供物
いつものように裁判所に入ると、見慣れぬ生き物がいた。
犬と猫か……。
しかし、なにか様子がおかしい。
ちぐはぐな気がする。
するとそこに師匠がやってきた。
「師匠。おはようございます」
と私は挨拶をした。
「おぉ。おはようさん。どうした。そんなところに突っ立って」
と師匠は不思議そうな顔をしている。
「いえ。あそこの犬と猫がいるのですが、なんか様子がおかしくて」
と私は指をさした。
「あぁ。お前は初めてか。あれはな。犬猫と猫犬なんだ」
と師匠は答えた。
「そうですね。犬猫です。猫犬……。
師匠がおっしゃっている意味がわかりません。
なにかのクイズですか?」
と私は尋ねた。
「あぁ、すまんすまん。あれはな。犬の身体に猫の魂を入れた犬猫。つまり犬の形をした猫。そして、猫の身体に犬の魂を入れた猫犬。つまり猫の形をした犬なんだ」
と師匠は答えた。
「あぁそういうことですか。どうりで動きに違和感があるわけだ」
と私は言った。
「近寄ってみよう。違いがよくわかるぞ」
と師匠は犬と猫のほうに近づいて行った。
私もあとをついていく。
犬猫のほうを観察してみた。
犬の形をしているのに、のどを鳴らし、毛づくろいをしている。
(にゃん)
「師匠。にゃんと鳴きましたよ」
と私は言った。
「そりゃそうさ、ワンとニャンが混ざっているんだから」
と師匠は言った。
私は、猫犬のほうも観察してみた。
猫の形をしているのに、舌をだして、しっぽを振っている。
(わにゃーーん)
「師匠。わにゃーーんと鳴きましたよ」
と私は言った。
「そりゃそうさ、ニャンとワンが混ざっているんだから」
と師匠は言った。
私たちは5分ほど、犬と猫を観察し、その場を去った。
「しかし、なんであんなのを作ったんでしょうね」
と私は尋ねた。
「それは、聞いた話によるとだな……」
と師匠は言いかけた時、
(こーんこーんこーん)
突然大きな音がした。
「そろそろ始まるぞ」
と師匠は言った。
「また法廷ですか?」
と私は尋ねた。
「そうだ。見に行こう」
と師匠は言った。
私は師匠についていった。
私たちは、使用人たち用の控室に入る。
そこには大きなモニターが設置され、
もうすでに多くの使用人たちで埋め尽くされていた。
モニターには法廷が映し出される。
(キーン)
とつぜんマイクのハウリング音がした。
(これより第108法廷~外界干渉罪の裁判を行う)
アナウンスが入る。
(うぉー!!!!!!)
控室では使用人たちが熱狂している。
隣の師匠の顔も興奮に満ちている。
やはり法廷は興奮するんだ。
ムリもない。
娯楽はあるにしても、
感情が安定したものばかりだから。
飽きるのだろう。
(赤コーナー!神国検察神代表タイホヤネーン!!!!!)
法廷の熱気が一段とあがる。
赤コーナーに大仏のマスクをかぶったスーツ姿の人物が現れた。
(うぉー!タイホヤネーン。今日も大胸筋キレてますね。最高のパフォーマンス見せてくれ)
使用人たちが叫ぶ。
大胸筋……?
キレてる……?
(青コーナー!神国弁護神代表マモルーデ!!!!!)
ごんごんごんごん。
足元を踏み鳴らす音が聞こえる。
青コーナーに大仏のマスクをかぶったスーツ姿の人物が現れた。
(マモルーデ!今日も胸大きいよ)
使用人たちが手を叩く。
胸が大きい……?
なに?ボディビルの大会?
「なんか応援が独特ですね」
と私は言った。
「あぁあれはな。暇だから、たまに応援の方法を変えてるんだ。今日はさしずめ、ボディビル大会の掛け声だろうな」
と師匠は答えた。
(こーんこーんこーん!静粛に!!!!!では被告神A)
リングにスーツ姿に大仏のマスクをかぶった人物が現れ、
リングの中央の椅子に座る。
体の線が細い。女神だろうか。
会場はシーンとする。
突然、画面で見たリングの上側にスポットライトが当たる。
(今回の裁判は、私裁判所長官のサイバーンカーンが取りしきらせていただく)
とスーツ姿に大仏のマスクをかぶった人物が挨拶をした。
……
「では訴えを聞きましょう」
と裁判所長官は尋ねた。
検察神は手を上げる。
裁判所長官はうなづき、手をさしだす。
検察神は会釈をした。
「罪状は外界干渉罪と賄賂請求罪です。この者は、転生者にお菓子を要求し、チート能力を与えました」
と検察神は言った。
「異議あり」
と弁護神は手を上げた。
「却下します。被告神Aに尋ねます。転生者にお菓子を要求し、チート能力を与えたのは事実ですか?」
と裁判所長官は尋ねた。
「間違ってるわ。私、お菓子なんか要求していないもの」
と被告神Aは顔をそむけた。
会場がざわつく。
(あの態度はまずいな)
そんな声が聞こえた。
隣を見ると、師匠が前のめりになっている。
「検察神。具体的にはどのようなチート能力を与えたのですか?」
と裁判所長官は尋ねた。
「状態異常無効、自動回復能力、経験値2倍、前世からの物品瞬間移動能力です」
と検察神は答えた。
会場がざわつく。
(そんなに能力を付与したのか?あの被告神A、おかしいのか)
そんな声が聞こえた。
師匠は眉間に皺をよせている。
「長官殿、その件に関しては被告神Aから申し開きがあるようです」
と弁護神は手をあげた。
「荒れるな」
と師匠は呟いた。
「許可しよう。聞こうじゃないか」
と裁判所長官は言った。
弁護神は、被告神Aに近づき発言するように促す。
「申し開きを受けてくれてありがとう。じゃあ言わせてもらうわね。
いい?人はバカなのよ」
と被告神Aは言った。
会場がざわつく。
「被告神A。話が見えないな。詳しく言ってもらえるかい?」
と裁判所長官は尋ねた。
「被告神A。皆に伝わるように説明してください」
と弁護神は言った。
「わかったわ。人はバカなのよ。戦争はするし、人の物は盗むし、神殿を掃除しないし。願い事を叶えても、お礼の一つも言わないし、権力者は年中発情期だし。人はバカなのよ」
と被告神Aは言った。




