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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
二章 フィーネ無双

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閑話 アリシアの初仕事2

 冒険者ギルドを後にして、町の北門へと向かう一行。


 石畳を進むアリシアの足取りは、これ以上ないほど弾んでいた。


「私、実践って初めてだわ!」


「いえ、アリシア様は見学――」


「ガルルルッ」


 フィーネの言葉を遮り、アリシアが獣のように低く唸る。


「……戦いたいと?」


「もちろん!」


「そりゃそうですよ~。今のはフィーネさんが悪いです~」


 隣でユキがくすくす笑いながら油を注ぐ。


「ユキの言う通りだわ! 雇い主の娘にして前途有望な若者である私にこの仕打ち! これはもう私一人でガルムを倒さないと気が収まらないわね!」


 気を大きくしたアリシアは、どう切り出すか悩んでいた提案をここぞとばかりに叩きつけた。


「おぉ~! 初戦闘で一騎当千の冒険者デビューですか~? カッコいいですね~」


「ふっふーん」


 止まらない賛辞に、鼻高々で胸を張るアリシア。


(……計算通りですね)


 焚きつければ彼女は必ず単独でやると言い出す。


 しかし今の彼女ではガルム相手でも苦戦は必至。そこで自分がほどほどに介入し、あわよくば他の冒険者のそこそこの戦闘を見せて、今の自分の実力と当面の目標を明確にさせる。


 それが今回の目的だ。


(ですが……)


 ちらり、とユキを見る。


 無邪気に拍手を送っているが、いつ余計なことをするか読めない。


「学校では実践形式のお勉強しないんですか~?」


 友人の悪ノリに怯えるフィーネを他所に、ユキは学校生活に話題を広げていた。


「三年生からなんだって。今はクラスメイトと対人戦の練習だけ」


「安全志向ですね~」


「でしょ? そう思うでしょ? 危険じゃなきゃ面白くないし身につかないわよね?」


「ですです~。ちょっとくらいヒリヒリした方が思い出に残りま――」


「では、こうしましょう」


 ユキが何か言い出す前に、フィーネが穏やかに割って入る。


 声は静かだが有無を言わせぬ圧があった。


「ガルム一体のみアリシア様に任せます。ですが、危険と判断した場合は即座に介入します。それが条件です」


「むぅ~」


「それを呑めないのであれば見学です」


「……わかったわ。それでいい」


 数秒の逡巡の末、アリシアは唇を尖らせながらも頷いた。


 横で、何故かユキまで同じ顔をする。


「想像を超えた事態に、喜び、怒り、泣き叫ぶ姿を見るのが趣味な私はどうしたらいいんですか~? 目をつけられてたワイバーンもきっと悲しみますよ~?」


「知りません」


 言葉を遮って良かった。やはりユキはロクでもないことを――ガルムより強い魔獣と戦わせるつもりだったようだ。




 北門を抜けると、町の喧騒は遠ざかり、代わりに乾いた風と草の匂いが広がった。


「まずは索敵です。クロ」


 フィーネの声に応じて、クロが一歩前に出る。


 鼻先をわずかに持ち上げ、ひくり、と空気を嗅ぐ。


 普段はオルブライト家のマスコットをしているが、その本質は獣。耳はぴんと立ち、尾の動きは止まり、鋭い眼光で遠くを見据える。


 一方、何故かアリシアも左右に首を振りながら、もっともらしく敵を探し始めた。


「奥の森にいる気がするわ!」


「それは索敵とは言いません。気配、痕跡、音、風向き。情報を積み上げて判断するのが索敵です。気がするはただの願望です」


「でも冒険者は勘を何より大事にするのよ!?」


「積み重ねた経験に裏打ちされた直感と、根拠のない思いつきは別物です」


「うっ……」


 ぐうの音も出ない。


 フィーネは軽く息を吐くと、教師のような落ち着いた声を冒険初心者の少女に向けた。


「戦闘になった場合、最初に何をするべきだと思いますか?」


「もちろん突撃よ! 後ろに回り込んで奇襲――あ、やっぱ今のなし! 魔術で遠くから先制攻撃!」


「どちらも違います。まずは状況把握です。相手は何体で、どんな種類なのか。敵だけではありません。仲間の状況、護衛対象の有無、地形などによって対応を変えなければなりません。その決断を一秒でも早めるために、戦う前から決めておいた方が良いでしょう」


「今回だとガルムだけを狙えってこと?」


「そうですね。それと自身が何体相手に出来るかも把握しておいた方が良いですね。今回は初戦闘なので仕方がないですが、無謀な戦いは命を落としかねません」


「むぅ……」


 危険な冒険や、助けを求めてる人を見捨てないことが理想なのだろう。


 アリシアの唸り声から『実力不足が原因だ→強くなければ解決する→鍛えてくれ』という流れになりそうだと察したフィーネは、何食わぬ顔で問答を続けた。


「では、その前は?」


「えっ、前!? その後じゃなくて!?」


「はい。今この瞬間にやるべきことです」


 アリシアは腕を組み、必死に考え始めた。


「えっと……えーっと……いつ戦いになってもいいように体を温めておく!」


「間違いではありませんが、もっと他にやるべきことがあります」


「じゃあ心の準備をしておく?」


「それは依頼を受ける前か、町を出る時に済ませてください」


「むむむ……」


 そして、ぱっと顔を上げた。


「あっ、わかった! 先手必勝するために魔力を練っておく!」


「おそらく敵を見つける頃には、多くの冒険者が魔力切れになりますね」


 フィーネは足元の草を軽く踏み、周囲を指し示した。


「正解は環境の確認です。風向き、太陽の位置、足場、隠れられる場所、逃げ道、敵が潜みそうな地形。そして――自分がどこに立っているのか」


 アリシアはきょとんとする。


「今ここに立ってるわよ?」


「……それは見ればわかります」


 フィーネは少しだけ地面を蹴った。


 乾いた土がぱらりと崩れる。


「ここは道として使われているので地面が固くなっています」


 そのまま数歩横へ移動する。


「そしてこちらは草が高くて足元が見えません。踏み込むと滑ります」


「戦う場所を選べってこと?」


「はい。戦闘は始まる前にすでに半分は決まっているのですよ」


「でもそれって魔術で遠距離攻撃する場合はどうなの? あと戦闘中に見分けられるものなの?」


「むしろ魔術の方が重要ですね。魔術師が相手の場合は遅延魔術や罠が仕掛けられている可能性がありますし、足場を変化させる戦略が取れるので少しでも有利な場所に陣取るべきです」


 魔術と同じ属性の場所を利用することで、威力や速度が5%増し、魔力消費が10%抑えられると言われている。逆に相手にマイナス効果を押し付けることも出来る。


 この差は致命的だ。


「ふーん、戦闘って奥が深いのね」


「基本は極めれば奥義になりますからね~。達人ほど基本に戻ってきたりするんですよ~。ちなみに、アリシアさんがよくやる身体強化してから戦闘に入る方法ですけど、敏感な魔獣だと気付かれちゃうので今回は止めておいた方がいいですよ~」


「でも戦闘前に使っておかないと間に合わないわよ?」


「それは身体強化に時間をかけすぎなんです~。見つからないため、そして魔力消費を抑えるためには、敵が攻撃してきた瞬間に纏うか、周りの空気に溶け込むよう変化させましょう~」


 と、ユキが良いところを掻っ攫って行った直後。


 クロの耳がぴくりと動いた。


「見つけたようですね」


「本当!? どこ!?」


「アリシア様。もう忘れてしまったのですか」


「あっ、そうだった! まずは状況把握!」


 フィーネの言葉を思い出し、アリシアは慌てて口を閉じた。


 興奮で飛び出しそうになる言葉をぐっと飲み込み、周囲へ視線を走らせる。


「えっと……数は見えない! 距離も方向もわかんない!」


「グルル」


 クロが北西を見据えながら、前足で地面を三回叩いた。それからゆっくりと歩き出す。


 アリシアはその動きを見て、はっとする。


「あっちにガルムが三体? 少し進めば見えてくるってこと?」


「正解です。索敵できる味方との情報共有は忘れないように。自分一人で見つけられなくても、仲間が補ってくれます」


「わ、わかったわ……」


 さらなるアドバイスに頷きながら、アリシアは頬に当たる風を感じ取ろうと目を閉じた。


「風は……こっちから向こう! だから匂いはまだ気付かれてない!」


「その通りですが、声は抑えましょうね」


「あっ」


 慌てて自分の口を押えるアリシア。


 しかし、すぐにまた眉を寄せた。


「足元はわかんない……」


「まぁあれは上級者向けですからね~。今回は遠距離攻撃して、この場で応戦でいいと思いますよ~」


「遠距離……!」


 アリシアの目が輝く。


「つまり先手必勝ね? 見えた瞬間ぶっ放せばいいのね?」


「はい。全力で倒しに行ってください」


 自分達がフォローすればガルムが何十体いようと接近戦で倒せるが、刃物で肉や皮を切り裂いて命の重さを知るには、アリシアは幼過ぎる。



「……っ……っ」


 数十秒後。アリシアが前方を何度も指差した。


 草原の向こう側にはぽつぽつと木が生えている林。そこに黒い影が三つ見える。黒色の毛皮を持つ中型犬ほどの魔獣――ガルムだ。


 フィーネの無言の頷きを見た後、アリシアはすぐに魔術杖を構えて臨戦態勢に入った。


「火よ、ファイア!!」


 そして青い瞳を期待に輝かせ、魔力を解き放つ。


 ボフン。


「ガルァ!?」


 ――が、しかし。緊張しているのか、杖の先からは普段より不安定で弱い炎が放たれ、命中こそしたもののガルムは軽傷すら負わなかった。


「アリシア様、練習通りにすれば大丈夫です。ガルムはクロが足止めしてくれますので、落ち着いていつも通り炎を出してみてください」


「わ、わかったわ……今度こそ! 火よ、ファイア!」


 フィーネのアドバイス通り、再び魔力を練り直して放った火球は、今度こそ普段通りの威力になっていた。


 赤い火が一直線に飛び、ガルムの一体に命中するが、倒れる気配はない。


「毛皮で防がれてますね~。魔力不足で火力不足です~」


 ユキがのんびりとした口調で現実を突きつける。


 そうなるとアリシアには為す術がなくなるわけだが、そんなことは「自分で倒す!」と声高らかに宣言した彼女のプライドが許さない。しかも冒険者ギルドにいた人々や門番にも自慢してしまったばかりだ。


「こ、こうなったら直接攻撃で……」


 どこに隠していたのか、ナイフを取り出し、身を低くするアリシア。


「駄目です」


 クロが引きつけている隙に、ガルム達の背後に回ろうとする少女の襟を、フィーネの手が掴んだ。


「仕方ないでしょ!? だってガルムが固いんだもの!」


「それは承知しています。ですが許可をしたのはガルム一体のみ。あの状態で近接戦闘は確実に集団戦になるので、不許可です」


「フッフッフ~。ユキちゃんにお任せあ~れ~」


 正論にたじろいでいると、ユキが意味深な笑みを浮かべながら指をパチンと弾いた。


 ――どくん。


 アリシアの体の奥で、何かが脈打った。


「……え?」


 次の瞬間。全身に膨大な魔力が流れ込んできた。


 血管の中を奔流が走るような感覚。骨の奥まで震えるような圧力。普段とは比べものにならない量の魔力が、体中を満たしていく。


「これは……! ふふふ……ふははははっ! 凄い、凄いわよ! 力がみなぎってくる!! これならイケるわっ!!」


「やれやれ……やはりこうなってしまいますか……」


 額に手を当てて小さくため息を吐くフィーネとは対照的に、アリシアは全身の血液が沸騰するような感覚に興奮し獰猛な笑みを浮かべる。


「今度こそぉぉっ! いっけええええええっ――!!」


 火が生まれ、膨れ上がり、巨大な球体となる。先程の火球とは比較にならない。


 ズッドドドォォォオオオオーーンっ!!!


 凄まじい轟音。


 爆炎は巨大な火柱となって立ち上がり、地面が震え、熱風が周囲の草をなぎ倒す。ガルム達は悲鳴を上げる暇すらなかった。


「やり過ぎです」


 フィーネが呆れながら手を振るうと、周囲に渦巻いていた炎が風に押し潰されるように勢いを失っていった。


 残っていたのは一面の焼け野原。先程までそこにいた巨大な狼は、今や影も形もない。焦げた大地と黒煙だけが、激しい戦闘の余韻を伝えていた。


「す、すごい! これ私がやったの!?」


 アリシアは自分の手を見つめながら声を弾ませた。


 まだ体の奥に残っている魔力の余韻に、心臓がどくどくと高鳴っている。


「その通りです~。初めての魔獣討伐おめでとうございます~。やりましたね~」


「やったわ! やったのよ私! 見た!? 今の見た!?」


 ユキの気の抜けた拍手を受けて実感が湧いてきたアリシアは、ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜び始めた。


「あっ! ガルム! 跡形もなく消えちゃった!?」


「ご安心ください。その前にクロが尻尾を切り落としていました。尾もこの通り無事ですよ」


 フィーネの言葉と共に、風の結界をまとった戦利品が黒煙を割って空中を滑ってくる。


 結界の内側には黒く太いガルムの尾、そして煤まみれのクロ。


「グル……」


 低く唸るその声には、僅かな不満が混じっている。


 尻尾を切り落とすために間合いへ踏み込んだ直後、アリシアの炎が豪快に炸裂したのだ。あと一歩で巻き込まれて黒焦げになるところだった。


 その視線は明らかに「危なかったぞ」と訴えている。


 だが――。


「今日が、炎の魔術師アリシア=オルブライトの鮮烈デビューよ!」


 当の本人は、胸を張って高らかに宣言していた。腰に手を当て、燃え残る火の粉を背に立つ姿は、どこか舞台役者のように堂々としている。


「何よ何よ、二人ともその咎めるような視線は? 私はガルム一体を狙ったし、フィーネは危険と判断した場合は即座に介入。宣言通りよね?」


「やれやれ……その悪知恵、誰に似たのでしょうね……」


 得意げに人差し指を立てるアリシアに対し、フィーネは本日何度目かのため息を漏らした。


 たしかに、戦闘前にアリシアが口にした作戦はそういうものだった。彼女が火力で押し込み、危険な状況になればフィーネが援護する。


 理屈だけ聞けば何も間違ってはいない。


「ふふーん! これで私も立派な冒険者よ!」


 そしてアリシアはボロボロになった杖を振り回しながら帰路についた。


 この杖を見せて、「もっと頑丈にしないさい!」と無茶な要望を出されたルークが頭を抱えることになるのは、少し未来の話である。



「見たことのない巨大な火柱と竜巻が!」

「凄腕の魔術師が近くにいるぞ! スカウトしないと!」

「Aランク、いやSランクの魔獣が出たんだ! 王都に救援要請を!」


 アリシア率いる一行が門へ戻ると、そこには人だかりが出来ており、何やら騒がしい。


「へぇ~、凄い魔術師や魔獣がいるらしいですよ~。そんな魔力感じませんけどね~?」


「……早く、ギルド行きましょうか」


 騒ぎの原因を見つけられず首を傾げるユキと、今にも自慢しそうなアリシア。騒ぎの原因に心当たりがありすぎたフィーネは、素知らぬ顔で二人の背を押した。



「……ふふっ」


 そして家までの道中。


 アリシアは、人生で初めて自分の力で手に入れた討伐報酬の銅貨六枚を、いつまでも愛おしそうに握りしめていた。

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調子乗るだけじゃなくて程々の所で失敗を経験しとかないと、後々手痛いしっぺ返しを食らいそうな…
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