二十五.十四話 ソーラーパネル1
蛍光灯が欲しい。
そう思い始めたのは、いつの頃からだっただろう。
この世界には魔術のライト、魔道具ではランプの照明はある。
でもライトは常に魔力を消費するし、ランプは光源として弱いので暗がりの移動ぐらいは出来ても読書や細かな作業は無理。
前世で夜型生活だった俺からしてみれば夜中に作業が出来ないのは結構苦痛だ。
暗闇でも出来るなんて会話か妄想ぐらいだけど、それって昼間でも出来るじゃん。ってか散々思考した結果として出来るだけ多くの時間作業したいんだよ!
今はまだ子供だから暗くなれば自然と眠くなるので大丈夫。
しかし大人になった時、今と同じ生活は絶対無理だと断言させていただこう。
ではどうするのか?
「蛍光灯がなければ作ればいいじゃない」
もちろんずっと考えてたし、なんとか作れないものかと挑戦もしていた。
でも光を出し続ける魔道具なんて作れるわけがなかった。
問題点その1『発動時以外にも常に魔力を消費しないと光らない』
今までは魔力を流して現象を起こしたらそれ以降は魔力を使わない、もしくは少量の魔力でよかった。
でもそれが出来ないのだ。
地球でもエネルギーを消費しない蛍光灯なんて存在しないしな。
問題点その2『魔石が維持できず破損する』
ランプの連続使用時間は100時間ほどなので、オルブライト家なら1か月に一度は専用の魔石を交換する。
でもそれだと暗いから試作品の蛍光灯は明るくしてみたんだけど、10時間と持たず壊れてしまった。
いくら明るくなるとは言っても3日に一度交換するのは維持費が掛かりすぎるし、タイミングをミスれば器具まで痛めかねないので気を遣う。
そんな事をするぐらいなら寝るわ!
問題点その3『伝導率が悪い』
いっそ魔力以外のエネルギーを使えば解決するんじゃないかと思って電気を発生させてみたら、一応は成功した。
でも大気中の成分が違うのか、短時間で小電力にもかかわらず膨大な魔力と巨大な魔法陣を使った。
手伝ってもらったフィーネから「1日に2回は使えません」と言われたので、たぶんどれだけ改良しようと一般人には発動すら出来ない。
電気分解の原理を使った魔道具は結構作れたので、物質を分離させるのは簡単らしい。
おそらく精霊が存在することでエネルギー法則が違っているのだろう。
ここまでの話を統合すると、俺が目指すべき魔道具は『魔力と魔石を使った蛍光灯』となるわけだ。
・・・・うん、現状と何も変わってないね。
「あああああぁぁぁぁっっ、わからん!!」
どんなに考えても、試行錯誤しても解決策が思いつかない。まっっっったく思いつかない。
そんな時は散歩で息抜きに限るな。
「おっ、暇人発見」
庭に出てすぐに、フリスビーをしているレオ兄とアリシア姉を見つけた。
そう言えば2人から誘われた気もするけど、蛍光灯の開発を頑張っていたので断った・・・・かもしれない。
俺って集中してる時は他の事が頭に入らないタイプだからさ。
まぁ気分が乗った事にしてちょっと息抜きに運動するとしましょうかね。
「レオ兄、フリスビーの調子はどう? 何か手直し必要だったら遠慮なく言ってくれよ」
話の切り出し方としては無難だろう。
綺麗な回転で飛んでいるのを見る限りそんな必要はないけど、投げてる人だけがわかる微妙な違和感とかあるかもしれない。
すると、予想の斜め上をいく答えが返って来た。
「いつも通りだよ。アリシアはもっと破壊力が欲しいみたいだけど・・・・」
「だって魔力で回転力が上がって早くなるのよ!? 普通攻撃に使えると思うじゃない!」
って事はアンタ何かを攻撃したんだな? で、ダメージを負わなかった、もしくは壊せなかったから不満だと。
そんな危険な遊びをしちゃいけません! 没収しますよ!!
なんて言っても聞くわけもないので、俺は何もわからないフリをして質問に答えていく。
「危ないから制限してるんだよ。アリシア姉みたいに全力投球する人が居るから」
このフリスビー。ルーターと同じ原理なので、数mmの小石を取り付けたら鉄すら削れる。
だから安全のために回転数に上限を付けて、手持ち部分にも布を巻いてクッションにしてるってわけ。
そこまで安全性を高めた理由はレオ兄から頼まれて複数作ったからだ。
友人にプレゼントするって言ってたけど俺は知っている・・・・ほぼ女子だと言う事を! このモテ男めっ!
「え? それと回転力を下げるのってどう繋がるのよ?」
しかし俺の説明を聞いても一向に納得する様子の無いアリシア姉。
なんで安全だって話をしたのに不服なんだよ・・・・。あれか? 『痛みを知って人は強くなる』的な?
だとすると、ここはアプローチを変えるべきだな。
「じゃあこう考えてみてくれ。これは遊具であり魔力のコントロールに役立つ訓練道具だって。相手がキャッチしやすい送球をする練習だって。
綺麗な回転で飛ばすのは難しいぞ~。魔力を微調整しないとフラフラするぞ~」
「っ! き、綺麗な回転には正確な魔力操作が必要・・・・そのための練習・・・・」
今度こそ納得したアリシア姉は、まるで新しい武器を手に入れたようにフリスビーをジロジロ眺め始めた。
では、そんなアリシア姉のためにワタクシが新しい遊び方を教えてあげましょうかね。
俺は2人と軽くキャッチボール(キャッチディスク?)をしながら話をしていく。
「今まではどんな事をやってたんだ?」
「最初の頃は投げ合うだけだったけど、最近は回転を調整して曲げたり、的に当てたり色々なルールで遊んでるよ」
ふむふむ、キャッチボールや射的みたいな遊びをしていると。
近い内にサッカーやバレーボールみたいな集団競技のルールを教えてやろう。
ただ今回は3人しか居ないので、決められた範囲に落としたら負けのバレーボールのルールを提案。
「雑魚は引っ込んでなさい!」
「ぎゃぁああああああっ!!」
威力重視のアリシア姉がレオ兄を本当の意味で倒し、同じ戦法で俺に挑んできた。
「甘いわ! 製作者を舐めるなよ!
たしかに早いが、曲がらないフリスビーなんて簡単にキャッチできるんだよ!」
「チィッ!」
一撃必殺にならなかった事を悔しがるアリシア姉。
そんな彼女の弱点は既に理解している。先ほどまでの会話は情報収集も兼ねていたのだ。
彼女に足りないのは魔力コントロール、そして経験。
投げ方を工夫し、魔力で回転を弄ってやればこんな事も可能だぜ!
「秘技! 天空落とし!!」
俺は全力で空高くフリスビーを飛ばした。
上空に飛んで行ったフリスビー。パッと見は暴投だ。
「そんなの入る訳ないでしょ! 下手ね!」
当然アリシア姉も勝利を確信してほくそ笑む。
だけど甘いんだな~。たしかに遠投の投げ方なら絶対に入らないだろうが、俺が放ったのは微細な魔力コントロールによって回転力を増した縦回転のフリスビー。
すなわち、このフリスビーは直角に落ちてくる!
キャッチ力があるアリシア姉も初見では対応できまい。
「・・・・っ!?」
空を切り裂く円盤。驚愕するアリシア姉。
当然のようにキャッチ失敗して、フリスビーは地面に突き刺さった。
ただ回転で弾いただけで、一瞬でも片手キャッチに成功した事には拍手を送らせてもらおう。
「は、反則よ! もう一回、もう一回勝負よ!」
「嫌でーす。疲れたので勝ち逃げさせてもいまーす」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
俺を引き留めたアリシア姉は、こちらの握力と魔力が限界なのを知って素直に再挑戦を諦めてくれた。
まぁそれから毎日のように勝負を挑まれるようになったわけだが・・・・。
体を動かしてリフレッシュした俺は、さらに散歩を続ける。
エルとフィーネが掃除をしていた。
マリクが部下を投げ飛ばしていた。
母さんが外壁の劣化を気にしていた。
父さんは見かけないが自室で事務処理でもしているのだろう。
ここまで来たなら全員と会おうと思い、最後の1人ユキを探し始めた俺は、前に病気を治療した大樹の上で日向ぼっこをしている彼女を見つけた。
「ユキーっ、なんでそんな所に居るんだー?」
見上げなければ発見出来なかったというのが妙に嬉しくなった俺は、テンション高めに声を掛ける。
四葉のクローバーを見つけたような、あの何とも言えない感覚だ。
「ルークさんじゃないですか~。天熱に近い方が暖かいので~」
<天熱>
太陽を指す言葉。天にある熱と光を放つ塊だから天熱。
ちなみに月は2つあり、白夜と青夜と呼ばれている。白い大きな月と青い小さな月、そのままだ。
30日に一度だけ青夜が前、白夜が後ろで重なり合う。12回目の重なる時だけは白夜が青夜を隠すので地球と同じ年月日だと判明したのである。
「一緒に日向ぼっこしませんか~。気持ちいいですよ~」
「まぁ暇だし付き合おうかな」
ここが最終目的地だった俺は、後の予定もないのでその誘いに乗る事にした。
すると次の瞬間、ユキが飛び降りてきて俺を抱えて6mほど飛び上がった。
なるほど、どうやって登ったのか不思議だったけどジャンプすれば登れるんだな。参考にはしない。
「良い景色だなー。街が見渡せる」
「天気のいい日は日向ぼっこに限りますよ~。ポカポカです~」
そこはたしかに下より暖かかった。
ユキは精霊だからなのか、こういう自然エネルギーを感じるのが好きらしい。
出会ってからそう時間は経ってないけど、彼女は風の強い日も大雨の日も寒い日も気候の変化を楽しんでいたし、たぶん世界がマグマに埋もれたり海中に沈んでも楽しむだろう。
いや、ちょっと待て。
太陽・・・・熱・・・・・・それだ!
ソーラーパネル作れるかも!




