備の点検や仲間との会話に戻った。


 剣崎は迷宮を見上げた。高さは五十メートル以上。有史前からあると聞いていたが、柱や彫刻には傷一つない。異界門には扉はなく、中を覗き込んだが、明るい闇のように何も見通すことは出来なかった。


 ゆっくりと周囲を歩む。

 よくよく観察すると、一つの門には一つのアルファベット、「R」や「U」などに似た装飾文字があしらわれていた。


――この門は「I」か……、何か意味があるのか?


 剣崎は思案する。その時、彼に声をかけるものがいた。見ると小屋の見張りだった。


「認識票をつけていないが、入るのかい?」

「……いや、今日は見学だけだ」

「それがいい。命は無駄にするなよ。まあ、止めないがね。ここに入りたきゃ、ランク六級以上が必要だ」

「六級?」

「なんだい、お上りさんかい? 詳しくはギルドに行って聞いてくれ。かわいいお姉ちゃんが教えてくれるさ。中を覗きたいなら第一門がおすすめだ。誰でも入れるし、内部に町もある。ただし入場の時はちゃんと登録して名札を貰っておけよ。死んだり行方不明になったら記録しなきゃなんねえからな。気をつけな。お前さん、早死にしそうだからな」


「……分かった。感謝する」


 そう言って剣崎は別れを告げると、見張りは「あ、ああ」と彼の後ろ姿を見送った。


「感謝?……変わった奴だな……まあいいか」彼はそう呟くと職務に戻った。




 剣崎は迷宮防御壁を出ると大通りを進んだ。

 時々人に道を尋ね、やがて、組まれた木材と漆喰の大きな三階建ての建物に辿り着いた。


 ヴェネイトルギルド南支部である。

 迷宮の東西南北にはギルド支部が一つずつあり、迷宮から離れた都市行政の中心部には、ギルド本部がある。ヴェネイトルと日々接する機会が多いのが、クエストの受注発注を行う支部である。


 内部は木造。一階には酒と肴を提供する酒場があり大勢の人で賑わっていた。戦士、神官、魔法使い、モンクや狩人など様々なヴェネイトルたちが酒を酌み交わし交流している。


 剣崎は、入り口でぐるりと全体を見回すと、奥の受付カウンターへと足を向けた。





挿絵(By みてみん)

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