第一話「目の前の未定」
爆速で書き上げているので、誤字脱字はご容赦ください。
完成度もね!
......戯言ですね。ごめんなさい。
「それにしても、災難だった」
昨日の夜の散歩旅が俺にもたらしたことと言えば、
ずぶ濡れによる体調不良。
変なお姉さんとの遭遇。
全力で駆け出した末の、人生ベストファイブには入る大ゴケ。
災難の三冠王である。この一週間で俺より不憫なやつは、手をあげてください。
先生が慰めてあげよう。
「……それより、俺の膝を慰めてくださいぃ」
コケた際に俺は、甚大なダメージを膝に受けており、未だに熱を残している。
当分治りそうにない。
「急がば回れって、やつか?」
いきなり全力疾走をした俺は、難なく彼女を撒けたわけだが。
そのまま足を止めることなく、なぜかハイテンションになってしまい、そんな状態になれば予期せぬことも起きるわけであります。
……足をもつれさせた上に、盛大にずっこけた。
最高か!いや、終わってんだよ。
「はあ。いい歳こいた高校生が何やってんだか」
本当に恥ずかしい話である。
頭をブンブン振って、その煩悩を振り払おうとする。
……できない。
「少し、外の景色でも見るか」
そう呟いて、普段は開けないカーテンを開き、ベランダへと続く窓を開ける。
「うおっ。眩しいな」
学校へ行く時いつも浴びている日の光ではあるが、浴びせられている光とこうやって能動的に浴びる光というのは感じ方が違う。
ふと、そんなことを思った。
「まあこういう日も悪くないか。昨日のお姉さんも悪い人ではなさそうだったし、何より綺麗な人ではあった」
なぜか感慨深くなり、あのまま会話を続けていたら、お近づきになれたんじゃないか。
という、妄言まで湧いてくる。
うん、やめよう。悲しくなるだけだから。
腕を組み目を瞑りながら一人でにうなずいていると、横から声をかけられる。
「あら、そんなこと思われていたの。綺麗っていうのは、いつ言われても嬉しいわね」
「は?」
妙に聞き覚えのある声。
昔から知っているというよりは、昨日聞いたような声。
いや、そのままだな。
俺は横の部屋を覗くように、ベランダに乗り出す。
「ま、まじかよ」
「やあ」
そう言ってこちらに手を振っている。
流れるような紫の長髪、少し気だるげな紫苑の瞳、近くで見るとくすみひとつない乳白色の肌が昨日の怪しい女を想起させる。
あれ?昨日ちゃんと逃げ切ったよな。並の女がついて来られるようなスピードではなかったし、結局、まともな自己紹介すらしていなかったはずだ。
ということは……なんだ。
「あのー。なんでお姉さんが、そこに?不法侵入ですか。ダメですよ、いい歳こいた大人がそんなことしちゃ」
「うわお。随分的外れなことを言うね君。発想の転換は面白いけど」
「?」
俺の言葉を受けた彼女は、楽しそうにケラケラ笑いながら、そう言う。
笑いすぎて涙が出たのか、目尻を拭いながら、また話し始める。
「君のお隣さんなんだよ。君が一生、部屋にこもっているから、心配して声をかけたってわけだよ」
「え、そしたらなんで、昨日は名前なんて聞いたんですか」
彼女はこちらを見てニヤっと笑いながら「遊び心ってやつだよっ」と、悪戯をする子供のように笑う。
その笑みはどこか蠱惑的で、俺のくすんだ心が少し洗われる気がした。
左手を右肘の下にやりながら、人差し指を立てて、彼女はそう言った。
だが、隣人なのに俺が知らないなんてことがあるか?
……いつも下を向いて、ご近所付き合いなど一度もしない俺。
まあ顔を認識してなくても、おかしくはないな。
うん。Q.E.D証明完了。
「……あーじゃあ、昨日は心配して声をかけてくれたってことすか?それなら、怪しい女とか言ったのは、取り消さなければなりませんね」
彼女の笑いが急に止まる。
ん?なんか俺変なこと言ったか。
「私のこと、怪しい女だと思っていたの……。少しショッキング」
「あーごめんなさい。ごめんなさい。これ僕の内側に留めておくやつでした。ミスりましたぁ〜」
俯く彼女を宥めるように、手をあわあわさせて「どうしようか……」って呟くことしか俺はできない。
「あーそしたら、あれです。何か恩返しをさせてください。気を使わせてしまったのは、俺の不手際というか、不摂生というか……だと思うので」
彼女がゆっくり顔を上げる。
少し涙目になっても可愛らしい顔だと思った。
「じゃあまた話してよ。暇なんだよお姉さん」
「ま、まあ。それくらいなら全然構いませんよ」
「ていうか、時間大丈夫?」
「は?」
時計を見ると、もう出ないと遅刻ギリギリの時間まで迫っていた。
もう髪は整えられない。飯も食えんな。学校の準備は……。
まあ、行けばなんとかなるやろ!
そう思い立ったが吉日だ。そう心の中で呟き、制服に一直線。
後ろで「待ってー」みたいなことも言ってるが、フル無視だ。
「よし。最後にネクタイも……まあいいだろ――」
「ネクタイぐらいは結んであげるよ。そんなぐちゃぐちゃだと、女の子に嫌われるぞ」
……そしたら僕は、毎日嫌われてますね。知りたくなかった。
「んにゃ、そんな時間はねぇ!行ってくるぜ、隣の可愛いお姉さん」
そう言って、鞄を引っ掴んで急いで玄関へ向かう。
隣の部屋からもドタドタ聞こえるが、何やってんだ?
玄関の扉に手を掛け、思いっきり開く。
「なんでいんだ」
「ね、ネクタイぐらいは結ばせて。本当に、忙しい人だね」
「ハァハァ」と息を切らしているお姉さんを見ると、なぜか断りにくかった。
「もう、早くしてください。僕だって急いでいるんですよ」
「わかったから、ちょっと待って。深呼吸する」
「そんな時間はねぇ!」
仕方なく足を止める。
顎を少し上げて、ネクタイを差し出すように胸を張った。
なぜかみっともなく感じて、少し涙が出そうだ。
「おっけー!結ばれる気満々だねぇ〜。お姉さんに任せろ」
そう言いながら、謎の美少女は俺のネクタイに触れる。
……近いな。
至近距離で見ると、お姉さんというには、少しあどけなさが残る顔つきなんだな。
とか、くすみひとつない乳白色の肌が恨めしい……。
などと意味のわからない感情が湧いてくる。
だが、俺の視線に気付いたのか、「んっ? どうしたの」とこちらを覗き込んでくる。
ち、近けぇ!めっちゃ緊張するんですけど。
脇汗かいてないかな、臭くない?鼻毛出てたらどうしようかな。
これはもう、人生のハイライトに数えてもいいのでは?
生涯一片の悔いなし!
「できた!」
「かはっ。心臓に悪いです。でも、ありがとう」
そう言って顔を上げると、満面の笑みのお姉さんがいた。
たまには、こういうのも悪くないな。
うんうんと頷きながら、感傷に浸っている……時間はねぇな。
てか、遅刻確定。電車、間に合いませんわ、これ。
まあいっか。俺はいつもこんな感じだし、綺麗なお姉さんとお近づきになれたなら重畳だ。
と、諦めていたのだが。
「車で送ろうか? 間に合わないでしょ、電車」
「女神様!」
「……さっきまで、怪しい女扱いしてたのに。現金なやつめ」
お姉さんは「このこの〜」とか言いながら、俺の頬を突いてくる。
恥ずかしい恥ずかしい!そのことはもう謝りますから、それや、やめて。
ふにゃあと、へたり込んでしまいそうな気持ちを抑え、俺は毅然とした態度で言う。
「実際、初対面時は怪しかったですし? そこはまあしょうがないと言いますか、止むに止まれぬと言いますかですね」
「うん、わかったわかった。お姉さんはそこくらいは気にしていないよ。冗談っ」
そうやって、さわやかに笑う姿を見ていると、こちらの気分まで上がってくる。
ほんと、ありがとう。
どこか救われた気分がした。
「じゃ、じゃあ。よろしくお願いします」
深々とお辞儀する俺。
反応がないので見上げてみると、目を見開いて驚いた様子の彼女。
またなんか変なこと言ったかな……。
「い、いや。意外と素直で嬉しいよ。う、うん。可愛い可愛い」
そう言って頭を撫でてくる。
え、なんですかご褒美ですか。もうここで人生終了ですか。
いくら毎日善行を積んでいるからといって、ここまで効果があるとは。
ま、まずい。頭がふわふわしてきた……。
「や、やめてくだ、さい。学校行きましょ」
「ああ、それもそうだね。急ごう!」
そう言って、彼女は俺の頭を撫でていた手を離した。
そのことに若干の後悔を残しながら、俺は学校へ行ったのだった。
ご高覧いただきありがとうございます。




