伝家の宝刀 鬼切丸
風神の風は指向性が狭いらしいが、近づくに従い、それなりに風がきつくなってくる。
明智に唆される感じで、風神に卑弥呼様の破魔矢を放つ展開になってしまったけど、お稲荷様のお使いや土蜘蛛にも効かないのだから、これも効果ない気がするし、外す事も十分可能性がある。
「もしも、風神が怒って、こっちに向かって来た時は、お願いしてよろしいでしょうか?」
「逃げましょう。
あの体に刀は通りません」
明智はあっさりと逃げる事を選んだ。
「でも、普通の刀は通らなくても、明智様の刀は特別ですよね?
こちらに向かう前、本願寺顕如様よりうかがいました。
明智様が鬼を斬る事ができる刀をお持ちだと。
あれも斬れますよね?」
そうなのだ。顕如は私たちにその話も語ってくれていた。
「えっ? まあ。
その事をご存知でしたか」
なんて会話をしている間に、風神を射程に捉えられる距離まで近寄っていた。
力を込めて、矢を構えた。
「消えろ!」
そんな想いを矢に込めて、風神目がけて放った。
卑弥呼様の破魔矢が風神目がけて飛んで行く。
破魔矢が風神に当たった。
眩い光が風神を包み込む。
「うん?」
そんな人語を発して、風神がぎょろりとした大きな目をこちらに向けた。
筋斗雲のような雲が消え、風神が飛び降りて来た。
ずぅぅぅん。
そんな音と少しばかりの地響きを立て、私の数m前に風神が立っている。
その大きさ、3mくらい?
「今のはお前か?」
矢が飛んできた方向で弓を持っているのは私だけ。
証拠を持った犯人状態。
「明智様。
お助け下さい」
思わず、明智の背中に回り込んで隠れた。
「しかたありませんね」
そう言うと明智は刀を抜いた。
「人が作りし刀で、この私が斬れるものか」
余裕である。その油断が身を亡ぼすのだ!
そんな事を思いながら、明智の背中の死角に入ったまま後ずさりで、風神から遠ざかっていく。
「明智殿、共に戦いましょう」
「お気持ち、あり難いが、無用です」
柳生の助勢を断ったかと思うと、明智は風神に向かい、その右腕を斬りおとした。
「ぐぅぉぉぉぉ」
風神は悲鳴を上げたかと思うと、再び沸き起こった筋斗雲のような雲に飛び乗って逃げ去って行った。
「お見事、明智殿」
「いや、柳生殿の腕には及びませんよ」
「しかし、顕如様からお持ちだとは聞いておりましたが、なにゆえに足利家の宝刀を?」
「実はですね」
そう言って、明智は足利義輝とのやり取りを語り出した。
足利義輝は京を退き朽木の城に居を移していた。
当時の京では妖との戦いが多くなってきており、人的、物的被害が大きくなってきていた。
人による戦乱で廃れていた都がさらに荒廃していく。
それを避ける策を三好長慶と松永久秀が考えていた。
その二人が出した策が、将軍を京の外に出すと言うものだった。
第一の理由は戦場を京の外に移す事にあり、第二の理由は妖の狙いが足利義輝自身の命ではないかと言う疑いがあり、それが正しいかどうかを確かめる事にあった。
その策を受け入れた義輝が選んだ場所が朽木城。
その朽木城の一室。
足利義輝の前にいたのは覚慶と明智光秀である。
「どうじゃ、覚慶、京の様子は」
「兄上、我ら妖の退治に邁進してはおりますが、まだまだ十分には減っておりません」
「左様か。
私も自ら出張らねばならぬな」
「上様。
上様のお手を煩わせるまでもありませぬ。
私がこの手で妖たちを葬りましょう。
これまでも、これからも」
「光秀。
その方の活躍、私も心強く思うておる。
されど、強き妖には人の刀は通じぬ」
「ならば、わが腕をさらに鍛えに鍛え、その強き腕と精神でやつらの身を切刻んでみせましょう」
「光秀。
そこまで申すなら、源氏に伝わる宝刀をそちに授けよう」
そう言って、足利義輝は奥から一振りの刀を持ってきて、明智に渡した。
「これは?」
頭を下げ、捧げるようにその刀を受け取ると明智は義輝にたずねた。
「鬼をも斬れる妖刀 鬼切丸じゃ」
「ありがたき幸せ。
この光秀、粉骨砕身働き、妖どもを退治してご覧にいれる所存」
明智光秀は再び深く頭を下げた。
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