#82
影人が朱雀のオーラを宝玉へ注ぎ入れると、線香花火の様な明るいオレンジ色の綺麗な光で門の表面に何かが、ぼんやりと浮かび上がってきたのであった。
「な、何が・・・」
影人は少し驚いたが、そのままオーラを集中させ続けた。
そのオレンジ色の閃光は、影人の背中に刻み込まれた朱雀の入れ墨を形作り、ゆっくりと、つむいでいく様であった。
大きな門に朱雀の絵図が見事な程に美しく描き出されると、ズズズ・・・と土煙を上げながら、まるでガレージのシャッターの様に上へと門が開いていくのであった。
「・・・って、上にかよッ!」
おそらくは、観音開きにズバーンと開くモノだろうと思い込んでいた影人は驚きのあまり、思わず、裏拳で激しく突っ込んでしまったのだった。
《・・・さぁ、行け、ここから先は異世界に等しき空間じゃ。
それから、ひとつ忠告しておくぞ、神殿に着くまでは目を開けてはならんぞ。
良いな、目を開けてはならんぞ!》
門は影人の突っ込みをスペシャルなまでに無視すると意味深長な言葉と共に静まり返った。
「無視しやがったぜ。」
影人はポツリと呟くと後ろを振り返って、皆に呼び掛けた。
「へへ、ようやく開いたみたいだ、さっさと先に進もうぜ!」
・・・すると、やおら、薫流〔かおる〕が運転席から顔を出して、朱雀に質問したのであった。
「あの~、朱雀様、この車も一緒に門の中に入って行っても大丈夫なのでしょうか?
万が一にも、車にキズが着いたり、凹んだりしませんかね~?」
朱雀は、さして興味無さげにアッサリと答えた。
『まぁ、多分、大丈夫なんじゃないかなぁ、アッハッハッハ・・・』
なんだか、余計に不安になってしまった薫流であった。
そんな心配を他所にして薫流のキャンピングカーは未知なる空間へ皆を乗せたまま豪快にダイブしたのであった。
大切な愛車を破壊される不安から門の中へ入るのを嫌がる薫流は、虎慈朗から当て身を食らい、気絶させられていた。
「光透波ちゃんのパパさん堪忍やで。」
虎慈朗は乱暴な事をして黙らせた薫流と光透波や楓達に2度、深々と頭を下げた。
『さぁ、目を閉じな、さもないと、持ってかれちまうよ。』
何を持ってかれるのか、まったく分からなかったが、そう忠告する朱雀の言葉に鬼気迫るモノを肌で感じ取り、皆、一斉に目をグッと固く貝の様に閉じるのであった。
しかし、やはり、好奇心旺盛な影人は、うっすらと細く目を開けて景色を見ようした。
『影人、いくら、能力者のあんただと言えども念神体以外は絶対に見ちゃイケないんだよ!
ちょいとだけ、我慢おしよ。』
簡易体の小さな手で、影人の瞼を強引に閉じさせる朱雀だった。
「え、何?
・・・いやぁ、怖いよ、なんなの?
・・・なんだか分からないけど寒いよ、身体中がフワフワする。」
光透波が、身体に起きた異変を口にした。
『オイ、大丈夫か?光透波。
そ、そうだな、意識をシッカリ持つんだ。
自分が、ここにいる事を意識して、自分の名前を忘れないように繰り返して、心の中で呟くんだ!
心配すんな、オレっちが付いていてやる。』
ガゥは光透波の左肩に飛び乗ると、これまた、小さな手で頭を撫で撫でしながら優しく勇気づけたのであった。
「あ、ガゥなの?
優しいね、ガゥは・・・」
それでも、まだ、カタカタと震える光透波の手を決して離れない様にと指を絡ませて影人が手を握りしめてきてくれた事に光透波は気付き、安心した。
「影人、ありがと。」
影人は少しビックリした、何故なら、瞼を固く閉じたままであるハズの光透波が自分の手を感触だけで判ったのだから・・・
もちろん、影人自身も瞼を閉じたままなので確認した訳では無いが、朱雀が耳元で余計な事を囁くモノだから、妙に心配になったのだった。
握りしめた光透波の細く柔らかな掌は、影人に彼女が守るべき存在であるのだと改めて、思い抱かせる出来事でもあった。
『・・・あの娘が一番、不安定だからね、直接、視なくとも持ってかれ兼ねないからね。
影人、何かあったら、あんたが、あの娘を守っておやりよ。
朱雀のオーラでバリアを張ってあげな。
それくらい出来るだろ。』
朱雀の言葉のままに、光透波を守りたい、その一心で行動したものの、とても恥ずかしい事をしたような気持ちで一杯で影人は沸騰したみたいに頬を上気させていた。
光透波は握りしめた片方の手に淋しく宙を彷徨っていた手を影人の手の甲に重ね合わせると、しなだれかかる様にして身体の重さを委ねてきたのであった。
「・・・なぁ、光透波、今だけは特別に甘えさせてやるよ。」
影人は、皆に聞こえない様に声を潜めて囁くと、ガゥの代わりに優しく頭を何度も何度も撫で撫でしてやる事にしたのである。
光透波はクゥ~ンと甘えた子猫みたいな甘い声を漏らすと、影人の腕にシッカリとしがみついてきたのだった。
暗闇の中でなのか、影人は光透波から、いつも感じた事が無いくらいに女性だと言う事を意識させられてしまい、どうしていいのか分からないくらいにドギマギしていた。
多分、光透波から甘い香水の匂いがしたからかも知れない、もちろん、影人には楓が妹にプレゼントした高級ブランドの香水だとは気付く術も無かった。
・・・修行に行くってのにお洒落なんか必要無いだろうと、心の中で呟くが影人も何故か、こうしている事が自然と、心地好く感じていたのであった。
光透波から香り立つ、甘く可憐な花を思わせる鼻孔を擽る感覚と、しなやかな筋肉質の細身の腕に少しだけ成長を感じさせる胸の感触にもドキドキしていた。
さらに、頭を撫でる際に指の間を滑り抜ける、肩よりも上で揃えたショートヘアーの髪も女性的な艶やかさを感じさせていた。
「俺、なんか変だ、俺は楓さんの事が好きなのに、それなのに・・・」
影人は言い知れないくらいに心がキュンとし始めていた。
《ガタンッ、ガタガタ、ズドーォン!!》
朱雀の言葉に騙された薫流のキャンピングカーはベコリと凹み、欧米人がハンバーガーを潰してから食べる感じには間違いないくらいに潰れていた。
朱雀と白虎でオーラを着地する地面へとスペースシャトルのバーニアの様に噴出させるが、やはり、その衝撃たるや、凄まじいモノであった。
遊園地のフリーフォールも真っ青になるくらいの衝撃だった。
そんな中で、天井に頭をぶつけなかった事と何よりも全員が押し潰され無かった事が奇跡的に思えた。
『オ~イ!皆、どうやら、到着したみたいだぜ。
凄ぇ~揺れたが、皆、無事か?
もぅ、目を開けても大丈夫だぞ!』
空気のまったく読めないお調子者のガゥの叫び声によって、ちょっとロマンチックなムードだった影人と光透波は水をさされた格好となってしまったのであった。
只でさえ、何事かと目を開けたい気持ちで一杯であった一同である。
そして、あろうことか、こちらも空気の読めない、光透波にぞっこんラブラブなお調子者の虎慈朗が、彼、独自の基準でアホと認定してる影人とイチャイチャしてる愛しの君を見つけてしまったから、さぁ大変。
「ドジョウが出てきて、こんにちは・・・って、ちゃうわ~!」
虎慈朗の視線に気付き、バッと離れたロマンチックな2人だが、アホの影人に向けて、強烈な突っ込みを遥かに超えたパンチが放たれた。
「なんで、お前が光透波ちゃんとイチャイチャしてんねやッ!」
影人は虎慈朗のパンチをガシッと受け止めると・・・
「別に・・・どうだって、良いだろ、何か問題でも有るのかよッ!」
影人は、そう語気を荒く、叫ぶと虎慈朗の腕を捻り上げた。
鼻先が触れるくらいに顔を寄せるとバチバチと火花が飛び交いそうな勢いで睨み合うのであった!
「ケッ、大した力も無い癖に威勢だけは、エエみたいやな!」
虎慈朗の先制口撃が影人に炸裂した。
「大した事ないのはオマエだろ。
朱雀の力をなめるなよ!」
そう言って、虎慈朗を突飛ばすと、戦闘体勢をとる影人だった。
それを見て、虎慈朗も即座に反応し、身構えた。
正に、一触即発であった。
他の皆も、どうして良いのか判らずに心配そうに見つめていたのであった。
・・・それを黙って見つめる朱雀と白虎。
『ふむ、威勢が良いのは、御主の影響か、それとも影那殿の血筋だからか。』
・・・と白虎が、ボソッと独り言ちる。
『フフン、白虎、何を言ってんの?
・・・若いうちはさ、あのくらい弾ける様な元気が無きゃダメさ、特に惚れた腫れたの喧嘩ならさ、そんな風に愛されている光透波が羨ましいね。』
・・・と朱雀は何やら嬉しい様子だ、火事と喧嘩が三度の飯よりも好物な江戸っ子みたいな性分であった。
一時の睨み合いに割って入る人影があった。
「ふたりとも、すぐに暴力で何でも解決しようとしちゃダメだよ~。
も~、ダメだって言ってるじゃないッ!」
光透波は、そう言うと、影人と虎慈朗の頬を両手でビンタしたのだった。
《パシーン!!》
・・・と、2人の頬から革の鞭で叩かれた様な乾いた高音が響き渡った。
「・・・ッッ!」
影人はピリピリする頬を押さえて、光透波に文句を言った。
「痛てぇな、何すんだ、光透波!
・・・お前なぁ、言ってる事とやってる事が違わないか?」
「ちょいまち、何を言い出すんや、今のは光透波ちゃんの愛の鞭やろ!」
大好きな光透波に、ぶたれた事も何か嬉しそうな虎慈朗は的外れな言葉を発した。
「そういや、とっくに着いたみたいだぜ。
・・・テメェとはオーラを全開にして、フルパワーで戦っても大丈夫そうだからな、外で戦おうぜ!」
影人が光透波を制して、虎慈朗に決闘を申し込んだ。
「ケッ、望むところや、言われへんでもバチコンかましたるわ!」
そう言って、2人は車外へ飛び出たのだが、そこには驚くべき光景が待ち受けていたのであった。
「・・・なんやねん、これは!?」




