一年の軌跡3-⑤
獣魔契約が終わり、兵士やメイド、エリザも、皆一様に元の場所へと帰り終わった時―――
第零兵舎は先程の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
時刻は夕刻。日の光により闘技場が紅に染まっている。何かが起こりそうな、そんな不気味な静寂。
二人の男の密会が行われたいた。
「それで、何の用ですか?レインハルト殿。」
初めに言葉を切り出したのは、白いローブをかぶった男、ドクトル・レンドレイン。
「すみません、急に呼び止めてしまって――――――――少し聞きたいことがありましたので・・・。」
「聞きたいこと?さっきの喋るスライムの事ですか?」
「それにも興味はありますが、そちらは科学班に任せましょう。今回は違った用件です。」
「と言うと――――――」
レンドレインは白いフードをわずかに直し、先を促す。レインハルトは少しの間を置き、口を開いた。
「単刀直入に聞きましょう。貴方は誰ですか?」
「・・・誰、とは可笑しなことを・・・先程も申し上げましたが、私はドクトル・レンドレイン。肩書は魔法協会ペルザ王国王都支部局長ですよ。」
その答えにレインハルトは眼光をわずかに強めた。
「私は魔法教会の方に色々と縁がありましてね。偶然、ドクトル・レンドレインと言う方にもお会いしたことがあるんですよ。」
レインハルトは昔帝国の第二王子だった過去を持っている。そしてもちろんレインハルトも獣魔契約を行ったのだ。
帝国のそれも王子の契約となれば、その規模は王国のたかが伯爵のそれとは訳が違う。数十人の魔法氏により行われる一大行事なのである。もっともそれ以外にもいろいろと縁があったのだが・・・
「私はこう見えて物覚えがいい方でして、私の記憶が正しければドクトル・レンドレインは60を超えた小男だと記憶しているのですが・・・?それを踏まえて、もう一度聞きましょう、貴方は一体何者ですか?」
「・・・」
レンドレインはやれやれと頭を掻く。
「人違いでは、ドクトルもレンドレインもよくある名前でしょう。それに私はつい先日まで帝国に居たのです、レインハルト殿にお会いする機会は無かったと思いますが?」
「やはり帝国に居たのですか、墓穴を掘りましたねドクトル・・・いや、名もなき不埒者よ。――――――」
レインハルトは更に眼光を強め、
「――――――アリア!」
と、冷えた声で言い放った。虚空に向けたその声の意味を、レンドレインは瞬時に理解する、も、敵は予想を遥かに超える手練れ――――――。
「YES, YOUR MAJESTY!」
ほんのりと赤く染まる兵舎の中、女の声が不気味に響いたという。




