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転生勇者の三軒隣んちの俺  作者: @aozora


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第9話 転生勇者、敗北を知る

“ハァッ、ハァッ、ハァッ”

「クッ、まだ追って来やがる。ジェイク、この後どうする?」

壁役のジミーは既に役に立たなくなった大盾を地面に投げ捨て吐き捨てる様に呟く。俺は魔物により肩から背中に掛けてざっくりと切り裂かれたエミリーを肩に担ぎ、只管足を動かす。


「この先に野営に使った洞穴があったはずだ。そこまで行ったらエミリーを降ろし反撃に転じる。少なくとも四方から攻撃されるよりかはましだ、そこで隙を窺い倒すしかない。このまま逃げていてもすぐに追いつかれるだけだからな」

背後から迫る気配(プレッシャー)は敵がすぐ傍に迫って来ている事を示していた。


どうしてこうなった?目的の洞穴を目指しながらもそんな疑問が頭をよぎる。

俺たちは売り出し中の若手ナンバーワン冒険者だった。ギルドでの評判も良く、周りとも上手くやっていたはずだ。今回の依頼だって簡単な調査依頼だったはず。


本当にそうなのか?俺は事前に依頼先の情報を集めたのか?依頼ランクから簡単な依頼と思い込まなかったか?周辺の魔物情報は?依頼人は何と言っていた?急に周辺の魔物が消え遠くから大きな獣の声が聞こえたと言ってなかったか?


完全な油断、己に対する慢心。情報を集め安全を最大限に確保する、それが“冒険”の基本ではなかったのか。優秀な冒険者は決して“冒険”しない。

“勇気と無謀をはき違えない、お母さんを悲しませない”

父と交わした約束を俺は守れていたのだろうか。ここしばらく家に手紙すら送っていなかった薄情者の自分に歯噛みする。


“ドガン”

唐突に隣から聞こえる轟音、振り向けば先程迄並走していたジミーの姿が消えていた。


「ジミー、何処だジミー!」

「グオー!逃げろジェイク、俺の事に構うな!お前だけは生き延びろ!」

その声は遥か上空から聞こえる。見上げる先にあったもの、それは黒い触手により上空高く吊し上げられた親友の姿であった。


「ジミー!くそ、今助ける!」

剣を振り上げ助けに入ろうとしたその時だった。


「馬鹿野郎、お前の肩に乗っているモノはなんだ!お前の命はすでにお前だけのモノじゃないんだぞ、今やるべきなのはエミリーを助ける事だろうが!それにこの俺がそう簡単にやられるもんかよ、村一番の剣士を嘗めるな!」

そう言いニヤリと笑うジミー。

胸に去来する後悔の念。


「くそ!絶対死ぬんじゃないぞ!」

俺はその場を逃げる様に全力で森を駆け抜けるのだった。



“ガバッ”

「ジミー!!」

大声で彼の名を呼ぶが返事はない。周囲は暗く、まるで夜の闇の様であった。

そして何故か俺はベッドから起き上がっている。あの化け物たちは一体、ジミーは、エミリーは!

不安に駆られるまま飛び上がりベッドから降りると、部屋の扉がガチャリと開き明かりを持った人物が部屋に入って来た。


「ジェイク、今起きたのね。ずいぶんうなされている様だったけど、大丈夫?」

それは懐かしのマリアお母さんであった。


「えっと、マリアお母さん、俺・・・」

「やだ、ジェイクったらまだ寝ぼけてるの?それに“マリアお母さん”とか“俺”とか。ジェイクは初めて魔法を使って倒れちゃったから、まだいろいろ混乱しているのかな?

身体中が汗でべっとりじゃない、今拭く物を持ってくるからすぐに着替えなさい、風邪ひいちゃうわよ?」


そう言い手拭いを取りに部屋を出るマリアお母さん。えっと、これは一体。周囲を見回すとそこは自分の部屋、《《六歳児のジェイク君の自室》》。

って夢かよ!ホッと安堵するとともに、へなへなと床に尻餅をつくジェイクなのでありました。



テーブルに着きお茶を飲んでいると妻のマリアがばたばたと忙しそうに動いている。


「ジェイクが起きたのか?」

そう尋ねるとマリアはニッコリ微笑み、“でもあの子に魔法の才能があっただなんて、やっぱりうちの子は天才よ~♪”とどこか嬉しそうに手拭いを持って子供部屋に走って行った。


息子のジェイクが剣術を習い出して早一カ月、“勇者病”<真性>であった彼は一切の弱音を吐くどころかむしろ積極的に率先して剣の練習に励んでいる。その事自体は親として喜ぶべき事であった。


「でもあいつが“勇者病”<極み>だったとはな~」

父トーマスは自分たちの息子が“勇者病”の重症患者が極稀に発症すると言われている<極み>であることに顔を曇らせる。


“勇者病”<真性>には二種類のパターンがあると言われている。一つは剣の道に目覚め邁進する者、多くの<真性>患者に見られるのがこの“剣の勇者様”の症状である。トーマスはジェイクもこの症状である、そう思っていた。


もう一つの症状が魔法の道を極めんと勉学に励む“魔法の勇者様”症状。これは日頃から魔法の知識に触れる機会の多い貴族の子女に見られる症状で、平民ではまずないと言われている。

この“魔法の勇者様”を発症した場合、研鑽の末授けの儀の前に魔法を行使する子供もいると言う事は広く知られており、病状が発覚し次第魔法の教師を就けるという事は貴族間ではよく行われている事である。


勇者病による魔法の発現、この現象は主に<仮性>の症状で多く見られると言われている。

頭部に意味も無く包帯を巻いて片眼を隠し、“我が魔眼はこの世の全てを破壊する”とか、左腕に包帯を巻いて“我が身に封印せし邪神の力がこの身を焦がす。この封印の左手が全てを薙ぎ払う!”とか言ってる子供たちにとって、魔法の詠唱はもはやご褒美のような物である。

積極的に取り入れ独自の呪文を作り出す彼ら、そんな彼らの中には意図せず本当に魔法を発動してしまう子も現れる。そして有頂天になり魔力枯渇でぶっ倒れると言う所までがセットである。


そして極々稀にそんな<仮性>の症状を持った<真性>症状の子供がいる。そんな彼らの事を“勇者病”の中の“勇者病”、“勇者病”の頂点、“勇者病”<極み>と呼ぶのである。

ではなぜそんな希少種の事を父トーマスが知っているのか?それはトーマスが元冒険者だったことに起因する。

高位冒険者の中には割とこの<極み>がいるのである。ストイックに己を鍛え上げる勤勉さ、夢見がちに高みを夢想する無謀とも言える勇敢さ。この二つが上手く嚙み合った時、人は更なる次元に上り詰める事が出来る。高位冒険者とはそうしたどこかイカレた人間の集団なのである。


無論そこに行き着く事が出来ず、儚く散って行く命の方が遥かに多いのも<極み>の特徴である。トーマスはそんな事情を知っているからこそ、息子の将来を憂い頭を抱えるのであった。



「お父さん、お母さん、心配を掛けてごめんなさい」

テーブルに着き“勇者病”とは思えないほどシュンとした息子の様子に、トーマスは黙って言葉を促した。


「僕ね、物語で読んだ勇者様に憧れていたんだ。それでお話に出て来た魔法をやってみたくって、いつも戦っている宿敵に向かって“ファイヤーボール”って唱えたんだ。そうしたら掌から火の玉が出て、宿敵を一撃で。

凄いって思った、僕は強いんだって思った。

そんな時だった、奴が現れたのは。他のスライムよりも何倍も大きなスライム。僕は魔法でやっつけられると思った、簡単だと思ったんだ。でも全く通用しなかった。僕の魔法なんか奴にとってはただのお遊びでしかなかったんだ。


僕はこの時初めて魔物が恐いと思った、僕が魔物にして来た事をこれから魔物にされるんだと思った、死んじゃうって思ったんだ。それからは夢中だった、力の限り魔法を撃って、そうしたら身体がふらふらになって。最後は木刀で立ち向かったんだけど全然効かなくって。僕が憶えてるのはそこまで。


僕ね、夢を見たんだ。エミリーちゃんやジミー君と一緒に冒険者になって依頼を受ける夢。その中で僕たちは魔物に追い掛けられているんだ。エミリーちゃんが大きな怪我をして僕が担いで逃げて、ジミー君が途中で捕まっちゃって。

夢の中で僕は凄く反省してるんだ、森の調査の依頼だったんだけど、依頼を受ける前に事前準備をちゃんとしたのかとか、森の情報をちゃんと集めたのかとか、依頼人の話をきちんと聞いてそれについて考えたのかとか。

ジミー君が僕に逃げろって、エミリーちゃんを助けろって言って僕をしかりつけて、僕はその場を逃げて行くところで夢が終わったんだけど、僕がもっと慎重だったらこんな事にはならなかったと思うんだ。それって大きなスライムもそうだよね。僕は勇者失格だ」


そう言い泣き続けるジェイク。この時トーマスは思った、この子はたった一回の敗北でどれほど成長したのかと。若い冒険者がこの慎重さを身に付ける事が出来ずどれだけ散っていった事かと。

この子は強くなる、自分が知る誰よりも。トーマスはいつまでも泣く幼子を抱き締めて、優しく背中を撫でるのであった。



―――――――――――


「ごめんくださ~い。誰かいませんか~」

俺はデカスライムの大福にたっぷりと魔力水を与えた後、ジェイク君を負ぶってトーマスさんちに向かった。


ん?お前はテイムのスキルでも持ってるのかって?そんな訳無いじゃん、こちとら授けの儀の前のお子様よ、スキルも魔法も持ってない身よ?

授けの儀の前でもスキルや魔法があるって言うのは、一月前に「<鑑定>」って言ってるジェイク君を見て初めて知ったんだけどね。


にしても魔法も使えたのか~。本当世の中知らない事だらけだわ、“平民は無知の方が良い”とはどこの為政者の言葉だったか。確かにへんに知恵や武力を持たれてフランス革命されちゃったら堪らんもんね、マリーさんケーキ食べてただけなのにギロチン刑だもんね、民衆怖い。

生活を豊かにする生活魔法ならまだしもジェイク君がやってたような<ファイヤーボール>や<ウインドボール>をその辺の平民がばかすか撃ってきた日には目も当てられない。


授けの儀の時に魔法職や貴重な職業を授かった平民は王都や領都の学園に入って勉強するって言うけど、これも国の運営には欠かせないシステムなのかも。


教会の授けの儀は貴族平民貧民関係なく受けれるし、その時初めて自分のスキルを知る事が出来る人生逆転の一大イベント。浮浪児が授けの儀で聖騎士の職を授かって貴族の末端である士爵様に上り詰めたなんてサクセスストーリーがあるくらいだもんな~。


これもヤバい戦力は取り込もうって言う国の政策なんだろうけど、教会と王国とのズブズブの関係が見て取れるよね。怪しいスキルなんかもしっかりチェックされちゃうんだろうし、ある意味ここで初めて住民登録されるって感じ?ファンタジーでもしっかり管理社会なのね。


で、俺にスキルがあるかどうかなんだけど、正直分かりません。だって鑑定なんか使えないし、授けの儀までお楽しみって奴だね。

四歳の頃一通り魔法名は唱えてみたけど何も起こらなかったもんな~。

魔法の行使には呪文が必要なのかと思って、両親に知ってる限りの基本魔法の呪文を教わって試したけど、うんともすんとも。

地面に突っ伏す俺を見る父親と母親が凄い生暖かい目線を送ってたっけな、あの頃は若かったよな~。(遠い目)


無論ステータス確認もやりましたとも、鑑定どころか“世界の理よ、大いなる英知を我に授けよ、開け、アカシックレコード!”とか叫んじゃいましたとも。

お陰で(わたくし)、四歳にして“勇者病”<仮性>認定ですわ。もう全ての奇行が“あ~、ケビン君<仮性>だから~”で済んじゃうレベルですから。(涙目)


両親に“大福”を紹介した時も“今度はテイマーに憧れたのね”で済んじゃったからな~。母親、大福に“ケビンの事よろしくね”って言って干し芋あげてたもんな~。

ま、基本スライムは大人しいですし、周りに子供がいない分遊び相手になってくれるスライムは両親にとっても都合が良かったんでしょうけどね。


この大福、実は俺の実験相手だったりするんですね。

四歳にして属性魔法に挫折した俺氏、魔法に対する憧れは捨てきれず誰でも使える生活魔法に注目した訳ですよ。それで生活魔法<ウォーター>を母親に頼んで習得、頑張って水を出す訓練に励んだ訳なんですけどね。四歳児の魔力じゃすぐに魔力枯渇して寝込むって言うね。幸い庭の木陰でひっくり返ってたんで飽きて昼寝してると思われてたみたいですけどね。


そんな事を繰り返している時にふと思いましてね、“この水何処から湧いて来るんだろう”って。

だってこれって飲めるのよ?消えないのよ?めっちゃ不思議。

で、色んな所でウォーターを試したわけですよ。林の中、草原、畑、道の上ってね。そうしたら固い地面の道の上や周りに水っ気のない部屋の中で使う<ウォーター>よりも水辺や水気の多い洗い場で使う方が楽って事が分かりましてね、本当全然違うんですよこれ。

で、思ったんです、<ウォーター>って周りの水分を集める水魔法なんじゃないかって。


試しに濡れた手拭いを手の甲に乗せて地面に向かって<ウォーター>を発動したら手拭いが乾いちゃうって言う、もうびっくり仰天ですから。だったら<ウォーター>の練度を上げるなら水辺でしょうって事でスライムと戯れつつ<ウォーター>の練習をですね~。

頑張った結果ホースから水を出すくらいの<ウォーター>を放てるようになったって言うね。その時その水を向ける(まと)だったのが大福なんですね~。


こいつよっぽど<ウォーター>で出した水が気に入ったのか水辺に行くたびに近寄って来るんですもん。で、水を掛け捲ってたらいつの間にか周りよりもデカく成長しちゃいましてね。どうも<ウォーター>で出した水には若干魔力が含まれてるみたいでして。

その辺を検証しようと思って魔力を意識しながら<ウォーター>を出して大福に与えていたら今みたいになったと言う訳です。本当、世の中不思議に溢れてますな~。


「は~い、どちら様~」

俺がボーっと物思いにふけっていると家の中から女性の声が。


「マリアおばさん、ヘンリーの所のケビンです。水辺でジェイク君が寝ちゃったんでお届けに参りました」

そう言いマリアおばさんにジェイク君を引き渡し、俺が見た事を簡単に説明。要は“ジェイク君が魔法を使った、調子に乗って気絶した”ってだけなんですけどね。

マリアおばさん目茶苦茶驚いてます。


そりゃそうだよね、授けの儀の前の子供が魔法を使ったなんて聞いたらその反応が普通だよね。“うちの子天才”って言って踊り出した事は見なかった事にしてあげよう。決して口止め料に貰った干し芋の束に買収された訳じゃないからね。

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