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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
三章 ロア商会

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閑話 楽しい買い物

 ユキとアリシアの服を購入した一行は、次なる目的地へ向かっていた。


「魔獣討伐ね!?」


「・・・・違います。ルーク様に頼まれている物があるので露店巡りをしつつ商店街へ行くのですよ」


 街の中心部から外壁の方へと歩き出した事で冒険の匂いを嗅ぎつけたアリシアが、興奮を抑えきれず己の欲望を口に出した。


 しかし当然そんな事が目的なわけもなく、残念がるアリシアを連れてフィーネ達は木材と魔石を購入するために店が立ち並ぶ商業区へと足を踏み入れる。


 その中でフィーネが最初に訪れたのは資材店。


「へぇ~、資材売り場って初めて来たわ。結構賑わってるのね!」


「人が一杯です~」


 貴族と精霊には一切関係のないその場所を珍しそうに見渡す2人の目の前には、数多くの品が所狭しと並んでいた。


 家を建てるための石材やレンガ、家具用の木材、訓練に使われる丸太や、暖を取るための薪、家畜用のワラ。


 馴染みのない素材を興味深そうに手にとっては感想を言いあうアリシアとユキ。


(まぁ迷惑は掛けていないようなので放っておきましょう。それより今は買い出しです)


 服屋では言う事を聞かなかった2人の子供が大人しくしているのを確認したフィーネは、手早く用事を済ませていく。


 彼女が求めているのは魔道具製作用の木材と、そのエネルギー源となる魔石だ。


「ユキならこの魔石を武器に付けられる!?」


「フッフッフ~、当然お茶の子さいさいですよ~。どれが良いですかね~」


(早く、早く出なければ・・・・っ)


 魔石はギルドが管理していて、低級な魔石は市場に流して売られるのが一般的である。


 そしてルークの使用している魔石はその低級品だった。


 フィーネとしては強大な魔獣から採れる魔石をプレゼントしても良かったのだが、『どこにでもある魔石を使ってこそ本当の腕が試されるだろ?』などと言われてしまっては受け入れるしかない。


 もちろん感動の涙を流しつつ・・・・。




 なんとかユキが武器製作に乗り出す前に買い物を済ませたフィーネは、「もうちょっと!」と駄々をこねる2人を連れて食事処を探していた。


 楽しい時間はアッという間に過ぎていき、時刻はとっくに昼を回っていたのだ。


「お腹が空きましたね。お二人は何か食べたい物はありますか?」


「そうね・・・・・・あっ! たしかこの近くにオークステーキが美味しいお店があるって聞いたわ!」


「良いですね~。肉食系女子になっちゃいますか~」


「何それ? 肉を食べるとなるの?」


「さぁ、ユキ! 急がなければ人気店はすぐ一杯になりますよ。

 アリシア様、道案内をお願いします」


 それ以上の会話をさせないように無詠唱の魔術でユキの口を塞いだフィーネは、急いでその場を離れた。


 主の家族が余計な知識を身に付けないよう細心の注意を払うのも、メイドとしての義務なのだ。


「ねぇ肉食系女子って・・・・」


「私の用事は終わりましたので、次はどこへ行くか決めておきましょう! まだまだ時間はタップリありますからね!!」


「モガモガ~(メイド云々じゃなくて、ただ初心なだけです~)」


「・・・・」


 これまた無詠唱の魔術が今度はユキの腹に刺さったが、直前で氷の盾でガードされてノーダメージだ。


 何でもない休日の街中で、無駄に高度な攻防が繰り広げられている。



 その後も話題を逸らし続けたフィーネの努力により、店に到着する頃にはスッカリ少女の頭の中から『肉食系女子』のワードは忘れ去られていた。


 そして3人の目の前には香ばしい肉の匂いが漂う行列店が。


『食堂 ステーキハウス』

 肉料理専門店で、独自の調味料で焼くステーキが自慢の若者に人気のお店だ。


「(ジュルリ)・・・・こ、ここみたいね!」


「(ゴクリ)・・・・美味しそうな匂いがしますね」


「この匂いだけでパン5つは食べジュルリね~。早く並ばないとゴクリれなくなりますよ~。お腹グー!」


 食欲を掻き立てるその匂いに思わず喉を鳴らす一同・・・・おそらくユキも鳴らしていると思われる。



 流石は人気店と言うだけあって少し並んだが、これからの予定を話し合っていた3人にとってはさしたる問題ではなかった。


「ご注文は~?」


「「「一番人気のオススメのオークステーキで」」」


 全員が声を揃えての注文から待つこと10分。


 鉄板に乗ったステーキが運ばれてきた。


「くっ・・・・やるじゃないオーク! 匂いだけでノックダウン寸前よ!!」


「溢れ出した肉汁がジュージューとなるのも反則的ですね~。食べる前から舌が喜んでます~」


「しかもこの量で銀貨2枚は安いですね。塩の入手経路と特製調味料が気になります」


 食べる前から各々が最大限の賛辞を浴びせ、3人は震える手でフォークとナイフを持って実食に入った。


「「「・・・・っ!」」」


 一口食べた瞬間に固まり、確かめるように二口目を頬張り、後はひたすら無言で食べ続けた。




「あ~美味しかったぁ・・・・学校で話題になるわけね」


 行儀悪く皿まで舐めつくしたアリシアが深い溜息をつき、至福の時を満喫していると、ふと何か思いついたようにフィーネの方を振り向く。


「ねぇルークなら作れないかしら?

 ほらあの子って塩と言い、魔道具と言い、変な知識を持っているじゃない」


 もしかしたら料理技術も持っているかもしれない、と一縷の望みを託してルークを良く知るフィーネに相談しているのだ。


「ルークさんが作れるなら今度オークを倒してきますよ~」


「約束はできませんが、あの方ならあるいは・・・・。

 オークは皮も肉も無駄が無いので傷付けずに持って帰ってくださいね」


 オルブライト家の食卓が豪華になるかはルークにかかっている。



「こちら食後の果実ジュースになりま~す。

 肉の油をサッパリさせるためのグリーブジュースで~す」


「「な、なんだってー!?」」


 美味しいステーキにスッカリ満足しきった3人の下にジュースが運ばれて来た。


 唯一フィーネだけは「ちょっと油が・・・・」と不満を言っていたのだが、そんな後味の悪さすら吹き飛ばす憎いサービスがあったらしい。


 人目を気にするフィーネはユキ達のようにリアクションこそ取らないものの、それでも思わず笑みが零れる。


 至れり尽くせりとはまさにこの事。


「これが最後に飲めるなら後味も爽やかです。この新鮮さ、この飲みやすさ・・・・お店で搾っているのでしょうか?」


「スッキリしたのど越しね。グリーブって甘くないから苦手なんだけど、こうして飲む分には美味しいわね」


 それは店の看板メニューオーク肉のために作ったジュースと言っても過言ではない物だった。


 ただし・・・・。


「フッフッフ~。みなさんはその温いジュースで満足すればいいです~。

 私は冷やして美味しくいただきますよ~」


 そう、温いのだ。


 冷却する手段のない店で、しかも無料サービス品なので当然と言えば当然なのだが、いかんせん他が完璧なだけに勿体なかった。


 ユキは2人に憐れむような視線を送り、自分のコップだけ冷やし始める。


「~~っ、あぁ~キンキンに冷えって美味しいですねー!」


 そしてこれ見よがしに喉を鳴らして冷たいジュースを飲み干していく。


「ズルい! 私のも冷やして!」


「私もお願いします。食事と氷魔術は相性がいいですね」


 当然、その様子を目の当たりにしたアリシア達は「独り占め・ダメ・絶対」と猛抗議。


 実際、冷えたことでさらにサッパリした後味になり美味しかった。



「まだまだです~。さらに冷やせばもっと美味しいですよ~」


 気を良くしたユキは調子に乗ってほとんど氷状態まで冷やしていく。


「・・・・マズイ」


「薄い部分と濃い部分が分離してしまったようです。温い方がまだ飲めましたね」


 これが自分のジュースなら良かったのだが既に飲み干していたため、被害者となったのはアリシアとフィーネだけ。


 2人から責めるような言葉と共に、鋭い視線が突き刺さる。


「ごめんなさい~。冷やすほど美味しくなると思ったんですよ~」


 ジュース1つで怒るほど子供ではないアリシア達は、この謝罪をもってユキを無罪とした。


「一つ勉強になりましたね。何事も程々が一番です」


「ですね~。まぁ海中で同じ失敗してるのを今思い出しましたけど・・・・何ならたぶん10回以上してますし、先週ぐらいにした気もしますね~。

 でも気にしな~い、気にしな~い」


「「・・・・」」


 何はともあれお腹一杯で大満足の昼食のひと時である。



 女3人の休日はまだまだ続く。

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