三角縁神獣鏡
「あ、それ知ってます。
三角縁神獣鏡ですよね?」
そう言いながら、卑弥呼様に視線を向けた。
卑弥呼様は俯いたままだ。
「そう言うのか?」
そう言ったのは清子様だ。
三角縁神獣鏡と言うのは後世に付けられた名前だったらしい。
「こんな感じのものですよね」
そう言って、私は紙と筆を借りて、知っている範囲で絵を描いた。
丸を書いて、縁を三角の形状。そして、神獣の絵は描けないので、漢字で”神獣の図柄”と。
描きながら、卑弥呼様からダメ出しがあるのではと、ちらちらと視線を向けた。
私の下手な絵など見る必要も無いと言うことか、やはり俯いたままだ。
「よく知っていますね」
そう言ってくれたのは清子様だ。
「それがどこにあるか知っているのですか?」
「確かこの国の各地にあるのですが、一番多く見つかるとしたら、大和の柳本にある古墳」
私の記憶では黒塚古墳で多く見つかったはず。
「その場所を知っているとは正直驚きです。
ですが、残念ですが、おそらくその場所なら私がすでに探した墓でしょう。
そこは久秀殿に協力いただき、調査済みです。
確かに多くの銅鏡が出てきたのですが、あったのは魏より送られたものを模倣したものばかりで、何の力もありませんでした。
ちなみに、その古き墓を利用して城を作るような事を久秀殿が言っていました」
そうだった。
魏から送られたのは100枚。だと言うのに、この国では300枚ほどが見つかっていて、多くは模倣品だった。
「他に心当たりはありますか?」
「魏の年号がうたれたものが、ごく少数あると記憶しています。
ですが、元は100枚だったんですよね?」
「封印した銅鏡は溶かして、この世から妖ごと消すのです。
過去の戦いで使用されたゆえ100枚は無いのです。
ただ、何枚使われ、何枚残っているのかと言う記録もないので、この世に何枚あるのかも分かっていないのです。
そなたはそれを知っておると言うのですね?」
「たしか数枚はあるはずです」
「ともかく、何枚であろうとも、手に入れたいところです。
で、れはどこに?」
「すみません。詳細な場所までは……」
「おおよそでかまいません。
強大な霊力を宿した鏡ですから、封印して埋められていなければ、私なら感じ取れるはずです」
「なら、周防の古墳、出雲の古墳、但馬の古墳に魏の年号がうたれた銅鏡があったはず。
それが本物ではないでしょうか?」
「そのような場所に?
よく知っていましたね。
銅鏡の存在すら、普通の人は知らぬと言うのに。
ところで、疑う訳ではありませんが、それはどれくらい確かなのでしょうか?」
「たぶんとしか言いようが」
「とは言え、これ以上大和の周囲をさ迷ってみても、時間の無駄やも知れませんね。
一度、行ってみますか」
「でしたら、私の方から明智殿を介して義昭様より各地の大名たちに清子様への協力を命じる書状をしたためてもらえるようお願いいたしましょう」
柳生が言った。
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げたあと、清子様は私に近寄り、耳元で囁くように言葉をかけてくれた。
「心清く。そして、迷いや恐れを断ち、心静かに。
だが、心強く破邪を念じるのです。
さすれば、本来の力を発揮できましょう。
日々、精進あるのみです」
そして、清子様は私たちと叡山を降り、明智の紹介で義昭の書状を携え、毛利の地に向かう事を決めた。




