14 宿のお礼に
月明かりの下、遠くから聞こえてくるのは獣の遠吠え。
「狼・・・いや、魔獣化してるんだろうな。聞こえてくる限り五、六匹ってところか」
鍋を洗いながら一人呟く白神。
辺りに人の気配はない。村人たちはあの老人が言っていたように、夜は出歩かないようにしているのだろう。魔獣化した狼なんてこれまた面倒な、と白神は一人ため息をつく。
獣の中でも頭が良く、移動範囲も広い狼は魔獣化した場合に非常に厄介なのだ。そして、ほとんどの場合に群れごと魔獣化するため被害は甚大になり、駆除しようにも複数を相手にしなければならないため危険性も高い。大抵の場合、軍や自警団などが連携して狩るのだが、話を聞くにそれは望めないらしい。
洗い物を終え、立ち上がる白神。
遠吠えはまだ遠い。まだ日が暮れて間もないため、これから村の近くまで下りてくるのだろう。
もう少し時間がたってから行くか、と白神は一人計画を練る。とはいえこの辺りの地形をほとんど知らないため、考えているのは出発時間と発見するための方法くらいなのだが。そもそも個人で狩るのだから戦術も糞もあったものではない。
まあ、なんとかなるだろ、と楽観視する白神。
そもそも魔獣化した狼の群れごときに強化兵たる白神が遅れを取るはずがないのだ。それだけの実力はあると自負しているし、そうやって今まで実際に生きてきている。面倒なのは複数の敵を一匹も逃がすことなくまとめて仕留めることだけなのだ。
夜の森で逃げる魔獣と追いかけっこ、みたいなことだけは避けたいな、なんてことを考えながら借りている家に帰っていく白神。
しかし、その時の白神は完全に忘れていた。
その楽観的な予想を打ち砕く、今の白神にとって最大の難問があったことを。




