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密輸事件

 輸入品の管理という仕事をするようになって一か月。俺は順調に仕事をこなしていた。この国では海事組合が税を徴収して国に納めるとい徴税体制をとっており、俺のしている輸入品の管理というという仕事は重要だ。なぜならこの国で輸入品にかかる税は、すべて貿易船が売り上げの中から支払うことになっているのだ。つまり、売買された品物の把握していなければ徴税ができないということであり、組合の信頼にも関わるのだ。

 しかし、どこの世界にも税金をごまかそうとするやつはいる。今まであった例を言うならば、売り上げを過少申告してごまかそうとしたのが5隻。書類を偽造して船に積み込んでいる輸入品の数を少なく申告してたのが2隻だ。この書類は出発する港の海事組合が発行するものなのだが、それだけに偽造しても国などによる罰則がないのが問題だ。

 そして、特に後者は悪質だ。そもそも偽造することそのものが悪質なのだが、申告されなかった輸入品は密売され、貿易船が税金の分利益を上げるだけでなくそれを売る店側が税金をごまかすことにつながるのだ。例えば、酒場では酒樽一本で得られた利益の一割を徴税されるため、酒樽一本で百杯分の酒を売ったとすると十杯分は酒税として徴税される。国としては組合からその店が買った酒樽の数を報告されているため、三本輸入して三本売ったとすると三十杯分の税金がかかるが、もしこの時に密売された酒樽を一本仕入れていたとしたら十杯分の利益を隠すことができるのだ。

 今思えばレナもよく俺にこんな仕事を宛がったと思う。正確に言えば彼女が決めているわけではないのだろうが、おそらく俺が波止場に勤めていたという間違った前提のもとあてがわれているのかもしれない。



・・・・・



 海防騎士団の隣、海事組合の港湾事務所に俺はいた。仕事が終われば灯台に戻るが、昼間はいつもここにいて船がいつ来てもいいように待機している。


 「おい、太平。お前は数を百まで数えることができるのか?」

 「はい?できますけど・・・。」


 暇を持て余していると、所長は俺にそんなことを聞いてきた。周りからは感嘆の声が聞こえる。

 この世界では百まで数えること自体があまりない。それを必要としている仕事についている人間だけが持っている能力の一つなのだ。港に陸揚げされる荷物の数だって種類ごとで多くても一種類三十ほどで百まで数えられる必要がないのだ。どうやら所長によればほかにできる職員が出払っているのでこれから到着する船の荷物を俺に任せたいのだという。

 俺は本来の担当であった先輩のジャックという狼の獣人とともに桟橋に向かう。どうやら今回の輸入品は島にある店が直接仕入れたものらしいが、どうやら船のほうも店のほうも曰く付きの者なのだという。そんなこともあってか、桟橋につくと荷物はすべて陸揚げされていたが、船のほうには海防騎士団の団員が船を臨検していた。どうやら船に隠されたものがないかどうか調べているらしい。


 「輸入品は・・・、タバコですか。」

 「はい、そうです。潮風に当たって湿気ると困るので、なるべく早くお願いします。」


 だが、船の申告書類を見た俺は固まった。目の前にある木箱は百箱ほどなのだが、書類にはタバコが1500箱と書かれている。


 「木箱を一つあけても?」

 「ええ、かまいません。」


 店の男が快諾する。予想通り木箱の中にはタバコが12箱入れられている。俺はここで貿易船の船長を呼ぶ。


 「はい、何でしょう。」

 「書類にはタバコが1500と書かれているが、この木箱の中にすべて入っているのか?」

 「はい。運びやすくするために木箱に入れましたが、タバコ1500箱確実にここにございます。」


 絶対何か企んでいるだろうと思いつつ木箱を見る。木箱1箱にタバコが12箱、一ダースだ。確か一ダースが12あれば144になる。つまり120箱で1440だ。となれば残りは60、5箱で足りる。つまり125箱あればいい。

 俺は積み重ねられた箱を数え始める。すぐ近くでは運送業者も待っているので急がなくてはならない。

 俺はジャックと協力して箱を一辺5個の正方形に並べて4段に積み上げる。残り25箱あればいいのだが・・・。


 「(5個多い・・・)」


 箱はすべてで130個ある。つまり5ダース、60箱タバコが多いのだ。


 「船長。」

 「なんでしょう。」


 俺は再び船長を呼ぶ。そして、いつの間にか船内の臨検を終えた海防騎士団は船を降りていて、何度も船長を呼ぶ俺の様子を見てくる。それは心配とかそういったものよりも新人の様子を楽しんで見ているの近い。


 「タバコは木箱にみんな同じように入っているのか?」

 「はい。その申告書が書かれた後に私たち全員で箱に詰めたので間違いありません。」

 「となると、木箱一箱にタバコが12箱入っているんだな。」

 「はい、間違いありません。」


 どいつもこいつも早く終わらしたがっているのがわかる。


 「タバコが湿気るのでもうよろしいでしょうか?」

 「太平。もういいだろう。」


 店の男、先輩のジャックも催促してくる。担当はジャックだが、俺がサインをしなければこれらを通すことはできないのだ。


 「だけどな、船長。さっきの話を信じると、タバコが60箱多いんだが・・・。」


 この一言で空気が一気に変わった。船長は俺のことを突き飛ばすと、仲間が船から垂らした綱に捕まった。それと同時に繋留のための綱が斧で切られ、貿易船の帆が一気に下ろされる。

 逃走を図った船に海防騎士団の団員たちが乗り込もうとするが、動く船に乗り込むことは簡単ではない。船長の足に捕まろうとしたものもいたが、船長に蹴り落とされる。


 「(ああ、これ。逃げられるやつだ。)」


 船に乗り込む船長を見上げながら、俺は一計を案じる。しかし、海防騎士団も甘くはなかった。どこからともなく現れたレイと獣人たちが桟橋を走ってきたかと思うと、とんでもない大跳躍を見せた。

 きれいな放物線を描いてその姿が消えた直後、船からは怒号が聞こえてきた。上で何が起こっているかはわからない。しかし、船からは次々と船員たちが桟橋や海に落ちてくる。見ることができたことといえば船の帆を切り裂く獣人が見えたくらいだ。

 それから1分ほど船の制圧はで完了した。静かになった船から船長を抱えたレイが桟橋に飛び降りる。この日、船長や船員、店の男など大勢の逮捕者が出た。どうやらタバコ60箱分は魔草が積まれていたようだ。どういったものなのかはわからないがとにかく違法なものらしい。それなら1500箱も積まなくてもいいと思うのだが、タバコを1500箱仕入れたことは知られているので売らなければ怪しまれるし、タバコとして売る1500箱に魔草を混ぜるわけにはいかない。そういうわけであれだけ大量の荷物になったそうだ。

 そして、ごまかしもせずに俺を突き飛ばした理由だが、どうやら密輸しようとしていた数を正確に当てられたため、完全に密輸がばれていると思ったのだという。それにしても店の男も百や千まで数えられるような能力があるのであればちゃんとした仕事に就けばいいと思うのだが・・・。



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