プロローグ
【読者の皆様へ(免責事項)】
本作品は、著者の体験に基づき作成されたフィクションです。
医療現場の過酷さや人間関係のあり方をテーマとした創作物語であり、登場する人物、団体、病院、施設、地名、および特定の看護介入・患者情報等は、プライバシー保護および個人情報漏洩防止の観点から、すべて架空の名称に置き換え、事象の再構成・一部改変を行っています。
実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
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「これは誹謗中傷ですよ。相手がどれだけ傷つくか考えなかったの?」
教員室の重苦しい空気の中、目の前に座る教員から投げつけられたのは、耳を疑うような言葉だった。
エアコンの機械音だけが虚しく響く狭い部屋。腕を組み、冷ややかな視線を送ってくる教員の顔を見つめながら、私は自分の指先が静かに震えていることに気づく。
現場がチームごと共倒れしてしまわないよう、相手のプライドを傷つけないよう慎重に言葉を選び、必死でカバーし続けてきたこの数週間。
「みんなで巻きで頑張って、早く帰ろうね!」
あの夕暮れの帰り道、相手を一切責めずチームみんなを守るための精一杯の配慮。それらすべての陰の努力も、教員側の指導不足や管理責任もすべて棚上げされ、突きつけられたのは「加害者」という不当なレッテルだった。
増悪と不都合な真実から目を背けるように出された結論は、あまりにも身勝手な一言。
「今日でこの件は忘れますから」
忘れる? 誰が、何を、誰のために?
それは生徒を思っての寛容さなどではなく、自分たちの不手際が表沙汰になるのを防ぐための、大人たちの浅はかな保身と逃げに過ぎなかった。
――なぜ、私はここまで追い詰められなければならなかったのか。
看護実習は、完全な「チーム戦」だ。
どれだけ自分が事前学習を重ね、技術を磨いても、配られたカード――つまり「一緒に回るメンバー」と「担当の指導教員」というガチャの引き次第で、その数週間は天国にも地獄にもなる。
そして今回の統合実習、私に配られた手札は、スタートラインに立つ前からバグっており、控えめに言っても「終わっていた」。
領域の希望調査では、提出すらしていない領域に問答無用で割り振られた。病棟の希望だって第2希望までしっかり書いたのに、なぜか私だけが希望をひとつも通されなかった。「学生の希望を聞く意味とは?」と頭を抱えたのも束の間、配属名簿に並んだ名前を見て、私は開いた口が塞がらなくなった。
独自のペースと無言の圧で場を凍りつかせ、電子カルテと教員を独占し続けるメンバー。
その不穏すぎる空気に耐えかね、ストレスと不満が限界突破してピキピキと音を立てて亀裂を深めていく仲間たち。
そして何より、現場の状況を正しく把握できず、表面上の都合の良い報告だけを鵜呑みにして現場の混乱を加速させる指導教員。
誰がこの組み合わせを考えたんだ。配置を決めた大人たちの頭の中はどうなっているのか。
「患者への看護」という本来の目的はどこへやら、チームワークという言葉は完全に形骸化し、内側からガラガラと音を立てて現場崩壊していく極限状態。
その真ん中に放り出された私は、グループ全体が機能不全に陥るのを防ぐため、「看護学生」としてだけでなく、感情の爆発を防ぐ「崩壊寸前の人間関係の裏方(中間管理職)」として立ち回ることを余儀なくされた。
配られたカードは、最初から最悪だった。
これは、無神経な配置と理不尽な環境下で、私たちが…いや私がどう抗い、どう知恵を絞ってこの実習を生き延びたか――そして、見えすぎる観察眼ゆえに大人たちに目をつけられた、裏のサバイバル記録である。




