第六十三話 バカとバカ
どこからどう見ても私よりも強そうにしか見えない魔物たちが怯えているのは奇妙に思えた。色々と積み重ねがった結果、私が壊しただけなのにもかかわらず、私一人であの自動ドアを壊したように思われているのが少しだけ不愉快に感じていた。
今すぐあいつらの前に出て行って文句を言ってやろうかと思っていたけれど、そんな事を考えながらぼんやりしている間にあいつらが目の前に来てしまった。
こうなったら、戦うしか道はない。そう思ったのもつかの間、彼らはなぜか私に対して心配をしているようだ。私と戦う事を望んでいないようだったのに、私の事を心配してくれるという意味の分からない事態になってしまっていた。
「おいあんた、こんなところにいたら危ないぞ。何でも、あの自動ドアを素手で破壊した化け物が侵入したらしい。ケーキ屋のオジサンを脅してたって噂もあるし、あんたもすぐに非難した方が良いぞ」
「魔王様よりも力の強い修羅がここを破壊しに来たって話だし、修羅に見つかったらあんたもただじゃすまないと思うんだ。ココはおとなしく家に帰って引きこもっていた方が良いと思うぜ」
「どんな奴が来るのかわからないが、あんたみたいにか弱そうな女の子はさっさとここを離れるんだな。出来るなら、魔王様のいる場所から遠くに避難した方が良いと思う」
「俺たちに足止めが出来るかわからんが、あんたが逃げる時間くらいは稼いでやるからさ。さあ、さっさとここを離れるんだ」
うーん、魔物ってむやみやたらに人を襲う危ない生物なのかと思っていたんだけど、私の事を守ろうとしてくれているみたいだ。
そんな事をする必要なんてないのにもかかわらず、私の事を一生懸命に守ってくれるというその姿勢にほんの少しだけ気持ちが揺らいだのは嘘じゃなかった。
ただ、自動ドアを壊したのが私なんだよって教えてあげたらどんな反応をするんだろうなとも思ってしまった。
本当の事を言うべきか、隠し通したままでまさ先輩のところへ行くべきか。どちらを選んでも不正解なような気はするし、どちらを選んでも正解のようにも思える。
「何してるんだよ。自動ドアからここまで一本道なんだぞ。今すぐにでも襲ってくる可能性があるんだから、急いでくれよ」
「修羅と戦って生き残ることが出来る者がいるかはわからんが、俺たちの命に代えてもあんたみたいな弱そうな女子は守らないとな。あんたの事を巻き込んでしまったなんて知られたら、みんなに笑われちまうぜ」
「俺だって逃げだしたいんだよ。でもな、あんたみたいなか弱い女の子を見捨てることは出来ないんだ。俺ら魔王様の配下としてのプライドもあるが、男としてのプライドもあるんだからな」
「でもさ、ちょっとまってくれよ。何かおかしくないか?」
「おかしいって、何がおかしいって言うんだ?」
「いや、何がおかしいのかわからないけど、何かがおかしいんじゃないかって思っちゃうんだよ。ほら、お前たちも何か違和感が無いか?」
みんながみんなバカだと助かったかもしれないのに、こういう時に妙に勘が働く者がいるとチームの生存率に大きく関わってしまうんじゃないかと思う。黙ってやり過ごすことが出来れば嵐なんて勝手に過ぎ去っていくというのに、自分から嵐の中に飛び込むような真似はしな方がいいんじゃないかな。
少なくとも、それに気付いた時に少しだけ考えてみたらいいのに。それを言ってしまう事によって、自分の身に恐ろしい事が降りかかるかもしれないという考えには至らないものなのだろうか。
勘の良いバカは長生きできないんじゃないかな。
「おかしいって何がだよ。何もおかしなところなんかないじゃないか」
「いや、でもさ。自動ドアからここまで一本道だろ?」
「そうだよ。それがどうしたって言うんだよ。この曲がり角の先はどっちも一本道じゃないか。なにもおかしなことなんて無いだろ」
「当たり前の話してどうするんだよ。地図にだって自動ドアからこの曲がり角まで一本道だってかかれてるだろ。隠し通路だって無いんだから一本道であってるんだよ」
「その一本道ってのが何か引っかかるんだよ。俺はバカだから上手く説明できなんだけど、何かがおかしいと思うんだ」
「馬鹿野郎。おかしいのはお前なんだよ。魔王様でも壊せないような自動ドアからこの曲がり角まで一本道だって言うのは何もおかしくないじゃないか」
「そうだそうだ。俺だって地図が読めるようになったんだからわかるぞ。ココは一本道であってるじゃないか」
「そうじゃなくて、一本道で自動ドアのところがかすかに見えるのに、自動ドアを壊した奴が見えないのがおかしいって思ったんだよ」
「なんだ、そんな事を心配してるのか。お前はバカなうえに心配性だね。姿が見えないのは当然だろ。いったいどんだけ距離が離れていると思ってるんだよ。一本道とはいえ、ここから自動ドアまでは結構な距離があるんだぞ。姿が見える方がおかしいじゃないか」
「見えなくて当然なんだよ。それに、よく考えてみろよ。魔王様でも壊せないような自動ドアを壊すような奴だぞ。自動ドアを壊すことが出来るってことは体格も凄いと思うし、そんな大きな奴が自動ドアを壊したところでこっちに入ってこれるとも限らないだろ」
「大男が大きすぎてこっちの通路に入れないって可能性もあるだろ。そこを考慮しないからお前はバカだって言うんだよ」
「そうは言うけどさ、やっぱり変だよ。この女の子って、いったいいつどこからやってきたって言うんだよ?」




