整理整頓その先
「特定できたからってどうなんだ」
と検察神は言った。
裁判所長官は手を差し出し、発言をうながす。
「人は問題を見つけると、解きたくなる生き物なのです。
つまり問題が特定されると、全力でその問題を解決しに動く。
整理整頓とは、人間の能力を最大限引き出す技術なのです」
と師匠は言った。
控室の掃除人から一斉に拍手が起こった。
会場もざわついている。
「なるほど、学習についてはわかりました。そのナビを付与されたものが、上手く使ったのでしょう。しかし戦争はどうですか?戦争で勝つのは困難です」
と裁判所長官は言った。
師匠の近くに、別の掃除人が近寄り、耳打ちをしている。
師匠はうなづいている。
「戦争の歴史を見ておりますと、食料や物資の不足などで亡くなる兵士の数はおよそ6割にのぼると言われているそうです。つまり整理整頓不足が解消すれば、亡くなる兵士の数は激減いたします。
整理整頓の得意な人物が重要ポストに抜擢されても、不思議ではありません」
と師匠は言った。
会場はざわついている。
師匠と耳打ちをしていた別の掃除人は、小さくガッツポーズを見せた。
「そうか。そういうことであれば、整理整頓の技術をたまたま上手く使っただけとしか言えなさそうだな。
ただ……それであれば、本を与えればいいだけの話、もしくはその本があるよと促せばよかっただけの話。
検察神側の訴えも妥当だとは思う」
と裁判所長官は言った。
「しかし、それではあまりにも被告神Aが不憫です」
と弁護神は訴えた。
会場からも
同情の声が聞こえる。
(こーんこーんこーん!静粛に!!!!!)
会場は静まり返った。
裁判所長官は腕を組み、しばらく目を閉じていた。
「……有罪は決定です」
会場が凍り付く。
「理由としては、ここでこれを許可すると、裁判所がナビシステムを許可したことになりかねない。
つまりナビシステムは有罪。
あとは整理整頓の技術という、いわゆる世界をゆがめかねないチート能力ではないという点で、情状酌量の余地ありと判断し、あとは刑期についての審議と、罰則についての抽選を行います。では被告神A、目の前のスタートボタンを押し、ルーレットが回るので、自分の好きなタイミングでストップボタンを押しなさい」
と裁判所長官は言った。
被告神Aは、目の前に現れたスタートボタンを押す。
モニターが映し出され、ルーレットが回る。
禁推し
禁ゲー
禁孤
禁肉球
禁犬猫
禁女
禁男
禁酒
禁固
いろいろなメニューがある。
なんなんだ。あの刑罰は……。
それに金庫って禁固の間違いじゃないのか?
私はそう思った。
(ぷるるるるうるるる。ぽんぴんぽん。ぷぷぷぷぷー金庫刑が決定しました)
アナウンスが流れる。
えっなに金庫刑って。
(うわ金庫刑か。きついな)
控室から声が聞こえる。
「師匠。あの金庫って禁固刑の間違いじゃないんですか?」
と私は尋ねた。
「いや。あれはな、金庫刑で間違ってない。あれで正解だ」
と師匠は答えた。
「どんな刑なんですか?」
と私は言った。
「神の国にはな。巨大な金庫があって、神具とか宝物が保管されているのだけど、それを狙う連中が多くてな。そこの警備員をする仕事を罰としてやらされるんだ」
と師匠は答えた。
私はあぁそうなんだとしか思えなかった。
たしかに金庫だよな。
でもずっと警備員とか、ある意味禁固だよな。
なに、これめっちゃうまいこと、かかってない?
「これ、うまいこと言いたいだけの刑罰じゃないですか?」
と私は尋ねた。
「詳しくは知らんが、そう思ってる連中も多いだろうな」
と師匠は笑った。
控室には、人数分のおにぎりが届けられた。
米が余っているのだろうか。
丼鉢一杯分くらいの大きさのおにぎりだった。
控室は歓声に沸いている。
皆師匠にグーを送っていた。
(それではこれより刑期の査定を行います。神々様方は、お手元の端末から有罪ポイントを設定してください)
アナウンスが流れる。
画面にポイントが表示されていく。
集計が終わり結果が出た。
(集計の結果。刑期は38日間の金庫刑に決定しました。ご協力感謝いたします)
アナウンスが流れた。
リング上の大仏のマスクをかぶった神たちは、握手をして、リングを去っていく。
(これにて閉廷といたします)
アナウンスが流れた。
……
それから、ふたたび毎日掃除の日々が始まった。
神の国では、ほとんど困ったことがない。
朝は苦しくなく目が覚めるし、
夜もぐっすり眠れる。
基本的に人間関係のストレスもなければ、
寒さや暑さのストレスもない。
とにかく快適なのだ。
人間界のコンテンツを見ることはできるが、
また感情をムダに刺激するようなドラマや、
演劇などのコンテンツも制限されており、
精神的には常にフラットだ。
そういえば、
生前に苦しいこととか、後悔などが沢山あったが、
ここでは思い出しても、
単なるデータとしての扱いになってしまい、
感情が動かないのだ。
静かな湖面とでも表現したらいいのだろうか。
とても気持ちがすがすがしい。
これでなぜ発狂するのだろう。
私には不思議に感じられた。
いつものように昼食のチョココロネとフルーツ牛乳を、控室で食べていると師匠がやってきた。
「おぉアトム。ずいぶん顔が穏やかになってきたな。慣れたんだな」
と師匠は笑った。
「おかげさまで」
と私は頭を下げた。
師匠はチョココロネの先っぽをちぎり、チョコをすくって食べている。
私も真似をして、先っぽをちぎり、チョコをすくって食べてみる。
「なるほど。この食べ方だと、クリームが垂れないんですね」
と私は言った。
「そうそう。この食べ方だと、クリームが垂れて、前のアトムみたいに大恥かくことがないんだわ」
と師匠は笑った。
「そういえば、あれから色んな方に顔を見られるたびに、大笑いされるのですけど、あれって超恥ずかしい感じなんですか?」
と私は尋ねた。
「そりゃそうさ。神の国では、裁判中の視聴率100%だからな。その中でのチョココロネだから。もう皆知ってるわ」
と師匠は言った。




