第12話 同じ帰り道
練習が終わった頃には、窓の外が少し赤くなっていた。
健太郎はギターをケースにしまいながら息を吐く。
今日は妙に集中していた気がする。
悠が入ってから、Re:startもだいぶ形になってきた。
さくらがマイクを置く。
「お腹すいた」
開口一番だった。
健太郎は思わず顔を上げる。
「急だな」
「急じゃないし」
さくらは机に突っ伏す。
「ずっとお腹すいてた」
「言えよ」
「歌ってたから」
澪が小さくうなずく。
「分かる」
健太郎が振り返る。
「お前もかよ」
澪は真顔だった。
「ドラムも減る」
「そういうもんなのか……」
悠が少し笑う。
「まあ、動くからね」
さくらが勢いよく立ち上がった。
「ということで行こう」
「どこに」
「ご飯」
健太郎は嫌な予感がした。
「まさか今からか?」
「今から」
即答だった。
「却下」
「可決」
「人の話聞け」
「多数決しよ」
さくらが三人を見る。
「行く人」
真っ先に手を挙げたのは悠だった。
「僕は行くよ」
続いて澪。
「行く」
健太郎は頭を抱えた。
「お前らな……」
さくらが勝ち誇る。
「三対一です」
「民主主義って怖いな」
結局、学校の近くのハンバーガーショップに来ていた。
四人掛けの席。
トレーが並ぶ。
健太郎はポテトをつまみながら言う。
「こういうの初めてだな」
「何が?」
「練習終わりに飯」
さくらはハンバーガーを頬張りながら答える。
「青春って感じするでしょ」
「自分で言うな」
悠がくすっと笑う。
空気は思ったより自然だった。
音楽室の外でも、変に気を遣う感じがない。
少し前まで知らなかった相手なのに、不思議だった。
「そういやさ」
健太郎が悠を見る。
「悠って何聴くんだ?」
悠は少し考える。
「結構何でもかな」
「邦ロックも聴くし」
「インストも好きだし」
「ゲーム音楽も好き」
さくらが食いつく。
「ゲームやるの?」
「やるよ」
「何?」
そこから会話が少し盛り上がる。
意外だった。
悠は穏やかなのに、好きな話になるとちゃんと喋る。
健太郎は少し笑った。
「そういやベース以外も弾くのか?」
悠はうなずく。
「少しだけギターも」
「兄が持ってたからね」
「へえ」
健太郎は少し感心する。
悠が笑う。
「でもギターは全然だよ」
「そうか?」
健太郎は少し首を傾げる。
「兄貴の影響で始めたなら、結構弾けそうだけどな」
悠は苦笑した。
「期待しすぎ」
話題は自然と澪に向く。
さくらがストローを咥えながら聞いた。
「澪って休日なにしてるの?」
「寝てる」
即答。
健太郎が吹き出しそうになる。
「絶対嘘だろ」
「本当」
「二十四時間?」
「無理」
「だろうな」
悠が少し笑う。
「ちょっと分かるけど」
「どっちだよ」
さくらが突っ込む。
澪は少し考える。
「映画」
「お」
健太郎が反応する。
「観るんだ」
「たまに」
「何系?」
「何でも」
またそれか。
健太郎が苦笑する。
「参考にならん」
すると澪は少しだけ考えて、
「最近は音楽のやつ」
と言った。
「音楽?」
さくらが反応する。
澪はうなずく。
「ライブのドキュメンタリーとか」
「バンドのやつとか」
健太郎が少し意外そうな顔をする。
「そういうの観るんだな」
「勉強になる」
短い返事。
でも澪らしい。
さくらが笑う。
「真面目か」
「真面目」
即答だった。
店を出る頃には、空は夕暮れに染まっていた。
四人で駅へ向かう。
他愛もない話をしながら歩く。
さくらが先頭。
健太郎と悠。
少し後ろに澪。
不思議な並びだった。
駅が近づく。
それぞれ帰る方向も違う。
自然と足が止まる。
「じゃあまた明日」
さくらが手を振る。
澪も軽くうなずいた。
その時だった。
悠が少しだけ立ち止まる。
健太郎が気づく。
「どうした?」
悠は少しだけ考えてから笑った。
「いや」
「こういうの初めてだなって」
「何が?」
さくらが聞く。
悠は答えた。
「練習終わりに、みんなで帰るの」
少しだけ沈黙が落ちる。
でも重くはない。
むしろ、どこか心地いい。
さくらが笑う。
「じゃあまた行こうよ」
「うん」
悠も笑った。
「ぜひ」
それだけだった。
でも、その笑顔はいつもより少し柔らかく見えた。
少し前まで、音楽室には三人しかいなかった。
今は四人。
Re:chord。
まだ始まったばかりだ。
でも。
悪くない。
健太郎はそう思った。




