#80
影人達が羅刹達を撃退した日から…三年の月日が経過していた。
彼らは…どうしているのだろうか?
《ズ……ズズズ…………》
激しい衝撃が大地を揺さぶる。
「なんや…なんや、やっぱり大した事あらへんなぁ~。」
大きな岩肌に叩きつけられた影人を挑発するように笑う虎慈朗であった。
「ち…ちくしょ~ッ!
ちょっと油断しただけだ!!
次は…こうはいかないぜ…。」
パラパラと崩れた岩壁の瓦礫の中からバッと飛び出すと影人はムキになって虎慈朗に指差しながら叫び返した。
『影人…もう…そろそろ限界だよ!
スピード命な白虎を相手に肉弾戦だなんて無謀にも程があるのさ。
そもそも自由に動けない空中でやり合うなんてさ…も少し考えて攻撃おしよ。』
朱雀が呆れ気味に…影人へ注意すると緊迫した空気を破るように、遠くから声がしたのであった。
《…影人ちゃ~ん
虎慈朗ちゃ~ん
食事の用意が出来ましたから…一緒に食べませんか~…!》
楓の優しい声が過酷な修行の時間をほっこりと和ませるのであった。
影人と虎慈朗の修行している場所…
ここは…富士山麓の地下深くにある蒼穹四神殿と呼ばれている謎の空間である。
何が…どのように謎なのかと言うと……
それを説明するには三年前まで時間を戻す事にしよう。
※三年前※
羅刹との死闘の後…食卓を囲む一同の賑やかな声が響く。
「ふむ…腹も、た~んと膨れて少しは落ち着いたじゃろうから…これからの事について決めようと思う。」
影蔵が膨れた腹を擦りながら話し出した。
「にょほほ~いッ…!
確かに…それしかない無いようやな。」
虎蔵も満足気に美登里さんのお尻を擦りながら、そう言った。
「それは…そうだろうが、何か秘策でもあるのか、じいちゃん。」
無言で虎蔵の手を捻り上げながら影人が影蔵に聞き返した。
「ふむ、彫魂神について書かれておった古文書に記されていた事が本当じゃとすれば、正しく取って置きの修行の場所じゃな。」
影蔵は…勿体振った様子で腕組みをしながら語ったのであった。
『おぉ……なるほど!!
影蔵殿…フニャッ!
お主の言わんとする事を理解した…朱雀にも心当たりがあろう。
ッ…フミャ~ッ!
ぐるる~…ゴロゴロッ…』
白虎は…虎慈朗の言い付けに従い、なすがまま…大人しくしていたのであった。
光透波にギュ~ッと抱きしめられ…さらには喉を擦られたり…頭を優しく撫で回されながら…目を細めて、影蔵と朱雀に言った。
光透波にメロメロな主人に情けなくガッカリしていた白虎だった。
影人の頭に居心地が良さそうに腰掛けて…足を楽しそうにパタパタさせていた朱雀が白虎の方に一瞥してから素っ気なく答えた。
『………ん!?
あぁ…辛気臭い場所だよ、私は嫌いだね。
小生意気な青龍や傍若無人な姫様を思い出しちまうからね。
まぁ…あの婆さんは好きだがね。
もしかして蒼穹四神殿に行く気なのかい?』
朱雀は…影人の頭の上でピョンと飛び上がると、額に手を置いて悩み出した。
「あぁ~もう…一体なんやねん!!
みんなして一様に勿体振った言い方しよって…
ほんまに手っ取り早くめちゃくちゃ強くなれるっちゅうんやったら…そこで修行するべきやろうが!?
…そやろ?」
虎慈朗は煮え切らない皆の態度に苛々しながら、そこで修行すべきだと訴えた!
「まぁまぁ…どこまで行ってくるのかしら?
楽しそうねぇ…ウフフ。」
ニコニコと笑顔の美登里さんには…影人達が旅行かピクニックにでも行くようにでも聞こえていたらしい……
「修行なら私も着いていくよ。」
光透波が白虎をなでなでするのを止めて真剣な眼差しで…そう言った。
すぐさま…影人は言い返した。
「光透波…お前は止めておけ!!
遊びに行く訳じゃ無いんだぜ。」
その言葉を受けて影蔵が影人を制しながら口を動かした。
「いや、連れて行こう…楓さんも一緒にな。
ほっほっほ!」
『オレっちも修行できるか~!
うわ~いッ!やったぜ!』
ガゥは嬉しさのあまりに蝶ちゃんと手を取り合って楽しそうに踊り出した。
「もぅ…この子は遊びに行く訳じゃ無いって言ってるのに。」
楓は…ガゥの楽しそうな表現に今一つ叱るに叱れないでいたのだった。
「ちょっと待ってくださいよ、影蔵さん……!?
子供達には学校だってあるのですから、そんな無理を言われても困りますよ!」
光透波と楓を心配して父親である薫流が真剣な口調で…そう言った。
「まぁ確かに…そうじゃがな。
しかし…これから楓さんも光透波ちゃんさえも命を狙って襲いかかろうとしている輩がウヨウヨいるのじゃぞ。
そんな悠長な事は言っておれんのじゃよ…
残念ながらのぅ。」
影蔵は腕組みした手で顎を擦りながら…噛みしめるように語った。
「うふふ…そんな事はないわ、大丈夫よ!!
私が教師として皆に勉強を教えるわよッ!
それにね…今じゃ通信教育を使えば、大学だって卒業出来るのよ。」
元・高校の教師だった美登里さんが…教育担当として名乗りを挙げた。
「ちょ…ちょっと待って、美登里さんが行くなら…私も行くよ!!
それくらい良いだろう、影蔵さんッ!」
これで…薫流と美登里も修行に加わる事が決定した。
「会長…私達はいかがしましょうか?」
現在は病院にいる…不在の二人、松っつんと梅ちゃんに代わって竹りんが質問したのであった。
「お前達には諜報活動とワシらが留守の間、ここら一帯を見守っていて欲しいのじゃ。
他の組員や関連する仲間や場所も任せたぞ!!」
影蔵が竹りんに…そう命じた。
「かしこまりました…梅と松の奴は凄まじい勢いで淋しがるとは思いますが、留守番の任務を立派に務め上げてみせます。」
竹りんは片膝をついて深く頭を下げると部屋を出て行ってしまい…何処かへ消えてしまった。
「しかし、あれだな、デーモンフレイムか……!?
もしや…まことしやかな噂や都市伝説によく出てくる謎だらけなメディウサという組織では無いのだろうか?
だとすれば…まずはメビウス財閥からだな……!?
まさか…世界の闇が相手だったとはな…」
竹りんは…玄関先で左手の中指と薬指の間に葉巻を挟み、口元に持っていくとロダンの彫刻のように考え込む。
会長から貰った葉巻の一本をくわえて、自然と火をつけていた。
ふぅ~ッと溜め息混じりに白い煙を吐き出すと…意味深長な言葉をも共に吐き出した。
「ハハハ、かなり緊張しているのか。
否、心配しているのか、あの御二方のように…
そんな事にはさせない、お坊っちゃまを哀しませない為に……
ハハハ…そうだ、そうだった!
チッ、禁煙してたのになぁ~。
三ヶ月も持たなかったな…怒られちまうなぁ、お坊っちゃまに。」
影人は…ヘビースモーカーだった竹りんを見兼ねて禁煙するようにと薦めた。
竹りんが病気になったら、じいちゃんの面倒は誰が見るんだ…とぶっきらぼうな言い方だが影人の優しさをひしひしと感じていた。
そんな約束さえも忘れてしまうくらいに竹りんは動揺していた。
自分の知る常識とはかけ離れた世界が、これほど間近にあったのだから…
紫煙がゆらゆらと漂っていた彼の心そのものだった。
「…あいつらにも、そろそろ芝居は止めろと伝えなければな、お坊っちゃまには紛い物の母性は必要無いのだろうからな。」
…そう呟き、肺を久しぶりの薫りで満たすと…もう一度、深く溜め息混じりに白い煙を吐き出した竹りんであった。
こうして…大所帯での修行となった影人達は思いの外ややこしい手続きや準備の為に一週間後に出発する事となった。




