怒るネズミ
バシャ!
水でずぶ濡れになった俺が目をあけると、目の前には獣人にしては丸い体系をした男がいた。大きな丸い耳に長いひげを生やしたそれはまさにネズミそのものであった。
確か俺が囮として大通りを歩いていたところ、どこかの船の船員同士の喧嘩が始まって大乱闘になり、その混乱のさなか頭に袋をかぶせられて頭をぶん殴られたのだ。
・・・・・
その頃、太平の姿を見失ったレイとレナはほかの団員とともにその姿を探し回っていた。乱闘のど真ん中にいる太平を探すために、船員を張り倒しながらかき分けていくとその姿は完全に消えていたのである。
「どうだ。」
「いないのにゃ。」
レイは焦っていた。自分ならば見失うようなヘマはしない。そんな根拠のない自信が油断になっていた。他人の命を賭けていてこのありさまだ。
・・・・・
「60箱の魔草を運ぶために1000箱以上もタバコを用意させたんだ。一体どれだけの損失になったかわかるかい。」
「うぐ!」
そういうと男は俺の腹に拳をめり込ませる。
「ここは私の屋敷の地下だからな。叫んだとしても誰にも聞こえまい。」
そして立て続けに顔面を殴りつけてくる。俺は何を聞かれるでもなく、ただネズミ公の怒りのままにやられ続けた。
どれくらい時間がかかっただろうか、俺の意識も朦朧としてきた。ひとしきり殴ったネズミ公は落ち着いたようだ。
「あんなことせずに、こちらに情報を流せば金を払ってやったのに。」
「お前もこっち側につかないか、金ならいくらでもあるぞ。」
などといってくるが無視する。ただ、俺は最後にこいつの耳だけでも食いちぎってやりたいと思っていた。
「―――。」
「なんだ。」
「―――。」
「ん?」
俺の小声に奴は顔を近づけてくる。そして・・・。
「アアアアア!」
俺は奴の丸く大きい耳にかみつく。奥歯まで入れることができないので前歯だけでの力となるが、俺は頭ごと振り回して歯を食い込ませる。
「早くこいつを離せ!」
近くにいた部下たちが俺を引き離そうと俺の頭を押さえつけようとするが、歯を食い込ませるのを手伝っているに過ぎない。しかし、横目で見たとき男が刃物を持っているのが見えた。
「(ああ、やばいな。)」




