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現代に残る聖杯伝説について  作者: 乙黒


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エピローグ

 あれから一週間が経った。私は今日もいつも通りに学校には来ている。流石にあんなことに遭遇した次の日は疲れでずっと寝ていたため、高校を休んだが、二日目からはいつもと同じように学校に来ている。あんな日があったことは感じさせぬまま。


 それから私は密かに人づてを頼って、聖杯伝説、また失踪事件の事を調べた。私が男性の人に聞くと、その人は赤く染めながら簡単に話してくれた。だけど、どちらも進展がないままだった。新しい失踪者も最近は出ていないらしい。


 またそれとなく失踪事件についてだが、その中には向日葵という名前や貞宗という名前まであり、また他にも数人が失踪したと聞いた。その影響か、私のクラスでは二つの席が空いていた。


 また失踪者の内の何人かが放課後に私に付いて行ったとの情報から、最初、私自身が失踪事件の犯人ではないかと疑われて警察にも話しかけられたが、失踪者の中には私と全く縁のない人間がいて、私の自宅には何の証拠もなく、また一日にそんなに大量の人を拉致するのは、一人で、さらにはか弱な女の身でするのは不可能だという理由から、それ以上聞かれることはなかった。また私自身がこの町に来る以前から失踪事件はあったので、犯人に上げるのは元々無理があったらしく、警察からの調査は酷く優しいものであった。


 また秋空君も警察から話を聞かれたらしいが、彼は何も知らないと言うと、それ以上は何も聞かれなかったようだ。

 そもそも私が聞いた話では、この事件には何らかの組織が関わっていると警察は踏んでいるらしい。最近、そのような大きな組織が二つ市を跨いだ所にあるとのこと。その組織と、事件の繋がりを必死に警察は探しているようだ。だから被害者を助け出すためにも、怪しい人間はマークしてあると聞いた警察は漏らしていた。

 だけどそれ以上、私は何も聞けなかった。


 そもそも、最早聖杯もないので興味もそれ以上は湧かなかったから調べなかったのかも知れない。

 また、この日に私はあの日以来に初めて、秋空君を呼び出していた。彼も通常通り学校生活を送っており、私の見る限り、変わった様子はない。

 昼休みに屋上に私は足を踏み入れた。そこでは彼が既に待っており、「案外早かったね」と彼から声をかけられると、私は優しい笑みで彼を見つめた。そうすると、二人の間を柔らかな風が流れた。


「久しぶりね」


 私は穏やかに言った。


「そうだね」


「ねえ、知っているかしら? 私達、お互いに警察からマークされているらしいわよ。その理由としては失踪事件の犯人だと思われている〝ある組織〟との繋がりを探しているらしいわ。もちろん、あの日、私についてきた他の男子生徒も疑われているらしいけど」


 どれも警察の人を誘惑して聞いた話だ。


「ああ。知っているさ。それで、僕たちは全員同じ証言をしているんだろう。濃霧に入って、出てきたら誰もいなかった。だからすぐにいつも通りに帰ったって」


 やはり彼も知っているようだ。


「私も同じ答えを返したわ」


「そうだろうね。ねえ、聞いた? だから警察も困っているらしいよ。もしかしたら僕達全員が共犯かもしれないから、しっかりとマークし、僕達の情報を洗いざらい調べているらしいけど、きっと何も出ずに捜査は打ち切りだろうな。全ては闇の中だからね。」


 秋空君は笑う。

彼の言うとおり、時間が経てば私たちについている警察のマークもなくなった。何せ本当に何も出てこないのだ。特に私は経歴が怪しいとして最後まで調べられたらしいが、本当に田舎に住んでいた彼女には、ある組織との繋がりを探したらしいが、そもそもそんな組織を私は知らなかった。


 そもそもある組織は宗教団体であり、強制的に調べて怪しいところはたくさん出たが、失踪事件に関しては何も出なかったと誘惑した警察から後に私は聞くことになる。


「そもそもあの日以来、霧すら出ていないだろう? もう失踪事件は起きないから、警察も捜査に困るのは間違いない」


「ええ。警察も霧にまぎれて人を攫った、ここまでは考えられるかもしれないけど、もう霧が出ないんじゃ、待ち伏せも不可能よ」


「……それで良かったんじゃないのか?」


「そうね。もう犠牲者は出ないもの」


 私達はお互いに笑う。


「それで、何か僕に言いたいことがあったんじゃないの?」


 まさかこんな事を言うために秋空君は呼ばれたのではない、と気付いているようだ。

 あの日以来、私は秋空君とは話していない。私は彼に聞きたいことがあるのだ。アマシ様のことや、杯のこと。自分と彼ではおそらく手に入れた情報も違うのだから。


「ええ。そうなの。そうね、まず何から伝えましょうか? 最初に……私はあなたのことを村には言わないことにしたわ。だってどのように言ったらいいか分からないもの。アマシ様は既に人のお腹の中にあるって」


「それは良かった」


 彼はほっと一息をついた。

 どうやら彼は安心したらしい。それほどあの村に行きたくは無いのだろうか、と私は思う。村人は誰もが優しいいい人ばかりなのに。


「それに、私としては、まだ〝アマシ様〟を探していたいもの。私は確かに赫食いの言うとおり、杯に魅入られたわ。あれを心の底から欲しいと思った。そして彼の話なら、おそらくアマシ様や聖杯、それ以外にもこの地球のどこかに似たような物があるはずよ。私はそれが――欲しいの」


 私は微かに嗤う。これこの一週間で決めたことだった。聖杯を、かつてその恵みを得たアマシ様を思い出し、おそらくもう一度あの時のような幸せに浸ることを夢見ているのだ。

 私は自分のことをよく分かっている。おそらく、自分もクラウドたちと同じように魅入られた人間の一人なのだろうと。彼らのように杯などの魅力に取りつかれた欲望の奴隷になったのだ。彼女には彼らと同じような蛇のような執念の炎が胸にくすぶっている。


「そうか――」


「それでね、私はあなたに、秋空久羽人に聞きたいことがあるの。私は自分で分かっているけど、狂っているわ。杯やアマシ様を手に入れるためならどんな事だってする。自分の命すらも投げうるかもしれない。それはアマシ様の血の影響かもしれないし、私の本性かもしれない。おそらく、私の待つ未来も彼ら――クラウドと一緒だと思うわ。何かに狂信し、人ならぬ言葉を喋り、やがて人ではなくなる。私はいずれそうなる。そういう狂気に染まっていると言ってもいい」


 私は断言した。

 その言葉の裏には、将来的には絶対に杯のような物を手にし、クラウド達と同じような存在になると思っている。またそのようになるのが凛子の望みでもあるのだろう。アマシ様の血を飲んだ時から、杯を見た時から、彼女の運命は決まったのだろう。


「そうか――」


 彼の言葉に感動はなかった。


「それでね、私は思ったことがあるの。私はこう言ったらおかしいかも知れないけど、自分が狂っていることを自覚している。でも、あなたは? あなたはどうなの? あなたは――杯を食べた。アマシ様も食べた。確実に私と同じ……ううん、きっと私よりも上の存在よ。そんなあなたはやはり、狂っているの?」


 それは単なる疑問から出た質問であった。

 杯の雫を飲んだ赫食いは正真正銘の化物であった。人を肉体的にも精神的にも超越した何かであり、理解など到底及ばない存在だ。事実として、私は赫食いの話を半分も理解しておらず、意味も分からない。


 だとすれば、彼も同じなのだろうかと思ったのだ。

 いや、違う、と私は首を横に振る。

 もしも赫食いの言う通り、杯の持ち主が銀河の支配者として、人が考えることすらできない何かなのだとしたら、目の前の菊花はアマシ様と聖杯の二つを食べたのだから、もっと人を外れた何かなのだ。


 彼は何も言わない。

 何も言わずに、口角を少しだけ上げて嗤うだけだった。

 その姿が何よりも恐ろしかった。

 不敵な笑みがまるで頭上に無限に広がる宇宙に偏在する数多の超越者達を垣間見たようで、彼に初めて会った時とは、いや、初めて会った時から自分やその他大勢の者とは違って、人の枠からはみ出し、人ならざる言葉を喋る存在であるはずなのに、彼が人の姿を未だに保っていることが。


 本来なら化物であるはずなのに、普通の学生として、一般人として、ただの人間として、この町に存在することが、彼を未だに人間という枠組みに収まっているということであり、それを想像すると彼という存在が掴めなくなる。

 アマシ様の恵みを得た私ですら、既にその片鱗があるというのに。


 ああ。叫びたくなる。

 彼を見た時からずっと思っていたことだった。

 その気持は彼と話してから強くなる。この場に立つことによって、自然に彼へとこうべを垂れたくなるのだ。それはあのクラウド達と同じように。

 この感情は、彼と会った時から抱いていた感情は、決して――同族嫌悪などではなかった。

 

これはきっと――歓喜なのだ。

 私は彼を通して見られるアマシ様の姿が脳裏に浮かぶことで、この世に生を受けたことを感謝している。

地球が存在する銀河よりも遥か彼方で、それこそ宇宙の果てとも呼べる場所で、白い肉塊と成りながら無限に増殖し、崩れ、宇宙へと無造作に放出している銀河よりも大きい肉の塊。知性すら持たず、何も考えず、ただただ星や銀河を飲み込んで増殖する悪食の王。それこそが私の村の神であり、アマシ様その者であった。


名前は分からない。私は思う。きっと自分が飲んだ血は薄いのだろうと。

だが、胸に熱は感じている。ほんのりと温かく、それでいて幸せにしてくれる熱だ。これが恋なのだろうか、と錯覚するほど彼の瞳を覗く度に、その奥に見えるアマシ様を感じる度に頬が熱くなる。


ああ。彼をこの身に感じたい。そして全てを飲み込んでしまいたい。そうすればきっと、より深く彼を感じられるのだから。

私は頬を両手で覆ったまま、彼を見る。溺れてしまいそうだった。

彼はそんな私の表情を見て、怯えるように一歩だけ後ろに足を引いた。


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