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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
四章 スラム

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三十七話 千里眼

 猫たちが目覚めてから数週間。


 俺はその日もいつも通りユキと一緒にランニングをしていた。


 最近では身体能力に差がついてしまい猫達から完全に置いてけぼりにされているルークは「1人は寂しい」と言ってユキと共に運動していた。


 『ルーク命』のフィーネが一緒に運動しないのには理由がある。


 普段はフィーネが「ルークのために部下を育てる」と気合を入れて猫達の指導をしているのだ。今日は買い物を頼んでいるので不在だった。


 別に悔しくはない。


 だって俺は魔道具の製作者。


 健康のために運動しているだけなのだから。


 むしろそんな俺に気を使わない彼女達の方が空気を読めていないのだ。そう、俺は悪くない。悪いのは置いて行った彼女達だ。


(・・・・・・今度、足が速くなる靴とかターボ付きのジェットシューズ作ろうかな)


 負の感情に飲み込まれないように自分を正当化していたら、遠くの方からリリが泣きそうな表情でこちらに走ってきた。



「ヒカリが苦しそうに倒れたのニャッ! 助けて欲しいニャ!」



 ユキに持ち上げられて俺達はヒカリが倒れている場所へと急いで向かう。


 俺やリリが走るより断然早いのでお願いした。一刻を争うかもしれないからな。


 病気が再発したのかもしれないが、ユキ達が治療を失敗するとは思えないし数分前まで元気だった。


 とにかくヒカリを見ない事には何もわからない。




 ヒカリは大樹の近くで倒れていた。


 ニーナに抱えられた彼女が苦しそうに心臓を抑えながら体を丸くして震えている。


「ユキ、原因はわかるか?」


 ルークは深刻な顔でユキに病状を聞く。


「魔力が溢れていますね~。5歳になったんです、おめでとうございます~」


 ユキは慌てることなくいつも通りの口調で祝福した。


 今日がヒカリの5歳の誕生日だったらしい。


(俺より年上だったのか・・・・・・絶対に年下で妹だと思ってたんだけど)


 ちなみに俺の誕生日は来週だ。



「でも苦しんでるぞ? レオ兄もアリシア姉も苦痛は無かったらしいけど、なんでヒカリは倒れたんだ?」


 俺も近々5歳の誕生日を迎えるので事前に確認はしていた。


 教会に行って祈るだけのはずだ。苦痛があるなんて聞いていない。


「詳しく調べないとわかりませんが、大丈夫だと思いますよ~。先に寝室に運びましょうか~」


 運んでいる途中で帰宅したフィーネに会ったので、事情を説明して一緒に寝室へ向かう。




 寝室には心配そうなリリとニーナ、困ったような顔をしているフィーネとユキ、そして見守るしか出来ないルーク。


 フィーネ達がヒカリの体を調べている間、ルークはリリ達に質問する。


「リリやニーナも5歳になった時は普通に魔力が扱えるようになっただけなんだよな?」


「その通りニャ。苦しむなんて聞いたことないのニャ」


「うん」


 猫人族が特別だとか、リリの一族だからという原因ではないらしい。フィーネが困った顔をしているのも気になる。


 変な物を食べた訳でもなければ、無理な運動をした訳でもない。俺には原因が思いつきそうになかった。



「私のミスですね~。ごめんなさい~」


 調べ終わったらしく、突然ユキが謝ってきた。


「なんだったんだ?」


「治療した時にユキが魔力や精霊術で彼女の肉体を修復した、と話しましたね。実はまだ体に馴染んでいなかったのです」


 フィーネが説明し始めた。


 再生した体は言わば仮の肉体。少しずつ自分に合うように調整しつつ馴染む予定だったらしい。もちろん5歳に近い肉体だとわかっていたので、魔力が覚醒しても支障の出ない程度のはずだった。


「でも彼女は原石だったんです~。才能の塊です~」


 想定よりも多くの魔力を有し、精霊にも好かれる魂が覚醒してしまったのだ。ユキの魔法によって創られた骨や内臓、筋肉の全てが魔力を増幅して抑えきれず噴き出していた。


 その結果、普通の猫人族の体では耐え切れず魔力が暴走した状態となっているらしい。


「今の彼女は人と精霊の間の存在なんです~。むしろ精霊寄りなので魔力を取り込んでしまっています~」


「対処法は? 治らないのか?」


「これだけの魔力を安定させるにはコツが必要になります。現状では無理やり放出させるしかないですね」


「助かる方法でお願いするニャ。娘が苦しい思いをするのは嫌だニャ」


「たすけて」


 満場一致でヒカリの魔力を放出させることに決まった。ヒカリも賛成するように力強く俺の手を握ってきた。



「じゃあ千里眼にしますね~」

「ですね。影響が少ないのは千里眼でしょう」



(あれ、放出させるだけじゃないのか?)


 なんか特殊能力が付くっぽい。


「私が全身の魔力を目に送り出しますね~」

「では視力調整は私が」



 そう言ってユキがヒカリのお腹に手を当てて魔力を流し始めた。ユキの魔力を送りながら目までの流れを作っているのだろう。


 ヒカリの透き通るような白い肌の内側で光が流れている光景は恐ろしくも幻想的だった。

 

 フィーネはヒカリの両目に手を当てて呪文を唱え、魔力が放出しないように全て目元に集めている。目の周りの筋肉が痙攣したり血管が浮き出してきて痛々しい。


 ヒカリは全身を震えさせて苦しんでいる。


「・・・・ぅ!・・・・っ・・ぁ」


 微かな悲鳴が聞こえる。荒療治なのは間違いなさそうだった。


(頑張れ、ヒカリ)


 応援する事しかできないのでギュッと手を握り返してやる。リリやニーナもヒカリの手を握っている。





 どのぐらいの時間が経ったのかわからないけど、ヒカリの痙攣は無くなった。と同時にフィーネとユキも離れる。


「落ち着いたみたいだけど、終わったのか?」


「はい~。今度こそ完璧ですよ~」

「今後、魔力で困る事はないでしょう」


「良かったニャ~。どうなるかと思ったニャ~」


「・・・・ヒカリ」




 一安心しているとフィーネが今後について話してきた。


 普通は魔力を得たら体に馴染むように使って覚えさせるが、ヒカリの場合は違う。


 今回の事でヒカリは千里眼を手に入れてしまった。


 これは魔力を視覚化する眼力で慣れるまで訓練が必要になるので、ヒカリが目を覚ましたらフィーネが鍛えると言う。

 

「私が使う感知魔術の視力版なので指導者には私が最適でしょう」


 ヒカリが目覚めてから数日は2人だけで訓練させてほしいと願い出た。面会謝絶ってやつだ。


「わかった。ロア商会も今はまだ忙しい時期じゃないし、父さん達には話しておくよ」


「私がフィーネさんの分まで頑張りますよ~。失敗を取り戻します~」


「よろしくお願いするニャ。またみんなで運動するニャ」


「ヒカリがんばれ」


 ロア商会は建物待ちだし、ユキも頑張ってくれるようだ。リリも料理を覚えてきたから人手は足りている。


 ニーナは心配そうな顔をしているし、実は結構感情がある気がするけどな。




 ヒカリはすぐに目を覚ました、が再び気絶したらしい。


 ユキが言うには、千里眼に慣れるまでは情報量が多すぎて脳が処理できず気絶してしまう厄介な代物みたいだ。強制的に発動して魔力を放出しながら情報を集めてしまうらしい。


 慣れれば便利な目らしいけど、俺はいらないな。


 透視能力なら欲しい、と冗談で言ったらユキが「つけますか~? 適性ないとパーになりますけど~」と言うので丁重にお断りした。



 ユキ、なんて万能な子。だけど恐ろしい子。

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