第十三話 予想外の行動
メガネの女の子は何かを気にしているのか後ろをチラチラと見ているのだが、心なしかカメラ目線になっていることが多いような気がする。
ハエよりも小さく音も聞こえない設計になっている米国製の令和最新モデルで軍事行動にも使わているので実績は十分なのだが、お兄ちゃんもメガネの女の子もドローンの存在に気付いているような気がする。どんなに用心深い相手でもバレることが無かった代物なのに、二人はどうして気が付いているのだろうか。ゆまはとても不思議に感じていた。
「ねえ、何かわからないけど、さっきまできらきら光ってた謎の物体が後ろに移動しているんだけど。アレって何なのかな?」
「わかんないけど、さっきの人達とは関係ないのは確かだと思うよ。もしかしたら、他の惑星からやってきた未知の生物なのかもしれないよ」
「うーん、まー君が言うとそう言うのも冗談じゃなく聞こえちゃうよね。間違ってたらごめんだけど、まー君って他の惑星で何か凄いことをしてきたとかじゃないよね?」
「ゲームの話?」
「いや、ごめん。今の話は忘れて」
何という事だ。
超小型で最新型のドローンは音も小さくその存在に気付かれる事が無いはずなのに、昼間の日差しをレンズかボディかプロペラが反射してしまっていたようだ。時々画面がホワイトアウトしていたのはそう言うことだったのかと今更ながら気付いたのだが、こうなってしまっては仕方ない。何事も無かったかのように追跡を続けることにしよう。
しかし、さっきからメガネの女の子の言っていることがよくわからない事がある。
お兄ちゃんに特別な能力があるのか疑っていたり、お兄ちゃんが他の惑星で何かやってきたのではないかと聞いてみたり、変な事ばかり聞いてくるもんだ。
お兄ちゃんに何か特別なものがあるのかとすると、私のお兄ちゃんであるということ以外は何もないごく普通の平凡な男の子だと思う。
これから先の事はわからないけど、今のお兄ちゃんは私のお兄ちゃんであるという事実しか存在していない。メガネの女の子の好きな感じに育てようとしても無駄だし、お兄ちゃんが他の惑星に行ったり普通じゃない能力を身につけたりといったあの女の子の好きな感じになんて絶対にさせたりはしない。
お兄ちゃんの将来は私の好きな感じにするって決めているんだから。
「ココが言っていたお店なんだね。こんなところにあるとは思えないんだけど、本当にあってるんだよね?」
「大丈夫。先週もまさ先輩と一緒に来て確認したし、昨日も電話で在庫確認して取り置きしてもらってるから大丈夫だよ」
「あ、そこまでしてくれたんだ。ありがとうね。じゃあ、お店の人を待たせるのも悪いし、さっさと買い物を済ませちゃいましょ」
「そうだね。と、その前に家に電話してもいいかな?」
「別にいいけど、何か用事でもあるなら私が一人で買ってきても平気だよ?」
「用事っていうか、何か必要なものがないか聞いておこうかなって思ってね。この店の商品はうちの家族もお気に入りだからさ」
「へえ、そうなんだ。まー君って意外と家族思いなんだね。じゃあ、先にお店に入って何か適当に見てるよ。別に急がなくてもいいからね。私は用事あるから買い物終わったら帰るし」
お兄ちゃんはうちの家族もこの店の商品が好きだと言っていたけれど、私はこの店の事を初めて知った。お母さんもお父さんもこの店の商品を使っているところは見たこともないし、話に聞いたことも無かった。
いったい誰と勘違いしているのだろうと思いながらぼんやりとモニターの中のお兄ちゃんを見ていると、私のスマホが特別な着信音を奏でた。
「兄貴?」
「えっと、今大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど、どうかしたの?」
「あ、ごめん。ちょっと確認したいことがあってさ、ほんの少しだけ時間貰ってもいいかな?」
「あんまり時間ないんだけど、一時間くらいだったらいいよ」
「さすがに一時間もかからないと思うけど、ありがとう」
「別にいいけど。で、要件は?」
「小さい頃のゆまって、クマのぬいぐるみとか集めてたと思うんだけど、今でもクマのぬいぐるみとか好きだったりする?」
「え、急にどうしたの? いきなりそんな事を言われても困るんだけど。何かあったの?」
「何かあったってわけじゃないんだけど、たまたまクマのぬいぐるみが売ってそうな店に来たから聞いてみようかと思っただけだよ」
「そうなんだ。でも、そんな事に兄貴のお金使わなくてもいいと思うよ」
「その辺は気にしなくても大丈夫。ゆまが喜んでくれそうなものがあったら買うってだけだからさ」
「ふーん、そんなことしても昨日からの気持ち悪い行動を忘れたりはしないけど。他に用事はあるの?」
「いや、それだけなんだ。忙しいのにごめんな」
メガネの女の子と一緒にいるのにもかかわらず、お兄ちゃんは私のためにプレゼントを買ってくれようとしている。昨日の夜から浮かれていたのってもしかして、あのメガネの女の子と買い物に行けるのが嬉しかったんじゃなくて、私のためのプレゼントを買うことが出来るってことで喜んでいたってこと?
もしもそうだったとしたら、メガネの女の子じゃなくて私を誘ってくれたらいいのになって思ってしまった。
でも、メガネの女の子と楽しそうにしているお兄ちゃんを見ていると、まだ油断はしない方が良いなと感じていたのであった。




