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9 森の中にて


 街から離れた森の中、そこで白神とユキは()き火にあたっていた。


 月明かりの下、並べられているのは様々な荷物。それら全てが濡れていて、まだ水の(したた)っている物もある。


 それらを前にしながら白神は目の前で焚き火にあたっている少女の様子を(うかが)う。ふてくされたような表情のユキ。その体もこちらからわかるほどに濡れていた。


 流れる沈黙。


 このままだと、ずっとこんなどことなく気まずい空気が続きそうだった。しかし、今の状況が続くとこれからのことすらも話しにくそうなので、白神は怒っているであろうユキの機嫌を窺うように話しかけてみる。



「堀に落ちたのは悪かったよ、ちゃんと確認しなかった俺の責任だ。謝るからそんなに怒らないでくれ」


「怒ってない!」



 そう怒ったように言うユキ。どう見ても怒ってるじゃないか、と白神はため息をつく。


 あの後、堀からユキを抱えたままなんとか這い出て、とりあえずこの森の中まで逃げてきたのだが、ユキはずっとこの調子だった。ちゃんと確認せずに着地しようとしたのは白神なのだが、さすがにあの状況なら仕方ないと思う。


 ・・・確かに夏の猛暑で腐ったような臭いを放っていた堀の水にいきなり突っ込んだのだ、怒るユキの気持ちもよくわかるのだが。


 ()くものを渡そうにも持ち物全てが濡れているため、()き火で乾かすしかない。臭いはどうすることもできないが、それでも乾けば少しはマシになるだろう。今は我慢(がまん)してもらうしかないのだ。


 パチパチ、と静かな森に響く焚き火の音。兵士たちが追ってくる気配はなく、辺りに動物の気配もしない。無言のまま焚き火を見つめる白神とユキ。


 体がベタベタして気持ち悪いな、なんてことを思いながら乾くのを待っていると。



「私、体を洗ってくる」



 突然そう言って立ち上がり、歩いて行こうとするユキ。白神は慌てて引き止めようとする。



「待てって、こんな真夜中に動いたらーーー」


「小さいけど水音が聞こえるもの。一人で大丈夫だからついてこないで、体を洗うんだからっ!」



 そう言ってユキは白神が止めるのも聞かず歩いて行ってしまう。とりあえず近くに動物の気配は感じられないが、水辺のほうがどうかはわからない。なにより水辺には危険な生物が多いのだ。



「・・・本当に大丈夫なのか、あいつ」



 今追っても少女は言うことを聞かないだろう。それよりも怒ってさらに森の奥へと行かれたならばさらに危険な事態になりかねない。


 無理にでも止めるべきかと迷う白神。


 そうこうしているうちにユキの姿は見えなくなる。白神は一人、焚き火の前に取り残されていた。



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