国の岸を離れて
釣り竿を担ぎながら俺は灯台への道を歩く。その姿も次第に大きくなってくるが、この国の灯台は日本とはずいぶんと違っている。電気がないため灯台の屋上でかがり火を燃やし、霧の際には鐘を打ち鳴らすのだ。そして、灯台と隣接している平屋の中にはレナと俺のほかに十数人の灯台守が暮らしていて、薪を屋上に上げて組んだり、かがり火を絶やさないようにしたりするといった役割など持っている。ちなみにレナは不審船の監視や沖で何か異変がないかといったことを見つけて通信用の魔法道具で海防騎士団に通報する連絡員なのだという。
「太平にゃん。戻ったのにゃ?」
「戻ったよ。」
「ちょっと来てほしいのにゃ。」
灯台に戻るとレナに声をかけられた。こんなことは初めてだと思いながらっレナのもとに向かう。
「とても言いづらい話なのにゃ。実は、太平にゃんのいう二ホンという国にいく船が見当たらないのにゃ。」
当たり前といってしまえば当たりまえだ。とはいっても、俺が島国なんてどこも変わらないよといっているため、二ホンなる島がどこかにあるとレナも思っているのだろう。しかし、本当のことを言うわけにもいかない。というよりも言えない。結局はごまかすしかないのだ。
「仕方ないよ。俺だって、ここに来るまでウミシマ王国なんて国聞いたこともなかったし、俺が初めて来た日本人だと思うよ。」
「でも、太平にゃんが来てもう三か月なのにゃ。これだけ期間があればこの島に来る船の大半に情報を流すことができるし・・・。それに何といっても二ホンなんて言う国を知っている者すらいないのにゃ。」
確かに、これだけの期間情報を集めようとしても一向に集まらないとなれば怪しむしかないだろう。俺はなんというべきか悩むが、レナはそんな俺を見て俺に向かって手を伸ばしてきた。
「にゃ!」
「うおっ!」
レナは俺の頭を両手で挟んで自分に向ける。力強いというか、逞しいというか。頭を一切動かせない状態にさせられる。
「ウミシマ王国とは交易がなくても、ほかの国と一切かかわりがないなんてありえないのにゃ。・・・太平にゃん。本当に二ホンなんて言う国はあるのにゃ?」
レナの目は真剣だ。だが、この問いに俺は自信をもって答えられる。
「ある。俺は日本という国からきた正真正銘の日本人だ。」
「・・・。」
「・・・。」
数十秒。いや、数秒だったかもしれないが沈黙が訪れた。そして。
「わかったのにゃ。疑って悪かったのにゃ。」
そういうとレナは俺に背を向ける。それと同時に俺も何とも言えない気持ちになる。俺は彼女にこの世に存在しない国を探させようとしているのだ。俺は立ち上がると、レナの頭に手を置く。
「気にするな。」
二度ほどポンポンと頭をたたき、俺は外に出た。灯台から見下ろせる位置にある港には帆船がいくつも停泊している。しかし、いくら見ても俺の知っている旗を掲げている船はない。どれも知らない国旗、紋章ばかりだ。
もう帰ることはできない。俺は自分の中でそう決めつけてこの世界だけのことを考えようとしていた。しかしレナの問いに答えたとき、あの瞬間、俺の中で日本がはっきりと姿を現したのだ。日本に帰りたい、みんなに会いたい。俺はそんな気持ちを強く抱いたまま、港の帆船たちを見つめ続けた。




