決意
波の音が遠くに聞こえる。目をあけると壁も天井も白い部屋にいて、窓から差し込んでいる光が部屋をより一層白くしていた。
前にも同じことがあったような・・・、既視感があるとだけ言っておこう。それにしても体中が痛い。いつの日かの筋肉痛とは比べ物にならないぐらいだ。今思えばあの時目覚めた部屋が、そのまま俺の部屋になっている。
ゴホッゴホッ。
咳き込むと同時にレナが部屋に飛び込んできた。
「起きたのにゃ!」
俺とレナの目が合う。
「よかったのにゃ。」
「うぐ!」
俺はレナに抱きしめられる。まだ酒が残っているようで酒の匂いを漂わせつつ体を押し付けてくる。俺はその後、何とか話を聞いてみると密輸品摘発の報復といったところだろうということだった。
午後になるとレイも灯台に来た。レイによれば「ネズミ団」とは長年戦ってきたらしい。密輸のほか、港湾倉庫からの窃盗などにも関わっているとされ、いつももう一歩のところで逃げられるのだという。
「ボスを捕まえることはできないんですか?」
「証拠がない。」
どうやらボスであるとみなされている「ネズミ公」は王国の貴族とのパイプを持つ有名な富豪なのだが、そいつを捕まえるだけの証拠が一切つかめないのだという。俺はレイにあの時のことを伝える。
「じゃあ、あいつらはどこから情報が漏れたか聞き出すために襲ったのか。」
「そうだと思います。」
この後、あの時なぜ60箱多いとわかったのか説明する必要があったが、それを聞いたレイは何やら考えながら俺のもとを後にした。
・・・・・
三日後、俺はレナとともに海防騎士団の団長室を訪れていた。あの暴行事件以降、俺は組合の仕事から離れただけでなく、常にレナの護衛付きということになっていた。
「太平。率直に言うと、君に囮になってもらいたい。」
レイの作戦はこうだ。どこから情報が漏れたのかわからないでいる奴らはまた俺から聞き出そうとするだろうと思われる。そこで俺を囮として奴らに捕まえさせて偽の情報を流させるというのだ。
「そんなの危険なのにゃ。」
「もちろん奴らが太平を殺そうとした時点で踏み込んで奴らを捕らえる。その際一人でも逃がせば偽の情報を広めることができる。」
確かに難易度の高い要求だった。情報を流すとしてもすぐに吐いてしまっては情報の信用度は低い。そのため、ある程度ボコされた後に吐かなくてはならず、俺が何かをされることは確定事項なのだ。
俺もあんなことをされて何もしない男でもなかった。なぜ、あの襲われたときにあいつらを返り討ちにできなかったのだろうと思い出すたびにイライラするのだ。あいつらに復讐できるのであればこれしか方法がないだろう。俺はレナの反対にあいながらもレイの案を受け入れたのだった。